第266話 同じ反応
根が増え始める場所を見つけてからは、そこより奥へ寄生個体を無闇に進ませるのをやめた。
代わりに、根がまだ少ない外側を横へ広く調べさせている。甲殻類や魚型だけでは越えにくい場所には水陸両用のトカゲ型を回し、上空からは鳥型を使って、地表へ出ている黒褐色の根を探した。
それだけでも、分かることは増えていった。
「こっちにもあるな」
最初に動く根を見つけた場所からかなり横へ離れているのに、水路の底には同じ色をした太い根があり、途中から泥の中へ消えていた。その周囲では寄生した魚型が水路の端ばかりを通り、甲殻類も近くの泥へ潜ろうとしない。
別方向へ向かわせた個体からも似た反応が返ってきており、根がある場所を一つずつ繋いでいくと、円の端をなぞるように広がっているようにも見えた。
「かなり囲んでるな」
正確な形までは分からない。まだ調べられていない場所も多く、木々や水路の配置によって寄生個体が避けている場所も混ざっているが、奥へ向かうほど根が増え、横へ回り込んでも完全には途切れなかった。
俺は一度その場で足を止めた。今まで見つけた根が全部同じものだとすれば、相当な範囲を覆っていることになるが、見た目が似ているだけでは確定できない。
「繋がってるか、試してみるか」
前回のように太い根へ直接寄生体を入れるつもりはなかった。一度侵入を止めるような反応をされているうえ、どこまで影響が返るのかも分からないため、今回は離れた二か所の根を同時に観察することにした。
一か所目には俺と狼型、蜥蜴人を残し、そこからかなり離れた別の根の近くには巨大な鳥型と水陸両用のトカゲ型を向かわせた。細かな状況までは共有できなくても、寄生個体が急に強く動けばこちらからでもある程度は分かる。
「まずこっちからだな」
目の前にあるのは腕より少し太い根で、泥の表面を二メートルほど這った両端が水中へ沈んでいる。周囲へ甲殻類を近づけても動かなかったため、俺は蜥蜴人へ断骨刀を構えさせた。
「一回だけ切ってみて」
刃が振り下ろされ、根の半分ほどまで一気に食い込んだ。
その瞬間、目の前だけでなく少し離れた水面まで何か所も揺れ、泥の中から細い根が持ち上がった。近くにいた甲殻類が一斉に散り、魚型も水草の奥へ逃げ込む。
「やっぱり反応するな」
蜥蜴人をすぐに下がらせると、追ってくる根はなかった。ただ、傷つけた部分の周囲ではしばらく泥の下が動き続けていたため、俺は意識を離れた場所へ向ける。
少し遅れて、向こうへ送っていたトカゲ型が急に動いた。
「……そっちもか?」
鳥型を高く上げてその場所を確認させる。直接見えるほど近くはないが、寄生個体から返ってくる反応では、トカゲ型が根から距離を取り、周囲にいた甲殻類もそれまでいた場所から一斉に離れていた。
俺は傷つけた根からさらに距離を取って待った。数分するとこちらの根はほとんど動かなくなり、離れた場所の寄生個体も少しずつ元の動きへ戻っていく。
「同時に反応したのか」
一度だけでは偶然かもしれないため、場所を変えることにした。
今度は一時間ほど歩き、別方向で見つけていた根へ向かう。さっき傷つけた場所からはかなり離れており、地表だけを見る限り途中で繋がっているようには見えなかった。
こちらの根は俺の手首ほどの太さしかなく、数本が絡み合うように泥の中を通っている。直接切る前に一匹の甲殻類を根のすぐ横まで近づけ、さらに反対側からもう一匹を向かわせてみたが、根は動かなかった。
「獲物として小さすぎるのか?」
前に魚型を捕まえた時は、もっと細い部分まで動いていた。そこで水陸両用のトカゲ型を前へ出すと、根から数メートルまで近づいたところで泥が僅かに盛り上がった。
「止まれ」
トカゲ型をその場で止めると、根もそれ以上は動かない。さらに距離を少し縮めると、絡み合っていた一本が泥から抜け出し、ゆっくりと先端を持ち上げた。
「距離も見てるのか、それとも振動か」
トカゲ型を下がらせると、根も徐々に元の位置へ戻っていく。
俺は少し考えてから、別方向にいる寄生個体へ意識を向けた。今度はここを傷つける前に、もっと遠くの根の近くへ甲殻類を十匹ほど集め、普段なら近づかない位置で待たせておく。
「これで分かるか」
白い糸を刃のようにまとめ、そのまま目の前の細い根へ振り下ろした。一本が切れるとすぐに泥の下が動き、残った根が引くように沈んでいく。
ほぼ同時に、遠くで待たせていた甲殻類の反応が一気にばらけた。十匹すべてが散り、その近くにいた魚型まで水路の端へ逃げている。
「同じだな」
偶然とは考えにくかった。
離れた場所にある根を傷つけると、別の場所にある根まで反応する。全部が同じ強さで動く様子はないが、少なくとも傷つけられたことに近い情報は、かなり広い範囲へ伝わっている。
「一本の生き物って考えた方が自然か」
俺は切れた根の断面を覗いた。
前に見たものと同じように、内部には太い繊維と細い管がいくつも走っている。透明に近い液体も流れていたが、少し見ているうちに切断面の奥が潰れるように閉じ始め、流れ出す量も急速に減っていった。
「塞いでるのか」
寄生体がまた興味を示す。
今回は触らせずに観察を続けると、数分もしないうちに液体はほとんど出なくなり、切断面の内側が硬く締まった。前に寄生体を入れようとした時、内部から押し潰すように侵入を止められたのも、同じ仕組みなのかもしれない。
「傷ついた場所を切り離せるのかもな」
そう考えると、少し厄介だった。
末端の根をいくら切っても、本体らしい部分まで簡単には影響が届かない可能性がある。一方で、傷つけられたこと自体は離れた場所まで伝わっているため、深く踏み込めば周囲の根がまとめて反応することも考えられる。
俺は周囲の根へ近づかないよう寄生個体へ改めて伝え、ここで実験を切り上げた。
帰りながら、これまで確認したことを頭の中で整理する。
外側では根が少なく、奥へ進むほど太い根が増えていく。その太い部分から細い根が枝分かれし、近づいた生物を捕らえているらしい。さらに離れた場所を傷つけても別の根が同時に反応するなら、点々と存在しているように見えた根は地下や水中で繋がっている可能性がかなり高い。
全部が別々に生えている植物だと考えるより、一つの巨大なものが広がっていると考えた方が説明しやすかった。
「問題は、中心がどこかだな」
上空の巨大な鳥型を奥へ向ける。
今まで探索を止めていた先には木々と水草に覆われた湿地がさらに続いており、地表へ出ている黒褐色の根も、遠くなるほど太くなっているように見えた。
俺はその方向をしばらく眺めた。
「まあ、向こうだよな」
寄生体から、待ちきれないような反応が返ってくる。
「まだ行かないぞ」
そう言ってから、俺は入口へ向かって歩き始めた。
急いで中心へ踏み込む必要はない。こっちには、先に広げられる目がまだいくらでもあった。




