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寄生虫と行く現代ダンジョン  作者: 脳タリン


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第237話 現地ノウハウ ドロップアイテム編

【互助会共有資料】


【現地ノウハウ――ドロップアイテム編】


 探索者が増えたことで、最近は「これ拾ったけどどうすればいいですか」という質問も増えてきました。結論から言えば、全部持ち帰って管理窓口に投げれば大事故になる可能性は低いですが、それでは探索者側が損をすることもありますし、いざという時に使える物まで手放すことになります。


 以下は、現時点で互助会内に共有されている実例と経験則をまとめたものです。今後、新しい事例が出れば内容は変更されますし、最終的にどう扱うかは各自の判断になります。何しろ、ダンジョンから出てくる物に説明書は付いていません。


◇ ① 透明な液体が入った瓶


 現在確認されている中でも、最も扱いに迷う物の一つです。見た目が透明な液体だからといって、すべてが同じ物とは限りませんが、既知の回復効果を持つポーションに近い物だった場合、その価値はかなり高いと考えてください。


 複数本ある場合、一番簡単なのは小型の虫などへ微量を使用して反応を見る方法です。傷を付けた虫へ使い、明らかな回復が確認できた場合、その場で全部売るのはおすすめしません。最低一本は、自分たちの保険として残しておくべきです。


 探索中の重傷は、病院へ運ぶまで生きていられるとは限りません。金に換えた後で腕を食われても口座残高は止血してくれませんので、複数本あるなら一部を正式な検査へ回し、効果を確定させた上で残りの扱いを考える方法が推奨されています。


 逆に、虫へ使っても回復反応がない、あるいは何が起きているのか分からない場合は、それ以上試さず提出してください。回復薬ではない可能性がありますし、「飲んでから分かりました」では遅すぎます。


 実際に人へ使用することになった場合は、命が危険な状況なら記録より使用を優先してください。ただし使用後に余裕があるなら、負傷状態、使用量、回復までの時間、その後の体調などを可能な範囲で残しておくことをおすすめします。


 こうした記録にはかなりの価値があります。国側から見れば、実際の人体への使用例は貴重な臨床情報なので、あなたがポーションを飲んだ時点で、知らないうちに非常に価値の高い実例になっている可能性があります。


 その後、診察や経過観察、採血などへの協力を求められることもありますが、無条件で「はい」と言う必要はありません。情報提供への対価、検査費用、拘束時間、交通費などについては、きちんと相談してください。探索者は身体を張って実例を作っているので、転んでもただでは起きない精神は大事です。


 なお、互助会内ではこうしたケースを俗に『国公認モルモット枠』と呼ぶ人がいますが、管理窓口でそのまま言うのはおすすめしません。怒られはしないと思いますが、たぶん困った顔をされます。


◇ ② 武器・防具などの装備品


 剣、槍、盾、鎧、指輪など、明らかに装備品と思われる物についての基本方針は単純です。平時なら検査を待ち、緊急時なら使ってください。


 たとえば手持ちの武器が折れ、目の前に宝箱から出た剣があり、その向こうからモンスターが走ってきている。そんな状況で「検査結果がまだなので使用を控えます」と判断して死ぬ必要はありません。使ってください。生きて帰った後で怒られる方が、死ぬよりずっとましです。


 一方、安全が確保されている状態なら、その場で何となく装備してみるのはおすすめしません。現在までに、装備した瞬間に外れなくなったり、人格を乗っ取られたり、夜中に勝手に喋り始めたりするような、いわゆる「呪われた装備」の明確な実例は、少なくとも互助会で確認できる範囲にはありません。


 ただし、「今まで無かったから絶対に無い」とも誰も言えません。その場で装備するなら自己責任ですし、特に指輪、首飾り、腕輪など、装着後に簡単に外せない形状の物は少し考えてから使ってください。


 なお、検査に出したからといって必ず特殊能力まで判明するとは限りません。「非常に頑丈です」「妙に軽いです」「材質不明です」という程度の結果だけで返ってくることもあります。それでも、少なくとも毒物や放射性物質を肌に貼り付けて生活する可能性は減ります。


◇ ③ モンスター素材


 牙、爪、皮、骨、甲殻などについては、現在まで一般的なドロップ素材そのものが原因となった重大事故は、少なくとも互助会で共有されている範囲では確認されていません。ただし、だからといって素手で何でも触っていいという意味ではありません。


 たとえば毒を持つ蛙型なら、本体が死んだからといって皮膚に残った毒まで即座に消える保証はありません。毒針を持つ虫型なら死体になっても針は刺さりますし、牙や爪も普通に鋭いので、まずはモンスター以前に危険な生物の死骸として扱ってください。


 現状、一般探索者が素材を持ち帰っても、自分で使える用途はそれほど多くありません。加工設備もありませんし、何に使えるか分からない物も多いため、基本的には国側へ売却するのが一番簡単です。


 ただし、ここからは互助会内のお願いになります。現在、ダンジョン素材を利用した装備製作を本気で研究したいという人たちがおり、鍛冶、革加工、刃物製作などの経験者も参加して、モンスター由来素材を使った装備品の試作を始めています。


 処分予定、あるいは売却価格が低く、手放しても構わない素材がある場合は、そちらへの譲渡も検討してもらえると助かります。丈夫な皮、大きな牙や爪、厚い甲殻、加工可能そうな骨などには特に需要がありますので、詳しくは互助会内の【装備・素材加工掲示板】を確認してください。


 なお、「ドラゴンの牙で剣を作りたいです」という書き込みが定期的にありますが、まずドラゴンを持ってきてください。


◇ ④ その他の用途不明アイテム


 正体不明の石、用途不明の金属板、謎の輪や箱、何か書いてある紙、押していいのか分からない物など、何をする道具なのか見ただけでは判断できない物は一番困ります。こうした物については、基本的に検査を強くおすすめします。


 ただし、一つだけ覚悟してください。検査へ出した場合、珍しい物ほどかなり長い間戻ってこない可能性があります。最初の研究機関で分からず別の研究所へ送られ、そこでまた分からず別分野へ回り、追加試験や再検査、安全確認まで続いた結果、「そういえば去年拾ったあれ、どうなりました?」となることもあり得ます。


 もちろん、返却予定品として提出した物が勝手に国の所有物になるわけではありません。ただし、調べるのに時間がかかる物は本当に時間がかかるので、その点は最初から理解しておいてください。


 待てない場合、自分で使用するという選択肢も一応ありますが、完全自己責任です。何が起こるか分かりませんし、怪我をした場合に健康保険がどう扱われるかは状況次第です。少なくとも生命保険なら死んだ後に役立つかもしれませんが、おすすめはしません。


 そもそも用途不明品は「どうやって使うのかすら分からない」ことも多いため、結局は検査へ回される物が大半です。振る、押す、投げる、舐めるといった方法を片っ端から試す探索方法はやめてください。特に最後は本当にやめてください。


◇ ⑤ 魔石


 魔石を売るか持っておくかは、正直なところ博打です。今後とんでもない用途が発見され、「あの頃、一個三万円で売った魔石が今は三百万円」となる可能性もあれば、探索者が増えて低層産の魔石が大量に流通し、「あの時売っておけばよかった」となる可能性もあり、今の段階では誰にも分かりません。


 ただ、現実的な話をすると、魔石は数が増えるとかなり邪魔になります。重い物もありますし、保管にも手間がかかるため、特に一層や二層など低層で頻繁に得られる種類については、今後探索者が増えるほど供給も増える可能性があります。


 そのため、資産として大量保有するより、国へ売却して装備代や活動費へ回す方が現状では無難です。企業への売却を考えている場合は、個人でいきなり交渉するより槙野さんへ相談することをおすすめします。契約書をろくに読まず、その場でサインする探索者を減らすためでもあります。


 国へ魔石を売却する場合は、どのモンスターから出た物なのか、きちんと記録が残っていると査定上有利になる場合があります。モンスターの種類、何層で倒したか、大きさや特徴、戦闘後どこから魔石が出たかといった情報には研究資料として価値があり、「魔石そのもの」だけではなく「この魔石が何から出たのか」という情報にも値段が付くわけです。


 ただし、記録を残そうとして戦闘直後にスマートフォンを取り出し、写真を撮るのは絶対にやめてください。周囲の安全が完全に確保されていない状態で「ちょっと写真撮るから待って」は通用しませんし、実際にそれをやろうとして注意された例もあります。


 記録を残したいなら、身体や装備へ固定できる常時撮影型のカメラを推奨します。戦闘後に映像を確認し、「この個体からこの魔石が出た」と整理する方が安全です。


 なお、この件について槙野さんの前で「でもスマホの方が画質いいですよ」と言うと、かなり長めの説教が始まります。経験者によると、途中で反論すると時間が延びるそうです。


【最後に】


 ドロップアイテムには、命を救う物もあれば高値で売れる物もあり、今は使い道がなくても将来重要になる物もあります。だからこそ、拾った瞬間に目の前の物へ夢中にならないでください。


 宝箱を開けた直後やモンスターを倒した直後、珍しい物を見つけた瞬間ほど、人は周囲を見なくなります。持ち帰れば金になる物も、研究すれば人類に役立つ物も、生きて帰らなければどうにもなりません。


 まず周囲を確認し、安全を確保してから拾う。互助会として一番共有しておきたいノウハウは、結局そこです。


【追記】


「宝箱を見つけたら、とりあえず槙野さんに連絡すればいいですか?」


 という質問がありましたが、現地から電話しないでください。帰ってからで大丈夫です。

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