第218話 ワーム戦 総力
巨大ワーム型の身体へ刺さった二本の針は、激しく揺さぶられるたびに軸を軋ませていた。
後端から伸びた帯のうち、岩へ固定したものはすでに半分近く切れている。残った帯も巨大な身体を押さえ込めるほど強くはなく、地中へ戻ろうとする動きを少し遅らせるだけで、杭や留め具を一つずつ壊されていた。
それでも、そのわずかな遅れが群体へ攻撃の時間を与えている。
平たい虫型は外皮の裂け目へ脚をかけ、身体を押し込むように傷口へ入り込んでいた。細いワーム型も黒い体液の流れに逆らいながら内部へ潜り、白い糸をさらに奥へ伸ばしていく。
巨大ワーム型が身体を捻るたび、取りついた個体の多くが潰された。
外皮と岩の間へ挟まれ、形を残さず押し潰されるものもいれば、振り払われて砂丘の向こうまで飛ばされるものもいる。それでも、砂中や岩陰から後続が現れ、空いた場所へ次々に取りついていった。
俺は傷口の横に立ち、山刀を深く差し込んだ。
刃を横へ引くと、巨大な針によって割れた外皮がさらに裂け、その下から厚い筋肉が露出する。傷口から噴き出した黒い体液が腕と胸当てへかかり、強い臭いと熱が顔まで上がってきた。
白い糸は山刀の周囲から内部へ広がっている。
入り込んだ先の感覚は、巨大すぎて一つの身体として捉えにくかった。太い筋肉が何層にも重なり、その奥で体液が流れ、節ごとに異なる動きが続いている。細い糸が一本広がった程度では、全体へ影響を与えられない。
だから、同じ傷口へ集中させる。
内部へ入ったワーム型と虫型は、白い糸を周囲の組織へ食い込ませながら、動きを支える筋肉を削っていた。支配するのではなく、傷つけ、切り離し、巨大な身体が思いどおりに動くのを邪魔する。
巨大ワーム型の節が大きく縮んだ。
傷口の左右が盛り上がり、俺の身体を挟み込もうとする。
俺は山刀を抜いて後方へ跳び、直後に閉じた外皮の間から逃れた。傷の中へ残っていた平たい虫型が何体か押し潰されたが、白い糸は内部へ残り、閉じた隙間から細く伸び続けている。
巨大ワーム型は頭部を砂へ向けた。
円形の口が地面を削り、身体の前方が少しずつ沈み始める。岩場を回り込むより、傷を負ったまま砂中へ戻るつもりらしい。
俺は砂丘の左右に待機していた猪型へ意識を向けた。
大型猪型の群れが一斉に走り出し、沈み始めた頭部の側面へ突っ込む。何体もの身体が同じ場所へぶつかり、巨大ワーム型の進路を岩場側へ押し戻した。
衝突した猪型のうち、前列にいた数体は牙を折られ、外皮へ身体を押し潰された。後続は倒れた個体を踏み越え、同じ場所へ体重をぶつけ続ける。
反対側からは大型蠍型が近づき、鋏で節の溝を挟んだ。
巨大ワーム型の外皮を切断できるほどの力はないが、複数の蠍型が違う位置へ鋏をかけたことで、身体を曲げる動きが一瞬だけ止まる。その間に蜥蜴人と四本腕の猿型が五本目の針を運び、最初の傷口から少し離れた節の境目へ先端を合わせた。
針の後ろには、大型猪型が二体並んでいる。
合図を送ると、二体が同時に砂を蹴った。
森砕きの骨で作られた軸が前へ進み、猪型の牙から削り出した先端が節の溝へ突き刺さる。最初は浅い位置で止まったが、四本腕の猿型が軸を固定し、猪型がさらに押し込むと、外皮が裂けて針の半分近くが沈んだ。
巨大ワーム型の身体が跳ね上がる。
針を扱っていた個体はすぐに離れたものの、大型猪型の一体は逃げ遅れ、持ち上がった胴体とともに空中へ運ばれた。帯の留め具が砕けた直後、猪型は岩場の斜面へ落ち、動かなくなる。
新しくできた傷口から黒い体液が噴き出した。
待機していた平たい虫型とワーム型がそこへ集まり、白い糸を内部へ送り込んでいく。巨大ワーム型は二つの傷を同時に閉じようと身体を収縮させたが、筋肉の動きが揃わず、節の片側だけが不自然に沈んだ。
内部へ入った白い糸が効き始めている。
完全に止められるほどではないものの、巨大な身体の動きには明らかなずれが生まれていた。頭部が砂へ潜ろうとしても、後方の節が同じ方向へ動かず、岩場へ擦れたまま前へ進めない。
俺は傷口から離れ、岩場の高い位置へ上がった。
周囲を見渡すと、集めた群体はすでにかなり減っている。
巨大ワーム型の周囲には潰された猪型や蜥蜴人が倒れ、砂の上には蠍型の脚や折れた鋏が散らばっていた。砂中へいた小型種も、巨大な身体が地面へ打ちつけられるたびに巻き込まれ、反応が途切れている。
それでも、後方にはまだ群れが残っていた。
砂丘の陰から次の猪型が立ち上がり、岩場の反対側では蠍型が鋏を広げている。鳥型は巨大ワーム型の頭部の位置を追い、トカゲ型は針や帯を扱う個体の間を走り回っていた。
最初から全戦力を一か所へ固めなかったことで、巨大な身体の一撃を受けても、次の集団を動かせる。
「まだ足りる」
俺は残っている針の位置を確認した。
未使用は四本。
一本は岩場の上、二本は左右の斜面裏、最後の一本は後方へ置いてある。先端や軸に差はあるものの、どれも巨大ワーム型の外皮を貫くために作られたものだった。
巨大ワーム型が再び頭部を持ち上げた。
円形の口が大きく開き、岩場の斜面へ噛みつく。何重にも並んだ歯が岩を削り、砕かれた石が口の奥へ吸い込まれていった。
そのまま頭部を振り上げると、岩場の一部が崩れ、上に置いていた巨大な針が破片とともに落下する。
蜥蜴人たちが針へ走ったが、巨大ワーム型の頭部が先に動いた。
開いた口が、針を運ぼうとした個体ごと岩の斜面を覆う。
俺は風の刃を放った。
透明な刃が口の内側へ入り、柔らかい組織を大きく裂く。巨大ワーム型の頭部が反射的に後退し、蜥蜴人たちは針を置いたまま左右へ散った。
傷ついた口内から黒い体液が流れ、歯の間を伝って砂へ落ちる。
鳥型が上空から降下し、その傷へ爪を立てた。直後に頭部が振られ、何体かは逃げ切れず口の中へ消えたが、残った鳥型は白い糸を口内へ残して飛び上がる。
外皮より柔らかい場所なら、巨大な針を使わなくても侵入できる。
俺は岩場を駆け下り、頭部の側面へ回った。
巨大ワーム型は口内の傷を嫌がるように頭を振り、その動きで猪型や蠍型を近づけさせない。正面へ立てば吸い込まれるが、節と頭部の境目には岩へ擦られた細い傷が残っていた。
山刀を両手で握り、そこへ刃を入れる。
一度目は外皮の表面を削っただけだったが、同じ場所へ何度も振り下ろすと、傷が深くなり、内側から黒い体液が滲み始める。
巨大ワーム型がこちらへ身体を曲げた。
迫ってくる外皮を避けながら岩場側へ走り、追ってきた頭部を残っていた巨大な針の正面へ誘導する。蜥蜴人と四本腕の猿型が軸を支え、後方では猪型がすでに構えていた。
俺が横へ退くと同時に、針が押し出される。
先端は頭部と最初の節の境目へ入り、岩へ身体を擦りつけた傷を押し広げながら深く沈んだ。
巨大ワーム型が激しくのけぞり、針の軸が途中から折れる。
後端へ通された帯は接続部から外れたが、返しのついた先端と折れた骨の一部は身体の中へ残った。そこから新しい裂け目が広がり、白い糸と小型個体が一斉に殺到する。
外側の傷は三か所、口内にも白い糸が入っている。
巨大ワーム型は地上へ出たまま、身体を何度も岩場へ叩きつけた。押し寄せた群体がそのたびに減り、岩も砂丘も形を変えていくが、最初に見せていた滑らかな動きは失われている。
頭部が砂へ潜ろうとしても、傷ついた節がうまく縮まらず、後方の身体だけが横へずれた。地中に残っていた長い胴体が引かれ、遠くの砂丘が次々に崩れていく。
それでも力は残っていた。
巨大ワーム型が地中の身体を強く引くと、刺さっていた針の一本が外皮ごと引き抜かれ、岩へ固定していた杭が帯をつけたまま飛んだ。斜面にいた蠍型が巻き込まれ、甲殻を岩へぶつけながら砂の中へ引きずり込まれる。
留め具が砕けたことで、残りの個体まで持っていかれることはなかった。
小人たちが作った壊れる部分が、ここでも機能している。
巨大ワーム型は崩れた岩場の脇へ頭部を向け、地下の身体を引き寄せながら、少しずつ広い砂地へ移ろうとしていた。
岩場から離れられれば、こちらの杭も帯も使いにくくなる。地中へ戻られなくても、砂だけの場所で暴れられれば、集めた戦力を一度に押し潰される可能性が高い。
俺は残っている群体へ、岩場側から押し返す意図を送った。
猪型が傷ついた身体で立ち上がり、蠍型は残った鋏を外皮の溝へかける。砂中のワーム型と平たい虫型も、巨大な身体の下へ集まり、進路を岩場から逸らさないよう地面を崩し始めた。
群体全体が、巨大ワーム型の移動する側へ回り込んでいく。
戦い始めた時より数は減っている。
その代わり、巨大ワーム型の身体にはいくつもの傷が開き、内部へ入った白い糸が節の動きを乱していた。
俺は残った三本の巨大な針へ目を向けた。
ここまで削っても、まだ倒れない。
ならば、残っているものを全部使い、地中の身体まで引きずり出すしかなかった。




