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寄生虫と行く現代ダンジョン  作者: 脳タリン


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第217話 ワーム戦 対峙

 足元へ伝わる震えは、以前に遠くから感じたものより速く強くなっていた。

 砂中へ散っていたワーム型は一斉に進路を変え、巨大な振動を避けながら岩場の左右へ広がっていく。地上ではトカゲ型が砂丘を越えて戻り、岩陰に伏せていた猪型や蠍型も身体を起こした。

 上空の鳥型は同じ方向へ集まり、巨大ワーム型が進んでくる帯状の区域に沿って飛んでいる。

 まだ姿は見えない。

 それでも、地下を押し広げながら近づく動きは、ここにいるほとんどの個体へ伝わっていた。岩場の周囲に散っていた群れは、俺が細かく位置を示す前から、それぞれの持ち場へ移り始めている。

 巨大な針の近くでは、蜥蜴人と四本腕の猿型が骨の軸を持ち上げていた。猪型はその後ろへ回り、蠍型は帯を固定する杭の近くに脚を広げる。

 小型のワーム型や平たい虫型は、巨大ワーム型が地上へ出ると予想した斜面から距離を取り、左右の砂中へ潜った。最初の衝突へ巻き込まれず、外皮に傷ができてから近づける位置を選んでいる。

 俺は腰へ巻いた帯と留め具を確かめ、岩場の上へ登った。

 遠くの砂丘が、風とは違う動きで崩れている。

 盛り上がった砂が一直線に近づいてくるのではなく、長い身体を左右へ振るたび、離れた場所が順番に持ち上がっていた。その幅だけでも、地中を進んでいるものの大きさが分かる。

 進路は、これまで確認していた通りだった。

 巨大ワーム型は岩場の手前へ向かい、地下に続く岩を避けるため、少しずつ浅い位置へ上がってきている。

 このまま通れば、胴体の一部は地上へ出る。

 ただ、前回と同じように岩へ身体を擦りつけて通過するだけなら、九本の針を使い切る前に砂中へ戻られる可能性があった。

 できるだけ長く地上へ留めるには、岩場へ近づく前から相手の進路をこちらへ寄せる必要がある。

 俺は砂丘の左右に待たせていた大型猪型へ意識を向けた。

 前脚で砂を踏み、決めた場所を大きく動き回るよう伝える。猪型の群れが一斉に立ち上がり、岩場の片側へ集まると、重い身体で砂を蹴り始めた。

 蠍型も鋏と脚を地面へ打ちつける。

 何十体もの大型種が同じ場所で動いたことで、砂を通して大きな振動が広がっていった。

 巨大ワーム型の進路が、ゆっくりと変わる。

 岩場の外側を通るはずだった盛り上がりが、猪型と蠍型のいる方向へ寄ってきた。振動を獲物の群れと判断したのか、地下にいる身体が大きく曲がり、岩場の斜面へ近い位置を進み始める。


「そのまま来い」


 俺は猪型たちを後退させた。

 岩場へ近づきすぎれば、地中から現れた頭部にまとめて飲み込まれる。振動を残しながら少しずつ位置を変え、巨大ワーム型を針の正面へ誘導する。

 地下の揺れがさらに強くなり、岩場の表面から細かな砂が落ち始めた。

 大型種は左右へ分かれ、中央を空ける。

 猪型と蠍型がいた場所へ、巨大な盛り上がりが迫った。

 次の瞬間、砂丘の一部が内側から弾けた。

 砂と小石が高く舞い上がり、その中から巨大ワーム型の頭部が現れる。円形に開いた口の周囲には硬い歯が何重にも並び、砂を吸い込みながら岩場へ向かって身体を持ち上げていた。

 以前に見た時より近い。

 頭部だけでも大型猪型を何体もまとめて飲み込める幅があり、続いて地上へ出てくる胴体も太さがほとんど変わらない。外皮は砂と岩粉に覆われ、節の境目だけが深い溝として見えていた。

 巨大ワーム型は獲物が左右へ散ったことに気づき、頭部を振った。

 その動きだけで砂が波のように押し出され、近くにいた平たい虫型が何体か地表へ弾き出される。岩陰へ伏せていた猪型も身体を押され、前脚を砂へ深く沈めた。

 俺は最初の針を支える個体へ合図を送った。

 蜥蜴人と四本腕の猿型が骨の軸を持ち上げ、巨大ワーム型の節の境目へ先端を向ける。後方にいた猪型が動き、砂を蹴って一気に針の根元へ体重をぶつけた。

 猪型の牙から作られた先端が、巨大ワーム型の外皮へ当たる。

 衝撃は大きかったが、最初の針は表面を滑り、斜めに弾かれた。骨の軸を持っていた蜥蜴人が砂へ転がり、巨大な針は岩へぶつかって先端を欠けさせる。

 巨大ワーム型が身体を捻り、近くにいた猪型へ口を向けた。

 猪型は逃げようとしたが、吸い込まれる砂に脚を取られ、後方へ下がれない。俺は岩場から跳び降り、猪型の前へ入ると、巨大ワーム型の口元へ向けて炎を放った。

 火そのものが大きな傷を作った様子はなかったが、口内へ入った熱と光に反応し、頭部が横へ逸れる。

 その隙に猪型が離れた。

 俺も正面から退き、外皮にある節の溝を見た。

 岩場へ身体を擦りつけたことで、表面の砂と古い外皮が剥がれ、一部だけ内側の色が見えている。


「次は、そこだ」


 狙う位置を意図として送る。

 二本目の針が持ち上がり、蜥蜴人たちが先端を節の境目へ合わせた。今度は猪型だけで押さず、四本腕の猿型が軸を支え、大型蠍型が後端へ身体を寄せている。

 巨大ワーム型が前へ進み、岩場へ沿って身体を曲げた。

 その動きへ合わせ、猪型と蠍型が一斉に針を押し込む。

 先端が節の溝へ入り、外皮を割る音が岩場へ響いた。

 森砕きの骨で作られた軸が大きくしなり、表面へ細い亀裂が走る。それでも先端は抜けず、巨大ワーム型の身体へ半分近くまで沈んでいた。

 後端の穴へ通された帯が引かれ、岩の割れ目へ差し込んでいた杭が一斉に軋む。

 巨大ワーム型は痛みに反応したのか、地上へ出ていた身体を大きく持ち上げた。

 針を押していた猪型と蠍型はすぐに離れたが、蜥蜴人の一体が退くのに遅れ、振り回された骨の軸に弾かれて岩へ叩きつけられる。

 帯が張り詰め、巨大な身体を岩場側へ引いた。

 完全に止まることはなかったものの、砂中へ戻ろうとした動きが一瞬だけ鈍る。杭の一つが岩の割れ目から抜け、別の帯では途中の留め具が砕けたが、針に近い部分は身体へ残っていた。

 その一瞬で十分だった。

 三本目と四本目の針が、左右から持ち上がる。

 一本は外皮の硬い部分へ当たり、先端を折られた。もう一本は最初の針が作った傷の近くへ入り、裂け目をさらに広げながら深く沈んでいく。

 巨大ワーム型の身体から、黒く粘りのある体液が流れ出した。

 砂中へ待機していた小型個体が動き始める。

 平たい虫型が地表へ現れ、傷口へ向かって走る。細いワーム型は砂の下から巨大な身体の周囲へ集まり、外皮と地面の隙間を探していた。

 巨大ワーム型は身体を激しく揺らし、近づいた個体をまとめて弾き飛ばした。何体かは外皮へぶつかっただけで潰れ、別の個体は砂の中へ押し込まれて動かなくなる。

 それでも、後ろから来るものは止まらない。

 倒れた個体の間を別の虫型が進み、白い糸を傷口へ伸ばしていく。外皮の裂け目へ届いたものは、そのまま黒い体液の中へ潜り込み、巨大ワーム型の身体の内側へ消えた。

 俺は巨大な身体の横へ回り、山刀を最初の傷へ振り下ろした。

 表面の外皮を切り広げるだけでも腕へ強い衝撃が返る。それでも、巨大な針によって深く割られた場所なら、何度か刃を入れるうちに内側の柔らかい組織まで届いた。

 白い糸が、俺の腕と山刀を伝って傷口へ入り込んでいく。

 巨大ワーム型の全身を支配できるとは考えていない。

 この大きさでは、内部へ広がるだけでも時間がかかる。それでも筋肉を傷つけ、動きを鈍らせ、地上へ残る時間を少しでも延ばせれば、次の針を打ち込める。

 巨大ワーム型が頭部を持ち上げ、岩場へ叩きつけた。

 衝撃で岩が割れ、砂と破片が周囲へ飛ぶ。鳥型は上空へ逃れ、猪型と蠍型は左右へ散ったが、杭の近くにいた数体は避け切れず、岩片と巨大な身体の下へ消えた。

 帯が次々と切れる。

 それでも、身体へ刺さった二本の針は残っている。

 後続の猪型が新しい針を押し、蜥蜴人と四本腕の猿型が傷口へ先端を合わせる。小型個体は潰された数より多く砂中から現れ、黒い体液に濡れながら外皮の裂け目へ集まり続けた。

 巨大ワーム型はまだ地上にいる。

 岩場を越えようとしていた身体は複数の帯に引かれ、傷口へ入り込んだ白い糸が内部で広がるたび、節の動きがわずかに乱れていた。

 俺は次の針へ手をかけ、正面を向き直った。


 地上へ出すところまでは成功した。


 ここから先は、潜り直す前にどれだけ深く食い込めるかで決まる。群れは巨大な身体の周囲を埋め、開いた傷へ向かって、砂の上と下から絶え間なく押し寄せていた。


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