第216話 重さを揃える
岩場を戦場の候補に決めてから、俺は六層と七層を往復しながら戦力を増やしていった。
六層では拠点へ近づく群れや、七層までの経路を横切る大型種を優先し、狼型や猪型、鳥型、蜥蜴人を少しずつ加えていく。森の奥まで手当たり次第に狩る必要はなく、拠点の周囲を広げていくだけでも、こちらの活動範囲へ入ってくる個体は途切れなかった。
大型の猪型が増えると、森砕きの通った跡を広げる作業がさらに早くなった。低木や細い倒木は猪型が押し退け、蜥蜴人と四本腕の猿型が太い枝を切り、狼型が切り落としたものを道の外へ運んでいく。七層まで大型種を移動させるために始めた作業だったが、道が広がるほど素材の運搬も楽になり、小人たちが作業へ使える時間も増えていた。
蜘蛛型の数も増え、拠点の外周だけでなく、七層へ続く道の途中にも網が張られるようになった。小型種を捕らえる罠として使われるほか、切り分けた骨や外皮を一時的にまとめておく場所にもなっている。網にかかった個体のうち、飛行や索敵に使えそうなものは寄生させ、損傷が大きいものは素材へ回した。
七層では、砂中を進むワーム型と平たい虫型を中心に増やした。地上を走るトカゲ型も数が揃い、大型蠍型は最初の一体を含めて五体まで増えている。
蠍型を相手にするたび巨大な針を使うほどの余裕はなかったため、二体目以降は砂中の個体に進路を崩させ、猪型と蜥蜴人が脚を止めたところへ俺が傷を作った。硬い甲殻を正面から割るより、脚や鋏の付け根、腹側の薄い部分を狙えば、長く戦わずに白い糸を入れられる。
生きたまま寄生された個体は、一分ほどで力を失い、さらに二分ほど経つと再び動き始める。砂色や黒褐色の甲殻は元のまま残り、傷口や動かなくなった関節だけが白い組織で補われているため、数が増えても一面が白く染まることはなかった。
その代わり、群れの中には必ず白い箇所がある。
狼型の首筋、猪型の肩、鳥型の翼の付け根、蠍型の甲殻の継ぎ目、トカゲ型の目元。元の姿を残した個体が動くたび、身体のどこかで白い組織が伸び縮みし、同じものに繋がっていることを示していた。
俺が暗渠へ入れない日も、増えた個体は動きを止めなかった。
六層では鳥型と狼型が拠点周辺を巡り、蜘蛛型の網にかかった小型種を既存の個体が押さえる。七層ではワーム型が入口周辺の振動を拾い、地上へ出てきた敵を蠍型やトカゲ型が処理していた。
すべてが戦力へ加わるとは限らないが、俺が戻った時には、前回までいなかった個体が群れに混じっていることも増えている。簡単な基準だけを伝えておけば、こちらを襲うものを止め、使える個体へ白い糸を入れるところまでは、自分たちで進められるようになっていた。
小人たちの準備も続いていた。
巨大ワーム型の外皮を使った試験で、最初の針は先端の角度が合わず、表面を滑ることが多かった。二本目は牙の刃を短く太くし、三本目からは先端の両側へ細い返しが付けられている。
深く刺さった後に簡単には抜けず、相手が身体を捻った時には骨製の接続部が先に折れる構造だった。針そのものを守るより、帯を身体へ残すことを優先した形らしい。
森砕きの外皮と腱を組み合わせた帯も、以前より厚くなった。途中には一定の間隔で壊れやすい留め具が入り、一本が引かれた時に、繋いだ猪型や蠍型がまとめて地中へ持っていかれないよう工夫されている。
戦場へ持ち込む巨大な針は、最終的に九本まで増えた。
杭と帯、火をつけるための枝束、予備の先端や留め具まで含めると、一度に運ぶには量が多すぎたため、俺たちは何度かに分けて岩場へ資材を移した。
最初に鳥型とトカゲ型を先行させ、巨大ワーム型の振動が近くにないことを確かめる。その後、大型猪型が橇を引き、蠍型が後ろから押し、蜥蜴人と四本腕の猿型が針や帯を支えながら砂丘を越えていった。
六層の個体は砂漠へ入るたび歩き方を覚え、最初の頃ほど足を取られなくなっている。それでも、森に適応した狼型や猪型を長く七層へ残すと消耗が大きいため、資材を運び終えた個体は一度六層へ戻し、別の集団と交代させた。
岩場では、巨大ワーム型が通る斜面の裏側へ針を隠し、帯を岩の割れ目に沿って這わせた。杭はすぐに打ち込まず、相手の身体が地上へ出る位置を確認してから移動できるよう、周囲の岩陰へ分けて置いている。
巨大ワーム型が接近すれば砂の形が変わるため、最初からすべてを固定しても埋められる可能性が高い。道具を扱う個体も同じ場所へ固めず、岩場の左右と後方へ分散させた。
準備を進める途中で巨大な振動を感じた時は、道具を岩陰へ残し、戦力だけを遠ざけた。巨大ワーム型は二度、岩場の近くを通過したが、隠した針や帯を踏み潰すことはなく、戦う前に失う事態は避けられた。
その通過を利用して、地上へ出る位置もさらに絞り込めた。
巨大ワーム型は地下の岩を避ける際、斜面の手前で身体を浅い位置へ上げ、岩場へ沿って大きく曲がる。その間だけは砂中の速度が落ち、長い胴体の一部が地上へ現れる。
九本すべてを同じ場所へ刺す必要はない。
最初の数本で外皮へ傷と帯を残し、動きを鈍らせた後、地上へ出てくる後続の身体へ残りを打ち込む。前方だけに戦力を集めると、長い胴体に押し潰される可能性があるため、傷口へ入る小型種も岩場の左右へ分けて待たせることにした。
道具の配置が終わると、次は戦力そのものを集め始めた。
七層に残していたワーム型と平たい虫型は、巨大ワーム型の通り道を囲むように砂中へ広がった。大型蠍型は岩場の周囲へ分かれ、トカゲ型は入口から戦場までの間を往復している。
六層からは、大型猪型、蜥蜴人、四本腕の猿型、狼型、鳥型を順番に移した。蜘蛛型は砂漠で長く動くのに向いていないため、網を張れる岩場周辺だけに置き、帯と杭を固定する補助へ回している。
最後の集団を連れて岩場へ着いた時、周囲の景色は以前と大きく変わっていた。
岩陰には大型の蠍型が並び、その甲殻の間を長い脚のトカゲ型が走っている。砂中ではワーム型と平たい虫型が動き続け、地表には筋のような移動跡が何重にも残っていた。
砂丘の低い場所には猪型が伏せ、蜥蜴人と四本腕の猿型が巨大な針の近くで待機している。鳥型は上空へ散り、蜘蛛型の糸は岩の割れ目から帯や杭へ繋がっていた。
全体を一度に見るには、岩場の上へ登る必要があった。
俺は斜面を上がり、巨大ワーム型が身体を擦りつけた溝の近くで足を止めた。
そこから見ると、群体は一つの集団には見えなかった。
森から来た個体は岩場と砂丘の陰へ分かれ、七層の個体は地表と砂中に散っている。身体の大きさも姿も違い、整列して待つこともない。
それでも、俺が岩場の周囲へ意識を向けると、離れた場所にいた個体が少しずつ頭や身体の向きを変えた。
蠍型の甲殻が動き、猪型が砂から立ち上がり、鳥型が上空で輪を描く。地表へ出たワーム型の一部が白い補修跡を見せ、その周囲で平たい虫型が位置を変えていく。
巨大ワーム型を初めて見た時、地上へ出ていた胴体だけで森砕きの全長を越えていた。地中へ続く部分まで含めれば、どれほどの重さがあるのか想像もできない。
岩場の周囲にいる個体をすべて合わせても、正確な重さは分からなかったが、大型猪型と蠍型だけで相当な数があり、その間を埋める中型種と、砂中に散った小型種まで含めれば、以前に見た巨大な身体一つより軽いようには見えなかった。
俺は斜面を降り、最初に作られた巨大な針へ手を置いた。
「これなら、足りるか」
巨大ワーム型の正確な全長も重さも分からない以上、最後まで数字で比べることはできない。それでも岩場を取り囲む群体を見れば、戦力を増やし始めた時に決めた基準へ届いたことくらいは分かる。
相手より軽いまま挑むことにはならない。
その時、岩場の上を回っていた鳥型が、一斉に同じ方向へ顔を向けた。
少し遅れて、砂中へ散っていたワーム型の動きが止まる。
足元の砂が、低く震え始めた。




