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寄生虫と行く現代ダンジョン  作者: 脳タリン


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197/422

第197話 火力不足

防護扉が持ち上がる。

最初に外へ出たのは、甲殻型だった。

扉の隙間から平たい身体を押し込み、六本の脚を舗装面へ突き立てる。後ろから別の個体に押され、半ば転がるように地上へ出た。

一体。

二体。

三体目が続く前に、入口正面へ配置された重機関銃が発砲した。


連続した衝撃が甲殻を叩く。

先頭の個体は外殻を砕かれ、身体の半分を黒い液体へ変えて倒れた。二体目も脚を二本失い、その場で横転する。

だが、死んでいない。

残った脚を舗装面へ引っかけ、砕けた身体を引きずりながら前進する。


「撃ち続けろ!」


重機関銃の射手が引き金を押し込む。

弾丸が内部を抉り、ようやく動きが止まった。

その間に、防護扉はさらに持ち上がっていた。

甲殻型の後ろから暗赤色の四脚獣が飛び出す。縦に裂けた口を左右へ開き、砕かれた仲間の間を抜けて走った。

二台の装甲車が同時に車載機関砲を向ける。

短い発砲音。

四脚獣の胸部へ大口径弾が命中し、肉と骨が後方へ吹き飛んだ。

普通の生物なら、その場で即死していた。

四脚獣は前脚だけで二度跳ねた。

下半身を失ったまま、倒れた兵士へ口を伸ばす。

二射目が頭部を砕き、ようやく止まった。


「一体に何発使わせる気だ」


射手が呟く。

答える者はいなかった。

入口の暗闇が動いた。

甲殻型と四脚獣だけではない。

人の胴ほどの太さを持つ白い節足生物が、壁面を這って地上へ現れた。長い身体の左右から無数の脚が伸び、外壁へ貼りつく。頭部は平たい円盤状で、下面に小さな口が幾重にも並んでいた。

その身体には、黒い小型種が密集している。

節足生物が外壁を大きく震わせた。

小型種が一斉に空中へ放たれる。


「上だ!」


掌ほどの黒い影が、入口前の防衛線へ降り注いだ。

兵士たちは空へ銃口を向ける。

発砲するたびに小型種が弾けるが、数が多すぎた。

一体が兵士の首元へ取りつく。

外殻の下から針のような口器が伸び、防護服の継ぎ目へ突き刺さった。

兵士が悲鳴を上げる。

隣の兵士が小型種をつかみ、引き剥がそうとする。

脚が布地と皮膚へ食い込み、簡単には外れない。

銃床で殴る。


一度。


二度。


外殻に亀裂が入っても、口器は抜けなかった。

三度目でようやく砕ける。

首元から血が噴き出した。

その臭いに、地上へ出た四脚獣が一斉に振り向いた。


「負傷者を後ろへ!」


盾兵が前へ出る。

四脚獣三体が同時に突進した。

先頭の一体が盾へぶつかる。

兵士の靴が舗装面を滑る。

二体目が横から回り込み、盾兵の脇腹へ口を開いた。

小銃弾が集中する。

暗赤色の皮膚が裂け、身体へ複数の穴が開く。それでも四脚獣は止まらない。

一体が盾兵の脚へ噛みついた。

もう一体は倒れた負傷者の腕をくわえ、そのまま入口方向へ引きずり始める。


「離させろ!」


兵士たちが追う。

四脚獣の背中へ何発も命中する。

血が飛び散る。

だが、顎の力は緩まない。

負傷者の身体が舗装面を跳ね、入口へ近づいていく。

装甲車の機関砲は撃てない。

兵士と四脚獣が近すぎた。

一人が走り寄り、四脚獣の口へ銃身を差し込んだ。

引き金を引く。

頭部の内側から弾丸が抜け、ようやく顎が開いた。

負傷者を引き戻す。

その直後、外壁を這っていた白い節足生物が落下した。

車両一台分ほどの長い身体が、防衛線の中央へ叩きつけられる。

兵士二人が下敷きになった。

節足生物は身体を曲げ、無数の脚で周囲を薙いだ。

一人の兵士が胸部を打たれ、数メートル飛ばされる。

別の兵士は脚を払われて倒れ、身体の上を何十本もの脚に踏まれた。

小銃弾が白い外皮へ当たる。

表面が削れるだけだった。


「装甲車、撃て!」


車載機関砲が節足生物の中央部へ発砲する。

一発目が外皮を割る。

二発目が内部へ届く。

三発目で節の一つが千切れた。

身体が二つに分かれる。

兵士たちの間から歓声に近い声が上がった。

前半分が起き上がった。

後半分も脚を動かしていた。

頭部を持つ側は外壁へ戻ろうとし、残った側はその場で無差別に脚を振り回す。


「切れても動くぞ!」


機関砲が再び火を噴く。

前半分へ五発。

後半分へ四発。

白い外皮が砕け、ようやく脚の動きが鈍る。

その一体へ火力を集中している間に、入口から新しい群れが流れ出していた。

甲殻型。

四脚獣。

黒い小型種。

白い節足生物。

さらに、二メートルを超える背丈の獣が現れる。

前脚は太く、肩から硬い黒褐色の板が何枚も張り出している。頭部は小さく、首がほとんどない。鼻先から曲がった一本角が前方へ伸びていた。

入口の床へ前脚を置いた瞬間、施設全体が揺れる。


「大型個体!」


黒褐色の獣は防護扉の下を身体で押し上げた。

固定具が音を立てて外れる。

鋼鉄の扉が歪み、片側のレールから浮いた。

獣がもう一度肩を入れる。

防護扉が外れた。

数トンある鋼板が地上側へ倒れ、入口前の障害物と車両を押し潰す。

黒褐色の獣がその上を踏んで外へ出た。

装甲車の機関砲が正面から命中する。

黒い板が砕ける。

獣は頭を下げた。

撃たれた方向を確認するように、身体をゆっくりと向ける。

二台目の装甲車も発砲した。

肩の板がさらに剥がれ、赤黒い肉が露出する。

それでも獣の脚は止まらない。

走り出す。

最初の数歩は遅かった。

その後、巨体からは想像できない速度へ達した。


「退避!」


装甲車が後退を始める。

間に合わない。

一本角が車体前面へ突き刺さった。

金属が潰れる。

装甲車の前部が持ち上がり、そのまま横転した。

車載機関砲の銃身が地面へ折れる。

獣は角を引き抜き、倒れた車両の側面へ前脚を叩きつけた。

装甲板がへこむ。

内部から乗員の声が聞こえる。

二台目の装甲車が側面へ回り、撃ち続ける。

弾丸が肩板のなくなった箇所へ入る。

獣が身体を揺らす。

一歩下がる。

しかし、倒れない。


「対戦車班!」


建物の陰で待機していた兵士が携行式対戦車兵器を構えた。

照準を合わせる。

黒褐色の獣が横転した装甲車へ前脚を乗せる。

射手は息を止め、引き金を引いた。

弾頭が獣の脇腹へ命中する。

爆発が入口前を白く覆った。

衝撃波で周囲の小型種が吹き飛び、窓ガラスがまとめて割れる。

黒褐色の獣の身体が横へ倒れた。

しばらく動かない。


「停止を確認しろ!」


煙が薄れる。

脇腹は大きく抉れていた。

内臓らしいものが舗装面へ垂れ下がっている。

獣の前脚が動いた。

鉤のような蹄が地面を削る。

身体を起こそうとしていた。


「嘘だろ」


二発目の対戦車弾が発射される。

頭部と肩の境へ命中した。

爆発で上半身が砕け、巨体が再び倒れる。

今度は起き上がらなかった。

一体を止めるために、装甲車一台と対戦車弾二発を消費していた。

その間にも、別のモンスターが施設へ入り込んでいる。

甲殻型は倒れた兵士や血の付いた装備へ集まり、黒い器官を伸ばす。

四脚獣は医療区画の壁を破り、搬送が間に合わなかった負傷者を引きずり出す。

黒い小型種は換気設備から管制棟へ入り、職員を襲う。

白い節足生物は車両の下や建物の外壁を移動し、銃口を向けにくい位置から兵士へ落下する。

入口前の第一線は、すでに防衛線の形を失っていた。


「第二線まで下がれ!」


警備責任者が叫ぶ。


「車両を捨てろ! 負傷者だけ運べ!」


兵士たちは退却を始める。

だが、地上へ出たモンスターは無秩序に暴れているわけではなかった。

血の臭い。

人間の声。

車両の振動。

逃げる集団。

反応する対象は異なっていても、すべてが人間の多い場所へ集まっていく。

外周道路では、避難車列がまだ詰まっていた。

先頭車両の事故処理が終わらず、後続のバスや輸送車が動けない。

研究員と民間作業員が車外へ降り始めていた。


「車内に戻れ!」


警備兵が叫ぶ。

その時、管理施設の屋根を越えて黒い小型種の群れが現れた。

数百の影が空を覆う。

羽音はない。

薄い膜を広げ、風に乗るように滑空してくる。

避難車列へ降り注ぐ。

フロントガラス。

屋根。

窓。

人間の肩や背中。

車外にいた職員が両手で頭を守る。

小型種が腕へ取りつく。

別の個体が頬へ張りつく。

口器が皮膚へ刺さる。

職員が倒れる。

周囲の人間が助けようとして集まり、さらに多くの小型種が降りる。

バスの運転手が扉を閉める。

閉まる直前、一体が車内へ入った。

乗客が悲鳴を上げる。

狭い通路で人間が押し合い、後部へ逃げようとする。

小型種は最も近い人間へ飛びつき、首筋へ口器を差し込んだ。

隣の者が鞄で叩く。

外殻が割れない。

別の者が消火器を持ち上げ、何度も殴る。

ようやく潰れた時には、刺された職員は床へ倒れ、身体を痙攣させていた。

外では、白い節足生物が車列へ到達した。

長い身体をバスの側面へ這わせる。

窓の外を何十本もの脚が通り過ぎる。

車内の人間が反対側へ逃げる。

節足生物は窓枠へ円盤状の頭部を押しつけた。

小さな口が一斉に開閉する。

ガラスに細い亀裂が入る。


一度。


二度。


三度目で窓が割れた。


節足生物の頭部が車内へ入る。

先頭にいた乗客の肩へ複数の口が食いついた。

悲鳴。

後方へ逃げようとする人間が転倒する。

その上を別の者が踏む。

外周警備の兵士が発砲する。

弾丸はバスの車体と節足生物の外皮へ当たる。

車内に人間がいるため、機関銃は使えない。

兵士が近づき、窓へ銃口を入れる。

節足生物が身体を振った。

長い尾部が兵士の胸を打つ。

兵士は道路へ倒れ、そのまま動かなくなった。


「車列を放棄しろ!」


外周指揮官が無線で命じる。


「徒歩で南門へ移動! 装甲車を盾にしろ!」


人々が車両から降り始める。

その判断が、四脚獣を引き寄せた。

管理施設から走ってきた暗赤色の群れが、外周道路へ雪崩れ込む。

先頭の一体が逃げ遅れた作業員へ飛びかかる。

背中へ前脚を乗せ、首へ口を開く。

警備兵が撃つ。

一発が肩へ入る。

二発目が脇腹を抜く。

四脚獣は作業員へ噛みついたまま離れない。

別の一体が警備兵へ突進する。

銃を向け直すより早く、脚へ食らいつかれた。

人間とモンスターが入り乱れ、射線が消える。

装甲車の機関砲は使えない。

重機関銃も同じだった。

広い道路に用意した火力が、人間の中へ入り込まれた途端に封じられる。

兵士たちは小銃と銃剣、盾、工具で戦うしかなかった。

一体へ数人がかりで撃ち込む。

倒れたと思った個体が起き上がる。

腕を失っても噛みつく。

腹部を撃ち抜かれても走る。

頭部か身体の中枢を完全に壊すまで止まらない。

弾倉が空になる。

交換している間に距離を詰められる。

負傷者が増える。

血が流れる。

甲殻型が集まる。

警備責任者は第二防衛線から全体を見ていた。


第一線は壊滅。


外周道路も崩れ始めている。

地上へ出た個体数は、すでに百を超えていた。

小型種を含めれば、数える意味もない。


それでも入口からの流出は続いている。


「増援部隊はどこだ」


『北側道路へ到着。装甲車十二、歩兵約二百。現在展開中』


「外周道路へ入れるな。避難民と接触する」


『ではどこへ』


「南側の開けた区画へ回せ。モンスターを人のいない場所へ誘導する」


『誘導手段は』


警備責任者は答えられなかった。

モンスターが反応するのは人間と血だった。

人のいない場所へ引きつける手段など、まだ誰も持っていない。

管制棟から緊急報告が入る。


『内部の監視情報を復旧しました』


「映せ」


携帯端末へ入口内部の映像が送られる。

第一層の通路を、モンスターが埋め尽くしていた。

床。

壁。

天井。

種類の違う個体が互いを踏み越えながら、地上へ向かっている。

その奥に、さらに大きな影が見えた。

通路いっぱいの幅を持つ。

低い天井へ背中を擦りつけ、前方の小型個体を押し潰しながら進んでいる。

映像が揺れる。

一度消え、再び映る。

警備責任者は端末を見たまま言った。


「司令部へ伝えろ」


「何と」


「現有火力では封鎖できない」


近くで爆発が起きた。

横転した装甲車の弾薬に火が入った。

車体が内側から膨らみ、砲塔の一部が吹き飛ぶ。

爆風で周囲のモンスターが倒れる。

甲殻型が転がる。

四脚獣が壁へ叩きつけられる。

数秒後、何体かが再び立ち上がった。

燃えた身体のまま、近くの人間へ向かって走り始める。

警備責任者はその光景を見た。

銃弾は効いている。

機関砲も効く。

対戦車兵器なら大型個体も倒せる。

だが、一体を止めるために必要な弾薬と時間が多すぎた。

こちらが一体を倒す間に、入口から三体、五体と増えていく。

火力が通用しないのではない。

火力を注ぎ込んでも、数が減らない。

外周道路から、避難民の悲鳴が聞こえる。

施設内では銃声が途切れない。

入口の奥では、巨大な影が地上へ近づいていた。


「第二防衛線、後退準備」


警備責任者が命じる。

副官が顔を上げた。


「ここを放棄するのですか」


「施設はもう維持できない」


「入口を明け渡せば、さらに出てきます」


「残れば人間が餌になる」


警備責任者は、負傷者を運ぶ兵士たちを見る。

彼らの後ろを、甲殻型が追ってくる。

機関銃が発砲する。

一体が倒れる。

別の一体がその横を抜ける。


「全員、南側封鎖線まで後退」


命令が各部隊へ送られた。

世界で最初に五層へ到達した中国の管理部隊は、その日のうちに入口施設を放棄した。

残された建物へ、モンスターが入り込んでいく。

医療所。

兵舎。

研究棟。

補給倉庫。

壊れた車両と人間の遺体が散らばる地上施設は、ダンジョン内部と変わらない場所になり始めていた。

入口から、次の大型個体が頭部を出す。

施設の向こうでは、避難車列がまだ完全には動いていない。

モンスターは、そちらを向いた。


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