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寄生虫と行く現代ダンジョン  作者: 脳タリン


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198/422

第198話 占拠線

南側封鎖線へ到着した増援部隊は、管理施設へ続く道路を横切るように展開した。

装甲車十二両。歩兵二百名。重機関銃、携行式対戦車兵器、迫撃砲。さらに後方には戦車部隊と工兵車両が続いている。

道路の向こうから、避難民が走ってきた。

研究員、整備員、輸送業者。負傷者へ肩を貸す者もいれば、靴を失ったまま走っている者もいる。

その背後を、暗赤色の四脚獣が追っていた。


「人間が射線へ入る!」


先頭の装甲車に乗った指揮官が叫ぶ。

車載機関砲は撃てない。

歩兵が前へ出る。

避難民を左右へ誘導し、その間を抜けてくる四脚獣へ小銃を集中させる。

弾丸が皮膚を裂く。

一体が前脚を折られ、舗装面へ倒れた。

倒れたまま、残った脚で進む。


「頭を狙え!」


何発目かの弾丸が縦に裂けた口の奥へ入った。

四脚獣の身体が跳ね、ようやく動きを止める。

その横を二体目が抜けた。

兵士へ向かわず、避難民の集団へ飛び込む。

最後尾にいた作業員が押し倒された。

四脚獣の口が肩口へ食いつく。

兵士が近づき、至近距離から撃った。

背中へ三発。

脇腹へ二発。

四脚獣は離れない。

銃口を頭部へ押しつけ、さらに撃つ。

頭の半分が崩れて、ようやく顎が開いた。

作業員は引きずり出されたが、肩から胸まで深く裂けていた。


「止血! 後方へ送れ!」


救護兵が駆け寄る。

血が道路へ広がる。

その臭いに反応し、管理施設側から複数の甲殻型が向きを変えた。

灰白色の平たい身体が、一斉に南へ走り始める。


「甲殻型、十以上!」


装甲車が射線へ入る。

車載機関砲が短く発砲した。

先頭の二体が砕ける。

三体目は脚を失って転がった。

後続は倒れた個体を避けず、その上を踏み越えてくる。

兵士たちは重機関銃を撃ち続けた。

外殻が剥がれ、内部へ弾丸が入るまで止まらない。

一体へ数十発。

群れを止める間に、避難民が封鎖線を越える。


「最後尾を確認!」


「まだ来ます!」


管理施設の建物の間から、別の集団が現れた。

警備兵に守られた避難民だった。

二十名ほど。

その後ろから、白い節足生物が建物の壁を越える。

長い身体を波打たせ、屋根から道路へ落ちた。

避難民の列が崩れる。

一人が転倒し、その後ろにいた者も巻き込まれた。

節足生物は人間の集団へ向きを変える。


「撃て!」


機関砲弾が中央部へ命中する。

白い外皮が割れ、身体が折れ曲がった。

二発目。

三発目。

節の半分が千切れる。

頭部を持つ側は止まらず、短くなった身体で避難民へ進む。


「まだ来るぞ!」


対戦車班が発射位置へ入る。

だが、節足生物の周囲には人間がいる。

撃てば巻き込む。

歩兵が盾を並べ、避難民との間へ入った。

節足生物の頭部が盾へ衝突する。

小さな口が金属表面を噛み、耳障りな音を立てる。

盾兵が押される。

後列から兵士が銃身を外皮の裂け目へ差し込み、一斉に撃った。

黒い液体が噴き出す。

節足生物が身体を振る。

盾兵一人が弾かれ、道路脇へ転がった。

別の兵士が銃剣を突き立てる。

外皮の隙間へ入っても、抵抗は弱まらない。

機関砲で半身を失った個体を、歩兵二十名近くが囲んで止めていた。

最後の避難民が封鎖線を越えるまで、三分以上かかった。

節足生物の動きが止まった時、盾兵四名が負傷し、一名は腕の骨を折っていた。


「施設側から次の群れ!」


休む時間はなかった。

黒い小型種が建物の上を越えてくる。

空を飛ぶのではない。

高所から薄い膜を広げ、風に乗って滑空している。

数は百を超えていた。


「散開するな! 頭部を守れ!」


兵士たちは顔と首を伏せる。

小型種が装甲車や盾へ当たり、硬い音を立てた。

何体かは兵士の背中や腕へ取りつく。

外殻の下から口器が伸び、防護服の縫い目を探す。

一人が腕へ取りついた個体を壁へ叩きつけた。

二度では剥がれない。

三度目で外殻が割れる。

それでも脚は布地をつかんでいる。

別の兵士がナイフを差し込み、無理やり引き剥がした。

小型種が路面へ落ちる。

踏み潰そうとした靴へ跳びつく。


「火炎放射器を前へ!」


工兵班が携行式の火炎放射器を構えた。

炎が道路を横切る。

黒い小型種が次々に燃え、舗装面へ落ちる。

空中の群れが左右へ割れた。

何十体かは炎を避けて建物へ戻る。

残る個体は、燃えながら地上へ落ちた。

脚を動かし、人間の方向へ這おうとする。

兵士たちが踏み潰し、銃床で叩く。

封鎖線の内側には、すでにモンスターの死体が積み重なっていた。

どれも消えない。

甲殻の破片。

暗赤色の肉塊。

白い節足。

黒く焼けた小型種。

ダンジョン内部なら時間とともに床へ吸収されるはずのものが、地上では形を残している。

道路脇の排水溝へ、黒い液体と人間の血が一緒に流れ込んでいた。

増援部隊の指揮官は、管理施設側を双眼鏡で確認した。

施設はすでに人間の拠点ではなくなっている。

研究棟の窓から四脚獣が飛び出す。

医療棟の前では甲殻型が何かへ群がっている。

兵舎の屋根には白い節足生物が巻きつき、外壁を這う小型種が黒い染みのように広がっていた。

入口からは、絶えず新しい個体が出てくる。


「砲撃準備は」


副官が答える。


「迫撃砲は配置済み。戦車部隊も五分以内に到着します」


「人間の残存者は」


「施設内からの応答はありません。熱源は多数ありますが、モンスターとの区別ができません」


「入口前を砲撃する」


副官が地図を見る。


「管理施設ごとですか」


「建物を残しても敵に利用される。避難路から離れた区画を先に叩く」


命令が送られた。

迫撃砲班が射撃を開始する。

最初の砲弾が研究棟と入口の間へ落ちた。

爆発で甲殻型が吹き飛ぶ。

窓ガラスが砕け、建物の壁が崩れる。

二発目。

三発目。

四脚獣の群れが爆風へ巻き込まれた。

数体が地面へ倒れる。

一体は腹部を裂かれながら立ち上がり、爆発音から逃げるように南へ走り始める。

戦車が封鎖線へ到着した。

道路を塞ぐように並び、砲塔を管理施設へ向ける。


「大型個体、入口前!」


歪んだ防護扉の奥から、黒褐色の獣が現れた。

先ほど倒された個体より一回り大きい。

肩の板は厚く、一本角は車両より長い。入口を出る際に建物の柱へ身体をぶつけ、コンクリートを崩した。

戦車砲が発射される。

砲弾が黒褐色の獣の正面へ命中した。

爆発。

肩の板がまとめて吹き飛び、巨体が後ろへよろめく。

獣は倒れなかった。

頭を低くし、封鎖線を向く。

二両目が撃つ。

脇腹が裂ける。

黒褐色の獣は走り出した。


「三番車、撃て!」


三発目が前脚の付け根へ命中する。

脚が千切れ、巨体が道路へ崩れた。

勢いのまま数メートル滑る。

一本角が地面を削り、舗装を割った。

獣は残った三本の脚で身体を起こそうとする。

四発目の戦車砲弾が頭部へ命中した。

首から上が消え、ようやく動きが止まった。

戦車砲四発。

周囲の建物も爆風で崩れている。

それでも入口から、次の影が見えていた。


「大型が複数いる」


指揮官は双眼鏡を下ろした。

弾薬は無限ではない。

戦車砲なら大型を倒せる。

機関砲なら中型を止められる。

重機関銃を集中させれば小型も処理できる。

だが、必要な弾数が多すぎる。

敵は補給も隊列も持たない。

入口から出てきて、人間へ向かうだけだった。

こちらは一人が負傷するたびに救護と搬送が必要になる。

一両が壊れれば、回収か放棄かを判断しなければならない。

撃ち続けるほど弾薬が減り、砲身が熱を持ち、兵士が疲弊する。

戦車部隊が四体目の大型を倒した頃、施設北側から別の群れが外へ出た。

入口正面の砲撃を避けるように、建物の陰を通っている。


「北側へ回り込んでいます」


「包囲しようとしているのか」


「そこまでの統制は確認できません。ただ、爆発の少ない方向へ移動しています」


モンスターは銃火器を理解していない。

それでも、音と衝撃を避ける個体はいる。

建物を盾にする個体もいる。

甲殻型は車両の下へ潜り込み、四脚獣は歩兵の間へ飛び込んで重火器を使えなくする。

黒い小型種は換気口や車内へ入り込む。

単純に正面から撃ち続ければ終わる相手ではなかった。

北側へ回った群れが、管理施設の外周柵へ到達する。

四脚獣が金網へ身体をぶつける。

一体目では破れない。

二体目が同じ場所へ衝突する。

支柱が傾く。

三体目が飛びつき、金網ごと外側へ倒れた。

モンスターが施設敷地の外へ出る。


「北側封鎖班、接触準備!」


北側には農地と小さな集落がある。

住民避難は始まっているが、完了していない。

装甲車三両が北へ向かう。

歩兵が後を追う。

指揮官は地図上の赤い印を見る。

南側の主封鎖線。

北へ抜けた群れ。

西側の林へ入った小型種。

施設東側に残された避難車列。

戦力が分散していく。


「避難範囲は」


「半径十キロへ拡大済みです。地方政府が輸送車両を集めています」


「完了まで」


「最短でも三時間以上」


「三時間は持たない」


その時、北側から報告が入った。


『四脚型が集落手前まで到達。住民の車両と接触しています』


銃声。

叫び声。

通信が乱れる。


『車両を襲っています! 中に人が――』


「戦車を一両回せ!」


『道路が狭い。進入できません』


「装甲車で押し込め!」


北側へ向かった装甲車が、農道へ入る。

前方には横転した乗用車があった。

四脚獣が車体の窓へ頭を突っ込み、内部の人間を引き出そうとしている。

装甲車は速度を落とさず突進した。

四脚獣を車体と乗用車の間へ挟む。

骨が砕ける音。

後退して、もう一度押し込む。

四脚獣の身体が潰れても、前脚は窓枠をつかんでいた。

兵士が降車し、頭部へ射撃する。

乗用車の後部座席から子供が引き出される。

運転席の男は動かなかった。

助手席の女は肩を噛まれているが、まだ意識がある。

救護兵が止血を始める。

そこへ西側の林から黒い小型種が現れた。

木々の間を滑空し、救護中の人間へ降りる。


「車内へ戻せ!」


兵士たちは負傷者と子供を装甲車へ押し込む。

小型種が車体へ張りつく。

銃眼や扉の隙間を探して動き回る。

装甲車はそのまま後退した。

集落の奥では、別の家屋から煙が上がっていた。

避難前に残された調理火が倒れたのか、戦闘で燃えたのかは分からない。

四脚獣が炎の前を横切る。

身体の一部が燃えている。

それでも走り続け、人間の乗った車両を追っていた。

南側封鎖線では、管理施設への砲撃が続いていた。

戦車砲と迫撃砲によって、入口周辺の建物はほとんど形を失っている。

モンスターの死体が積み重なる。

だが、流出は止まらない。


「航空支援の承認が下りました」


副官が報告した。


「攻撃機二機。誘導爆弾を搭載。到着まで二十分」


指揮官は入口を見る。

歪んだ防護扉。

崩れた研究棟。

その間から湧き続けるモンスター。


「攻撃目標は」


「施設内の大型個体と、入口前の集結地点です」


「入口内部は」


「現時点では対象外です」


指揮官は地図を見た。

入口周辺を地上から叩き続けても、出てきた個体を処理するだけになる。

内部には、さらに多くのモンスターが集まっている。

地上へ出る前にまとめて攻撃できれば、流出量を減らせる。

誰でも同じことを考える。


「入口内部へ爆弾を落とせないのか」


副官の表情が硬くなる。


「ダンジョン内部の構造は不明です」


「だからこそ、入口を崩せばいい」


「撤退した部隊からは、内部構造への大規模攻撃は試されていないと」


「試した者がいないだけだ」


指揮官は上級司令部との回線を開いた。


「地上個体の排除だけでは流出を止められません。入口および第一層への直接攻撃を要請します」


『入口を崩落させるのか』


「はい。開口部を塞ぎ、内部の集団を爆圧で処理します」


『内部に生存者は』


「確認されていません」


回線の向こうで協議が始まる。

その間にも、新たな大型個体が入口から現れた。

黒褐色の獣ではない。

地面を這う巨大な塊だった。

濡れた灰色の皮膚。

前方に並ぶ六本の太い腕。

後部は入口の奥へ続き、全長が見えない。

六本の腕が瓦礫をつかみ、地上へ身体を引き出す。

戦車砲が命中する。

皮膚が裂ける。

巨大な塊は止まらず、崩れた建物を身体で押しのけた。

二発目。

三発目。

腕が一本吹き飛ぶ。

残った腕で地面をつかみ、前へ出る。

戦車一両へ腕が伸びた。

車体の側面をつかむ。

金属が軋む。

戦車が横へ引かれる。

履帯が地面を削る。

砲塔が旋回し、至近距離から撃った。

巨大な塊の上部が爆発する。

腕の力が緩む。

しかし、入口の奥から後部が押し出され、さらに身体が地上へ出てきた。


「直接攻撃の承認を」


指揮官が回線へ繰り返した。


『承認する』


返答が来た。


『航空攻撃により入口を閉塞。周辺部隊を退避させろ』


指揮官は一瞬だけ目を閉じた。


「了解」


命令が全部隊へ伝えられる。

入口から半径五百メートル以内を退避。

負傷者と残存車両を下げる。

戦車部隊も射撃しながら後退を始める。

管理施設は完全に放棄された。

上空から攻撃機の音が近づいてくる。

指揮官は、瓦礫の向こうに開いた暗い入口を見た。

そこへ爆弾を落とせば、通路は崩れる。

入口は塞がる。

中のモンスターも巻き込める。

それで流出を止められる。

現代の軍隊が相手を封じるために選ぶ、ごく普通の判断だった。







誰も、その攻撃をダンジョン自体がどう受け取るのか知らなかった。


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