表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寄生虫と行く現代ダンジョン  作者: 脳タリン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

165/421

第165話 糸を張る

 鳥型を寄生させた翌朝、拠点の上には六つの黒い影が回っていた。

 高く上げすぎると、寄生体から届く感覚はほとんど位置だけになる。高度を下げれば、移動していることや警戒していることは分かりやすくなるが、森の奥までは見通せない。

 俺が鳥型の目で周囲を見られるわけではない。

 それでも、森の上を移動できるものがいるだけで、地上の探索範囲は大きく変わった。

 小人たちは昨夜のうちに、鳥型の脚へ取りつける小さな袋を作っていた。

 最初に飛ばした一羽は、袋を気にして何度も脚を振った。二度目にはそのまま岩壁まで飛び、戻ってくる。中に入れていた小石も残っていた。

 運べる重さは多くない。小人一人を乗せて飛べるほどでもない。

 薬や短い縄、軽い道具なら運べる。

 大型の背へ寄生体を送り込む役には、それで十分だった。

 問題は、寄生させるための傷をどう作るかだ。

 二十メートル級の表面が、普通の獣と同じ硬さとは思えない。鳥型の鉤爪だけで破れる保証はなかった。背中へ取りつけたとしても、振り落とされれば終わる。

 まずは大型の動きを鈍らせる必要がある。

 猪型で押さえる。水で足場を崩す。狼で進路を追う。

 それでも、脚を一度止める手段が足りなかった。

 鳥型のうち四羽を空へ上げ、北東とは反対側の森を探らせる。残る二羽は拠点近くの木へ止めた。

 今日は狼三匹、斥候型、火の術士、水の術士を連れている。

 空へ出した鳥型には、大型の獲物を狙わせていない。森の上を広く回り、異常を感じたら戻る。その程度の意図しか伝えていなかった。

 一時間ほど進んだ頃、一羽の反応が急に乱れた。

 飛んでいる感覚が落ち、高度が下がる。動きが止まった後、強い警戒が伝わってきた。

 残る三羽も周囲を旋回し始める。

 方向を変え、狼を先へ出した。

 鳥型の位置は地上から正確には分からない。森の上を回る三羽の影と、寄生体から届く感覚を頼りに進んだ。

 やがて、木々の間に白い線が見えた。

 細い光が枝から枝へ伸びている。

 一本ではない。

 上を見上げると、十メートル近い高さまで、白い糸が何重にも張り巡らされていた。光の当たり方によって見えたり消えたりするため、知らずに入れば気づくのは難しい。

 その中央で、鳥型の一羽が翼を広げたまま動けなくなっていた。

 片翼と尾羽へ糸が絡み、枝の間へ吊られている。

 残る三羽が周囲を回っているが、近づけば同じように絡め取られる。

 飛ぶものを捕らえる巣らしい。

 糸の太い部分は、俺の指ほどあった。

 近くの一本へナイフを当てる。

 刃は入ったが、すぐには切れない。何度か往復させてようやく断ち切ると、糸が縮み、枝を強く引いた。

 これを何本も脚へ絡められれば、あの大型でも完全には無視できないかもしれない。

 問題は、この糸を作ったものだった。

 斥候型が頭上を見たまま、ゆっくり後ろへ下がった。

 白い糸の向こうで、枝が沈む。

 最初に見えたのは、長い脚だった。

 黒褐色の節が枝を掴み、その後ろから丸い胴が降りてくる。身体の中心だけで人の胴ほどあり、八本の脚を広げると三メートル近い。

 蜘蛛に似ていた。

 一体だけではない。

 鳥型の周囲に二体。さらに太い木の裏側から一体が動く。

 見える範囲に三体いた。

 蜘蛛型の一体が、吊られた鳥型へ近づく。

 前脚で糸を伝い、口元から新しい糸を伸ばした。

 俺は火の術士を止めた。

 火を使えば、蜘蛛型を追い払うことはできるかもしれない。だが、欲しい糸まで燃える。

 水の術士へ、吊られた鳥型の周囲を濡らす意図を伝える。

 杖が上がり、水の塊が糸へぶつかった。

 白い網が大きく揺れた。

 蜘蛛型が一斉に動きを止める。

 水を受けた糸は重く垂れ、鳥型の身体が少し下がった。

 俺は狼を左右へ分け、斥候型を木へ上げる。

 蜘蛛型を殺さず、地上へ降ろす。

 鳥型には翼を畳む意図を伝えた。

 絡め取られた一羽が身体を縮める。糸へかかる面積が減ったところで、ナイフを持って木へ登った。

 狼を吸収してから、足場の選び方は地上だけでなく木の上でも役に立っている。枝の太さを見て、重心を移す。蜘蛛型ほど自由には動けないが、以前より迷いは少ない。

 吊られた鳥型へ近づき、翼に絡んだ糸を切る。

 背後で枝が震えた。

 蜘蛛型が糸の上を走ってくる。

 一本の糸だけを踏んでいるとは思えない速さだった。

 俺は鳥型を抱え、下の水場へ落とした。

 水の術士が作った浅い泥へ鳥型が落ちる。狼が近づき、翼へ残った糸を噛んで引いた。

 蜘蛛型の前脚が俺のいた枝へ突き刺さる。

 先端には、黒い鉤のような爪がついていた。

 身体を下げて避け、脚の関節へナイフを当てる。

 深くは切らない。

 表面へ傷ができればいい。

 白い糸を送り込もうとした瞬間、蜘蛛型が脚を引いた。

 距離が足りない。

 蜘蛛型は別の糸へ移り、俺の頭上へ回る。

 口元が動いた。

 白い塊が飛んでくる。

 腕で顔を守ると、粘つく糸が袖と木の幹をつないだ。

 引いても外れない。

 蜘蛛型が糸を縮め、俺の身体を枝から引き上げようとする。

 ナイフで袖を切り、そのまま枝を蹴った。

 落ちながら、蜘蛛型の腹へ手を伸ばす。

 指先が届いた。

 傷は小さい。

 それでも寄生体は入り込んだ。

 俺は地面へ着地し、膝を曲げて衝撃を逃がす。

 頭上で蜘蛛型が暴れた。

 脚が何本もの糸を引き、網全体が揺れる。残る二体も動き出し、枝の上からこちらへ糸を飛ばした。

 水の術士が地面を濡らし、飛んできた糸を重くする。火の術士は炎を小さく出し、俺たちの退路へ張られた一本だけを焼き切った。

 寄生体を入れた蜘蛛型の動きが弱まる。

 やがて枝へ伏せたまま止まり、数秒後に脚を動かした。

 残る二体を殺さず捕らえる。

 その意図を受けた蜘蛛型は、糸の上を走った。

 仲間へ直接飛びかかるのではない。相手が使っている糸を切り、別の糸を張り直す。

 一本の足場を失った蜘蛛型が、低い枝へ落ちた。

 斥候型が上から石を落とし、狼が地上から吠える。

 蜘蛛型が逃げる方向を変えたところへ、水の塊が当たる。濡れた脚が枝から滑り、地面へ降りた。

 俺が前へ出て脚の付け根へ傷を作る。

 二体目へ寄生体が入った。

 二体になれば、残る一体の動きを抑えるのは難しくなかった。

 巣の糸を切る。進路へ新しい糸を張る。残る一体が木の幹へ移ったところで、上下から挟む。

 三体目を寄生させた時には、森の一角に張られていた網の半分が崩れていた。

 蜘蛛型たちはすぐに巣を直し始めた。

 俺が命じたわけではない。

 切れた糸を口元へ運び、新しい糸を枝へ固定していく。元から持っていた習性が、そのまま残っている。

 鳥型の翼へ絡んだ糸も外させる。

 細かな作業だったが、蜘蛛型は自分の脚と口を使い、羽根を傷めずに糸を剥がした。

 試しに、二本の木の間へ低く糸を張る意図を伝えた。

 三体は別々の場所から動き始めた。

 一体が幹へ糸を固定し、もう一体が反対側へ運ぶ。最後の一体が途中へ糸を重ねる。

 出来上がったのは、俺の腰ほどの高さに張られた太い線だった。

 狼へ手前で止まるよう伝え、近くにいた猪型を一匹だけ呼び寄せることを考えた。

 今日は連れてきていない。

 代わりに、切り倒されていた太い木へ糸を巻かせた。

 三体で幹と倒木を何重にもつなぐ。

 俺が倒木を押す。

 最初は動かなかった。

 力を込めると糸が伸び、幹がわずかに軋む。それでも、すぐには切れない。

 二十メートル級を完全に縛るのは無理だ。

 一本の脚へ何重にも絡め、木や猪型へつなげれば、一歩を遅らせることはできる。

 一歩でいい。

 その間に別の脚へ糸をかけ、鳥型を背中へ降ろす。

 必要だった役割が、また増えた。

 三体の蜘蛛型を連れて拠点へ戻る。

 鳥型は一羽だけ低く飛ばせた。翼の糸は取れているが、羽根が乱れている。しばらく休ませた方がいい。

 拠点へ着くと、小人たちは蜘蛛型を見たまま動かなかった。

 狼や猪型、鳥型とは反応が違う。

 八本の脚が同時に動く姿は、小人たちにも受け入れにくいらしい。

 一体が口元から糸を垂らす。

 小人たちは一歩下がった。

 そのうちの一人が、落ちた糸を木の棒で持ち上げた。

 引っ張る。

 切れない。

 別の小人が近づき、今度は二人で引いた。

 さらに三人目が刃物を持ってくる。

 警戒していたはずの集団が、少しずつ糸の周囲へ集まり始めた。

 俺は蜘蛛型を拠点の外側に待機させる。

 小人たちの生活圏へ自由に入れるには、まだ早い。噛まないこと、勝手に巣を張らないこと、他の眷属を餌と見なさないことを何度か伝える必要がある。

 小人たちは、離れていく蜘蛛型より、地面に残った一本の糸を見ていた。

 狼は乗り物になった。猪型は丸太を引いている。鳥型には袋がついた。

 蜘蛛型が何にされるかは、考えたくないような、少し見てみたいような気がした。

 北東へ向かうための準備は揃ってきた。

 次は、増やした駒をどう動かすかだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ