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53話 ディルの決意

マリアは新しい手足を順に動かし今は歩く練習をしている。長く手足を失っていたせいでうまく歩けなくなっていたが、しばらくすると普通に歩けるようになっていた。人間ってすごいな…


「それで、主人よ。これからどうするつもりじゃ?」


「あ、ああ…そうだな…解放されたいやつは自由に解放してやってもいい。」


「わかりやした。皆にそう伝えてきやす。」


俺の発言を聞いて、すぐにランドルフが動いてくれる。あいつは気がまわるな。

騎士団の連中は俺の配下に置くつもりだから、解放する気はない。まあ、死んでも構わないしな…


「まあ、解放はされたいという変わり者は少ないじゃろ…」


「ん?どうしてだ?」


「主人は知らぬか…一度でも奴隷になったものはステータスに元奴隷と出る。そのせいで、職に就くことも家を借りることもできぬ。厄介な存在だからの…ギルドではそんなこと関係ないから、男は奴隷解放は望むかもしれぬが…女な子供はどう想像しても不幸な未来じゃ…しかも、ウェッタ出身の奴隷となればなおさらじゃ、一人じゃ生活できぬ。それなら、人として最低限度の生活基準を守る義務がある主人に仕えていた方がいいじゃろ。それが奴隷じゃ」


「そうか…それとウェッタ出身の奴隷は他とは違うのか?」


「ウェッタといえばこの世界…まあ、人間の住む世界じゃが、その中で『ウェッタ』という国は強大な力を持っている。何万、何十万もの兵を持つ。つまり、「ウェッタに睨まれるのが怖い」から国は奴隷を受け入れない。」


「そうか…」


「まあ、仕方あるまい。おお!そういえば主人の名を聞いておらんぞ?…」


くらい話を紛らわそうとトーンを高くして俺に聞いてくる。明るい爺だな。


「…ああ。俺の名は…ディル=アヴィオール=ドラキュースだ…」


俺が名乗った瞬間、空間が凍りついた。先まで騎士団の奴らはのんきに話をしていたり、ベテルギウスが柔和な笑みを浮かべていたが、今は全員が顔面を青くし固まっている。


「アヴィオール!?」


「詳しくは後で話すが…俺に権力とかはないぞ。まあ、あっても使う気はない。」


しかし、空気は変わることなく冷たさを増す。すると、先ほど奴隷に話をしに行ったランドルフが笑顔で俺たちが話す牢に戻ってきた。その後ろには多くの奴隷が一緒だ。皆やせ細り、目は生気が感じられない。


「全員奴隷解放は望まないそうと申しておりやして…。?皆皆さま、どうしたんで?そんな顔されやしても…えーと?」


「そうか。ありがとうな、ランドルフ。」


ランドルフは首をかしげながらも、照れたような笑みを浮かべて俺の傍に立つ。

俺はそっと一人ひとりの顔を覗く。怪我をしている者が多く、食事もとっていないのかやせ細っている。これは…かわいそうだな…

大きく頷くと声を出す。なるべく全員に聞こえるように


「今ここで、奴隷解放を望まなければ解放はしないぞ。それでもか?」


皆覚悟の上なのか何も言わない。そこで俺はもうひとつ脅しを入れることにする。


「俺は魔…「主人よ。それはワシがすでに言い聞かせてある。先ほどどこかに去った際に」


「じゃ、じゃあ、こいつらは魔族かもしれないとわかっていながらも、俺についてくるというのか?」


俺の発言にベテルギウスがかぶせてくる。しかし、理解できない…人間は魔族を忌み嫌うのだろ?ウェッタの奴隷になると、ここまで未来に絶望するか…今の俺は子供で、しかも魔族と関わりのあるのに…

俺は決意をする。こいつらを満足のいく人生だったと言って死ねるようにしてやろうと。

俺がウェッタの城でローズにたくさんの愛をもらい、シリウスやウオッカに色々なことを学んでいる時こいつらは裏で人生に絶望していた。そう思うと、ほおっておけない。偽善でもいいウェッタの被害者は、こいつらだけじゃない。俺もだ。

すると、装備を着せた男が俺の顔にガンつけながら前に出てくる。


「魔族だろうとなんだろうと、ウェッタに捨てられた俺たちは死んだも同然。それに、お前ほどの剣の腕前。そして、母親を助けるためだったんだろ?全部聞いたぜ。それを含めて俺はお前についてく。」


すると、兵士の装備を着た男がそう言うと、右膝をついて頭を下げる。それに合わせて後ろにいた奴隷たちも同じように右ひざをついて頭を下げる。傍にいたランドルフも、マリアも騎士団も…


『説明します。奴隷が右膝をついて頭を下げるのは服従を表します。膝が逆の場合は、意見の申し立て。両膝は謝罪ですね』


「お前たちの思いは、よくわかった。よろしく頼むぞ!」


しかし、周りは皆死んだ目をしている。まあ、そう思うだろうな…

すると、急にマリアが俺に声をかけてくる。かなり焦っているような表情だ。


「ディル、ここにウェッタの貴族がくるわ…人数は4人…」


なぜそんなことがわかるか聞きたかったが、マリア自身もわかっていなそうな表情だったので疑問を一旦飲み込む。

そして、俺は一瞬だけ闇魔剣士になると『影渡り』を使い自身の影をデュークの屋敷の影と繋げる。


「お前たち、早く俺の影を踏め。まずはランドルフ!お前が先に行き、スペースを確保して、人数を確認しろ。わかったな!」


「へ、へい!」


ランドルフは深く深呼吸すると、俺の影に足を踏み入れる。すると、スルスルと影にランドルフの体が入っていった。地面かと思っていたランドルフは地面がなく、沈んでいく体が理解できずもがきながらも地面に吸い込まれていく。それを見た奴隷たちは一気に顔を青くして怯え、誰もランドルフに続かない。

俺が焦っていると、ベテルギウスが何の躊躇もなく俺の影に入っていく。まるで面白いアトラクションに乗るかのように純粋な笑顔で…。それに感化したのか騎士団の連中も「チクショウ!」や「神よ!」などと叫びながら影に入っていく。その勇気のおかげで、皆が決意し俺の影に入っていく。小さい子供から、年老いた老人まで…そして、最後に…マリアだ。マリアは俺の顔を見ながら、優しい笑顔を見せる


「うふふ…本当にデューク様の子ね…そっくり…」


そっと俺の顔を優しく撫でると、そのままゆっくりと俺の影に入っていく。まあ、本当にお父さんに似てるからな…


「さてと…お前たちもだ。」


俺は檻から魔物を出す。皆、俺になついているようで傍までやってくる。俺の指示を出すと、人間より早くスムーズに俺の影に入っていく。少し行き先は、変えてある。全員をしまい終わると、マリアがくると言っていた貴族を待つ。

聞き出すためだ。

俺は店にあった安い防具の甲冑をかぶり顔を隠す。


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