51話 禁忌な治療
要するに墓場には多くの死者が眠っていて、この世界では土葬される奴は結構身分が高い。身分が高いやつほど、美味いスキルを持っている。そんで墓場を守る『墓守』は墓守独自の継承スキルと武具を持っており強いが、得られるスキルもいいと…
まあ、利点だらけだな。そういえば、肉体が残っていなくても魂記録はできるのか?一般人は火葬って聞いたが…
『お答えします。可能といえば可能です。やり方は、職業『霊媒師』の「降霊術」「降霊魔法」などで魂を呼び出し現世に留めます。その後、魂の生前に思い入れのある物を手を触れながら魂に触れると記録することができます。物を肉体と置き換えるわけです。』
いまいち分かんないな…俺の中だと、天国とか成仏する前の魂を手に入れてるって感覚だったが…。死んで肉体もない存在も魂記録できるのか…人は死んだらどうなるんだ?…なんで魂記録うなんてスキルがあるんだ?
『お答えします。この世界に天国はありません。魂記録に保存されるのが一番の救いだと思います。なぜ『魂記録』というスキルがあるか…一つ言えることは、この世界の神は無能ということです』
わけがわかんないな…まあ、ロットがどんどん感情的になってきているのはわかる。相変わらずの抑揚のない棒読みな声だけど…
詳しく聞こうとしても、その後ロットが話すことはなかった。最初と比べるとだいぶ打ち解けてきたな…いつか聞ける日が来るだろう…
考えるのを止め、意識を戻す。かなり飛ばして帰っていたので、すでに奴隷商の建物付近についた。そっと建物と建物の間に着地する。未だ何の騒ぎもない商店街から奴隷商を殺したことはバレていないようだ。俺は素早く、奴隷商の建物に入っていく。
すると、多くの視線が俺に集まってきた。武装しているものや檻から出ていた奴隷が俺を見てくる。皆敵意はなく、ただ伺っているような目だ。まあ、そんなことは無関係とマリアのいる部屋に向かおうとすると奥からここを出る前に話しかけてきた男が出てくる。男は俺を見ると、すぐに駆け寄ってきて片膝をついてしゃがむ。
「言われた通り、兵士ってか傭兵の装備を腕の立つやつに着せて武装させやした。そんで傭兵は奥の牢にぶちこんでおきやした。」
「そうか…ご苦労。」
俺は適当に話を聞きながら、マリアのいた奥の牢に向かう。そのあとに男も続く。
牢のある通路に入ると、先ほどまで喰い殺さんとばかりに吠えていた魔獣も頭を伏せて静かにしている。これが奴隷契約か…かなりすごいな…魔獣はテイムじゃないのか?
『お答えします。テイムは友人に近い信頼関係を築いた動物と人間の契約で、魔獣の隷属化は強制的に本能に主人と認識させる契約です。』
ふーん…まあ、いいか。
ロットの説明を聞き流しながら、牢の奥に着くと数名の女と一人の老人がマリアに何か魔法のようなものをかけていた。回復魔法だろうか、淡い光がマリアを包んでいる。俺がゆっくりと老人に向かっていくとすぐに後ろにいた男がすぐに俺の前に出て、両手を広げかばうように俺に立ちはだかる。
「こいつらは、この女の怪我を治してやってるところでさぁ。勝手な判断だっとわかっていやすが…命は大切なもんですんで…こいつらに罰とかは…その…」
「何を言っているんだ?罰するとか意味がわからん。」
俺は呆れ顔で男を脇を通り抜けると、治療をしている老人の元に向かう。男は水を掛けられたような表情で固まる。
マリアの様子はどうやら寝ているのか目を閉じている。良く見ると、老人は聖魔法のようなものを使い、周りの女たちは手足を綺麗な布で拭いている。俺はそっと老人に近づくと肩をたたく。
「助かった…感謝する…」
「何じゃ?…おお!主人か。出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ない」
「いや、助かった。俺の母さんなんだ…」
「そうですかい…しかし、失った手足や耳や目は治せぬ…それに完璧には治せぬ。持って数刻じゃろ…わしの友に頼めればいいのじゃが…」
老人は片手で聖魔法をかけながら、もう片方の手を顎に乗せ考えている。器用なものだ…
しかし、手足がなければ動くこともできない。耳と目がなければ生活も困るな…どうにかできないものか…
『お答えします。今の状況ですと可能といえば可能です。ですが、それなりのリスクがあります。』
治るのか?…ざっくりでいい。内容を教えてくれ
『ざっと説明しますが、まずスキル『吸血』で、女性を堕人の吸血鬼にして身体能力を上げてから、先ほど手に入れた白魔法の『縫合』で欠損部位を代わりを縫い付けます。まあ、人型なら魔物でも人でも大丈夫ですが、『黒い吃驚箱』に人間の死体がないので昔倒した大鬼オーガやオークの部位をくっつけると治ります。目や耳は白魔法の『移植』を同じように使用します』
『吸血』って吸血鬼になるのか。確かに聞いたことがあるな…しかし、いいのか?…
仮に吸血鬼にしたとしてもマリアの腕に鬼のような腕はつけたくないし…てか、気持ちが悪な…
まあ、他の部位ならまだマシか…目と耳と喉か…『移植』ってどうやるんだ?てか、大丈夫だよな?…血とか違うけど…
俺が頭の中で必死に悩んでいると、ロットの声が頭の中で響く。
『お答えします。ですが、このままだと長くは生きられないでしょう。』
っち…脅しか…。抑揚のない棒読みが、今回は迫力が出る。ここで決断しなければマリアは死ぬ…。見殺しでもいいのか?…
わかった。やるか…詳しく教えてくれ…
『はい。では、まずスキル『吸血』で女性の血を吸ってください。少しでいいです。』
「すまない…どいてくれるか…」
俺の言葉に老人は一瞬驚くも、すぐに後ろに下がる。そっとマリアの首すじに『吸血』によって鋭く変形した犬歯を突き刺し、飛び出る鮮血を啜る。すると、マリアの体は一瞬上に跳ね上がると痙攣のように体を震わせ始めた
『はい。成功です。血を吐き出してください』
俺は吸ったマリアの血を口から吐き出す。周りで見ていた女たちは集まり、俺の歯を見て怯えている。一方、老人は興味深そうに俺を見てくる。この老人は何者だ?…まあいい。
『はい、では次に『黒い吃驚箱』から『移植』する死体を取り出してください。』
魔物か…オークは…却下だな…オーガって確か、終生の森で倒したやつがいたな…あいつにするか…
俺は『黒い吃驚箱』からオーガの死体をマリアと同じ向きに寝かせるように出す。突然出たオーガの死体に女性達は大きな悲鳴をあげ、さらに震える。老人は目を大きく見開くと、にゃりと気持ち悪い笑みを作る
『では、オーガの『移植』したい部位に触れ、もう片方の手で患者に触れてください。鼓膜など触ることができない場合は頭の中で念じてください。』
ここが難しいな…鼓膜がダメなのか、他の部分もダメになっている可能性もあるしな…なら、耳の形は聖魔法で戻っているし、中の耳の構造全てを取り替えるか…
俺はそっとオーガの耳とマリアの耳に触れスキル『移植』を発動すると、解体図が頭に浮かんできた。おそらく、どこを移すかということか…えーと…耳の器官全部か…よし。
『『移植』』
すると、オーガの耳から、何かが自分の腕を通りぬけ、マリアに入っていく感じがする。おそらく成功だろう。結構あっけなかったな…
周りの女たちはすでに気を失っている。爺さんは、感心したような表情だ。
「主人は、光魔法を持っているのか…母親じゃ禁忌を犯しても救いたいのが情じゃろ…しかし、オーガの肉体を移植するとは…主人は魔族か?」
「半分魔族で、半分人間だ。肉体は人間だが…」
「ははは!面白い。ワシの名前はベテルギウス=ハーシェルじゃ。これからよろしく頼む」
ベテルギウス?…どこかで聞いた名前だな…まあ、忘れた。
その後、俺はマリアの目と喉を治して終わった。
「さて…では、ベテルギウス…母さんを頼む。」
マリアを治してから、俺は立ち上がり控えていた男に話しかける。男は膝をついた状態で答える。なにこの忠実な犬みたいなおっさん…
「あんたは名前は?…」
「あっしは、ランドルフと申しやす。」
「奴隷になる前はなにをしていた」
「ギルドの頭領をしてやしたが、少しありやして…。」
「少し?…」
すると、自虐的な笑みを浮かべると話し始めた。
「妄言狂言だと思いやすが、聞いてくだせえぇ。エルフのあの事件はウェッタが策略したことなんでさぁ。あっしはそれに気付きやして、エルフに古い親友ダチがいるもんで、なんとか阻止しようとしやしたがウェッタの特殊兵に捉えられこのざまでさぁ…」
「そうか。その話は知っている。…『ネイル家』といえばわかるだろ?…」
俺の発言を聞いたランドルフは俺をつかみかかると、必死に頭を下げてくる。お前はなにもしていないというのにここまでエルフに謝れるのか…
「ネイル!あの家族は…犠牲者なんでさぁ…本当に申し訳ねぇ。人間は本当に最低だ…しかし、奴隷になったもんは仕方がねぇ。この身果てるまでお力になりやしょう!」
「そうか。お前とは気があいそうだ。よろしくな…それと、あの傭兵たちはどこだ?」
「先程言ったように、1番奥の部屋の檻に閉じ込めてありやす。」




