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2. 死者の羽衣⑤

高校二年生の終わり頃には、私は組織内でそれなりの地位を獲得しておりました。


年に一、二回だった会合も四回に増え、会誌の刊行ごとに、前回の会合の様子が克明に記載されるようになりました。会合の参加希望者も増えてしまったため、この頃からは人数を制限し、抽選制といたしました。

組織の人数も、私がはじめに参加した時には二十名にも見たない人数でしたが、その頃には倍以上に増えており、加入希望の問い合わせも、こない日はないといったような状態だったそうです。


会誌の内容は、私が入った当初のような混沌としたものから、徐々に洗練されていき、ひとつの方向性のようなものを見出しはじめておりました。

それは、外側から見れば私を教祖として祭り上げた宗教団体のようなものでした。


私は、私自身をアレから守るための方法を得るために叩いた扉の先を、あろうことか私の家としてまったのです。

しかしそれが、予期せぬ方向で私の身を守ることに繋がったのも事実です。


まずは、最初の会合の後、何があったかをお伝えいたします。


しばらく平穏な日々を送ることができました。

私の指先に『はごろも』の力が戻ってきた、というのが大きかったのだと思います。


組織からの会誌は届いていたものの、以前よりも熱心には参加しなくなりました。

というのも、前回の会合に参加したところ、めぼしい人もいることはいたものの、改めて私が教えを乞うような人物はいなかったという結論に達したからでした。

私があの方に最初に教わった『はごろも』にすら一喜一憂する人達に、それがなかったらこれまで生きてこれたかもわからない日々を送ってきた私を救う方法があるとは思えないからです。

ましてや、死者の羽衣という呪法から脱する(すべ)など、望むべくもありません。


しかし、そうした私の思惑とは裏腹に、前回の会合の評判はかなりのものだったらしく、組織の幹部、それも発起人の方から連絡が来るなど、熱心に勧誘されるようになりました。

どうにも断りづらかったのですが、前回の会合でお会いした一人も幹部だった事と、その幹部の人こそが、私がめぼしいと感じた人だったことから、もう一度だけ参加することにいたしました。ただし、次は自由参加の会合ではなく、幹部の人達のみ、つまりは組織の運営人だけで集まってもらうのが条件です。


私は頼れる人を、組織側は私という存在の真贋を見極めるための話し合いです。

たかが中学生のくせに勇み足だとも思われるでしょうが、前回の会合の様子や、幹部の一人を見ていたおかげでしょうか。自分の方が上手(うわて)であるといったような、妙な自信があったのも確かです。


こうして二度目の会合が開催されることとなり、私は再び、都市部の貸し会議室へと訪れました。

運営人は三人おり、そのうちの一人は前回見かけた人でした。三人とも想像より若く、二十代前半から三十代前半といったところです。

そのうちの一人が、私が部屋へ入るなり自己紹介を始めました。組織の発起人を名乗るその人物は、簡単に組織の成り立ちと自分たちの素性を明かしました。


薄々とは分かっていましたが、この組織はやはり、同好会やサークルといった程度のもので、奥深さも理念もない趣味の産物でした。

同好の趣味を持つ三人が集まって会誌を出し、ゆくゆくは出版物として刊行したいといった、ビジネスライクな野心はあったようですが。


私は組織を去りたい気持ちがますます募り、熱が冷めていくのが分かりました。

しかしそれとは反対に、何がなんでも私を引き入れたいという組織の発起人からの、強い熱意も感じておりました。


ですが、もう一人の幹部の発言により、事態は一変いたします。前回の会合に参加していた幹部です。

どうやら前回の会合について、気になる事があるようでした。


聞くと、どうやら前回の会合から様子のおかしい会員がいるとのことでした。そしてそれは、例の死者の羽衣の影響を受けた会員のようです。

それを聞いた時、私は別段驚きもせず、その会員に何が起きたのかを問いただしました。

ここでたじろいでみせようものなら、それこそ墓穴というもの。それに、私の指先にあの冷たい感覚が失われた時から、こうなる事は分かっていたようにも思えます。


幹部の一人が語るには、あの会員は精神を失調したような状況となり、既に連絡を取れない状態であるとのことでした。

なんでも少し前から悪夢や被害妄想に(さいな)まれており、最終的には喉に鉛筆だかボールペンだかを刺している所を発見されたのだそうです。幸い命に別状はなかったそうですが、しばらく病院での療養が必要とのことで、家族から脱会の連絡があったとのことでした。


前回出会った幹部は、その件について私に意見を求めました。

私は(つと)めて冷静を装い、以前より考えていた理屈を述べました。


あの会員は、以前から西洋由来の黒魔術的なものに傾倒(けいとう)していた。

才能などは決して優れてはいないものの、その狂信的な思い込みにより、(よこしま)なモノが入り込む余地を与えてしまった。

そしてそれは、あの会員が儀式なり、作り話を吹聴するたびに周囲の穢れを呼び寄せて、それが新たな(よこしま)を呼び込んでいた。


私の『はごろも』は、己の内側から生じたヴェールを(まと)い、自身を防護する呪法であるが、あの時あの会員からは内在するものを感じなかった。恐らく既に、内側の生気たるものが食い尽くされていたからであろうと思われる。

そこであの会員に対してだけは、私の『はごろも』を分け与えることとした。


しかしあくまでこの呪法は、上着を一枚重ねる程度のもの。

外敵からの侵攻に対してはそれなりの効果はあるものの、内側から侵食された場合には無力に等しい。

あの時、あの会員へと呪法を授けた(おり)、立ちくらみを起こした様子であったが、あれこそが内側から外へと飛び出したる(よこしま)なモノと、外と内とを遮断するヴェールである『はごろも』との衝突したことによる、一種のショック状態のようなものに違いない。


そこまで説明すると、私は人差し指と中指を立てた手を、自分の鼻先へと掲げました。

そして前回の会合にもいた幹部に、あなたも『はごろも』の効果を実感なされたはずですが、と問いかけました。


その時の私の雰囲気に気圧(けお)されたのか、その場の誰も、反論することはありませんでした。

私に問われた幹部も、あの会合以来『はごろも』をおこなっているようでしたので、なおさら疑いの視線を向けてくるようなことはありません。

こうして私はその場を席巻し、組織の発起人を含める幹部達の人心を掌握したのでありました。


そして意外にも私は、思うところもあり、組織へ残ることを選択いたしました。


思うところ。それはもちろんあの、精神を失調した会員のことです。

あの会員はどうやら一命を取り留めたようですが、もし仮に、首にペンを刺し込んだ時に絶命していた場合、死者の羽衣はどうなるのだろうか。ひょっとしたら私に舞い戻るのか。それとも他の者へと移るのか。ただ消滅するのか。

万が一、私に戻ってきた時の事を考えると、まだこの組織にいたほうが良い。

そういった打算により残留を決めたのですが、どういった結末が訪れるのかは、この時すでに、薄っすらとは予感しておりました。


何故ならば、近頃また、指の先が徐々に冷えてきている気がするからでした。

そしてあの死者の(あぶら)と、あの柔らかいゴム質の皮膚の感触が、ざわざわと爪先から這い上がってくるのを感じていたのです。



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