2. 死者の羽衣⑥
死者の羽衣から自分を守るため、組織を生贄にすることに決めました。
それからの私の行動は一貫しており、力を持ち、人を集めるという目的のために全ての労力を費やしました。高校生になってからは、私の活動はさらに加速していきます。
ビジネスライクな発起人たち幹部も、会員が増えれば懐が暖まりますから、私が精力的に活動するのは願ったり叶ったりだったのではないでしょうか。
死者の羽衣を授けた会員は、その後しばらくして亡くなったそうです。
どうやら入院先で、布団カバーか何かを喉に詰まらせて窒息したのだとか。
私の指先に冷気が戻ったのを感じておりましたので、亡くなったことは幹部の連絡よりも先に察知しておりましたが。
そして死者の羽衣が戻ってくると、私の周囲では再び見えざるものが現れ出し、生活を苛み始めます。
そのため、いち早く次の生贄を探さなくてはなりません。目をつけたのは、見るからに精神薄弱な会員でした。
会合に集まった者のうち、明らかに弱っているのが目に見えていたので、はじめは迷ってしまいました。
生贄として長持ちしないのではないかと思ったからです。
しかし、悠長に考えている暇もありません。
こうしている間にも、死者の羽衣は私を苦しめているのですから。
それに、今回は亡くなってもおかしくなさそうな、明らかに弱りきった人間です。
集まった会員たちへ『はごろも』を授ける前に、幹部へ目配せをして近くに来させると、精神薄弱な会員の方を向いて小声で伝えました。
あの人はもう長くはなさそうで、おそらく身体の内側にも羽衣の材料はありません。
よってまた、私が自らあの方に『はごろも』を授けようと思いますが、いかがでしょう。
そう伝えられた幹部は、より一層の小声になり、つまりあの会員は亡くなるのでしょうか、と尋ねてきました。
私は小さく頷き、遅かれ早かれ、とだけ答えました。暗に、私が手伝えば少しでも延命できると伝えたいかのような素振りです。
幹部も小さく頷き、お願いしますとだけ言うと、他の幹部の元へと向かって行きました。
あとはもう、繰り返しです。
生贄が死んでは次の生贄を殺し、死んでは殺し、死んでは殺し。
手を変え品を変え、色々な理由をつけて、次から次へと人を亡くしていきました。
不思議と罪悪感というものは、それほどありませんでした。
手を下しているのは私ではなく、この指に宿った死者だからです。
私が高校を卒業する頃になると、組織はもう立派な集団へと育っておりました。
そしていつしか、亡くなる生贄たちもその意味を変えていきました。
私の指先で洗礼を受けたものは死に至るが、その代わり他の会員全てに祝福の羽衣が授けられる。といったような内容でした。
助け合いの心を利用した、悪どい精神操作だと思います。新しい幹部の中には、そういったことに長けている者もおりましたので。
そしてこの頃になると、もはや私の呪法を疑う幹部は一人もおりませんでした。
私のそれが、呪法ではなく呪いそのものだと知る者もおりませんでしたが。
私の方はと申しますと、それからも、そして当然ながらそれまでもずっと、私をこの業から解放してくれる力を持った者を探しておりました。
潤沢な会費や会員のコネクションを使い、古今東西の書を読み漁りました。一人では足りず、何人もの者を使い研究に没頭いたしました。
途中、様々な試行錯誤をおこない、生贄となった者たちに試しました。
ですが、どうしても死者は指先へと帰ってきてしまうのです。そしてそのたびに、私は災禍に襲われます。
しかもそれは、生贄が死ぬたびに少しずつ重くなっていくのです。
ですがやめるわけにもいかず、繰り返しの日々を送り続けていきました。
時々、まるで殺し屋のような依頼を受けることもありました。
部屋に監禁された人に、私が死者のはごろもを与えるだけです。
幹部の中に裏社会と繋がる者がいたようで、報酬面がよほどのものなのか、そうした仕事も増えていきました。そうやって何年も何年も、人の寿命を引き換えにして生き延びることを選択し続けてきました。
気がつくと私の指先は冷たいままになっておりました。
それどころか、段々と指先の感覚も鈍り、爪先が黒く変色していくのです。
原因不明の壊死だそうです。




