4. 最後の挨拶
ご無沙汰しております。
ご加減はいかかでしょうか。
私の方はと申しますと、また少し期間が空いてしまいました。
前回の手紙がいつもより短かったうえに、このように間が開いてしまい申し訳ございません。
とはいえ、通常、手紙といえばそう長いものではありませんので、毎度このように束で寄越すほうこそ、おかしなものかもしれませんが。
さて、おそらくこれが最後の手紙となるかと思います。
読んでいただけているのは、私どものほうでも確認できておりますので、まずは御礼のほうを伝えたいと思っておりました。
ここまで永らくお付き合いいただき、ありがとうございます。
既にお気づきでしょうが、私の腕はどちらもありません。
二回目の手紙をお渡しになった頃、しばらく期間が開いてしまったのを覚えておいででしょうか。まさしくあの時、両の腕を失ったのです。
つまり二回目以降は、恥ずかしながら、口を使って書いております。
文字が大きくて汚くて、紙の枚数が増えて迷惑かとも思いましたが、どうもこの手紙を他人に見せたくありませんでしたので、代筆を頼むこともできませんでした。
手紙を投函しているのは、私の団体の手によるものです。
本来であれば直接お渡ししたいのですが、いよいよ身体の自由が効かなくなってきたことと、私との縁をこれ以上深くしないようにという配慮の元、こうした形をとらせていただきました。
途中から、少し駆け足で私の人生を語らせて頂きましたが、お察しの通り、私の命はもう長くありません。
もうしばらくすると歯も抜け落ち、舌や唇も痺れて動かなくなるでしょう。検査の結果、脳へも悪性の腫瘍が見つかったようです。
手紙も出せませんし、会うこともないでしょうが、あなたにしかできないであろう頼みごとがあります。
私は、同情する余地もないような悪人ですが、それでも思い残したことがあります。
今回同封したものを、どうかある方へとお渡ししていただきたいのです。
その方は、そろばん塾を営む、秋には例大祭で巫女として振る舞う双子の姉妹でございます。
私の切断された腕が消失した件は、先の手紙に記した通りです。あれからどこを探しても、穴を掘っても見つかりませんでした。
それは問題ではありません。死者の羽衣をかけられた腕など、呪いの塊にほかならないからです。
しかし、そうです、切断された腕はもうひとつあります。
前回の手紙の内容よりも後、切断された私の腕です。これがどうなったか、ご存知でしょうか。
私の組織、今は団体を名乗っておりますが、そこで御神体として祀られているのです。
腐り果て、黒化した私の腕は、呪いですらなく、あろうことか信仰の対象へと成り始めております。
しかも、高額の寄付金を出資する信者には、削って粉末状となった私の腕を授けているのです。
これは私に近しい幹部、そう、初めて組織の会合へと行った時に出会った人物が教えてくれた事ですので、間違いなく真実です。
そしてこのような事が横行するようになったのは、私の余命が幾許もないと判明した後でした。
今や私は、死を待つばかりの何も出来ない、ただの神輿に成り果てました。
おそらくですが、私の死後は、解体されて神経の繊維一本一本まで高値で売られていくのだと思います。そしてそれらは全て、死者の羽衣に汚染されているのです。
既に私にはそれを止める術は無く、あなたの手にも余るかと思います。
しかしせめて、お世話になった方たちには、なんとしても災禍を被って欲しくないとの思いから、双子の巫女の方たちへ、私からの手紙と置き土産を送り届けて欲しいのです。
その見返りとして、私からあなたへ、ひとつ土産を差し上げます。
こちらも手紙やあの方への手土産と共にポストへ投函しておきます。
あなたが今、あの家と、その家族に近づきつつあるのは存じております。
それが何らかの理念によるものか、私的な好奇心によるものかは、私にとってはどちらでも構いません。
ですがそちらへ向かわれる以上、私からあなたへの見返りは、道行きの足しにはなるかと思います。
ただし、くれぐれも留意してください。
あれは、私のようなものでも、裸足で逃げ出さざるを得なかったものです。
あのそろばん塾から目と鼻の先にあるにも関わらず、双子の巫女たちすら近寄らず、忌避するようなところです。
決してあのような場所に魅入られることの無きよう、ご多幸およびご健勝をお祈りします。




