3-12話:死の旋風と聖なる弾丸
アイゼン・ガルド砦の跳ね橋付近は、もはや戦場というよりは屠殺場のような凄惨さを呈していた。 ヘルヴィーナの魔力によって肉を纏い、生前そのままの技を振るう亡霊騎士たちの連携に、ジーク、アリーシャ、ライラの三人は防戦を強いられていた。
「くっ……こいつら、死んでるくせに動きが良すぎるぜ!」
ジークが槍を振るい、レイピアを持ったスケルトンの鋭い刺突を弾く。その横では、盾を持ったスケルトンがアリーシャの守りを崩さんと、執拗に衝突を繰り返していた。
後方からその光景を見ていたレオは、迷わず引き金を引き絞った。
「盾とレイピア……あの二体、これでスキルは防げるはずだ! 『ヴォイド・ゼロ』!!」
魔力無効化の弾丸が二体のスケルトンの足元に炸裂する。亡霊を繋ぎ止めていた不浄な魔力が一瞬だけ霧散し、その動きに僅かな澱みが生まれた。
「ナイスだ、レオ! アリーシャ、ライラ! お前らは盾のヤツを抑えろ! レイピアは俺がやる!!」
ジークの号令が飛ぶ。アリーシャとライラは無言で頷き、瞬時に盾のスケルトンへと肉薄した。
「はぁぁっ!!」
アリーシャが全身の体重を乗せたシールドバッシュを繰り出す。衝撃波がスケルトンの姿勢を大きく崩した。その一瞬の隙を逃さず、ライラが聖なる闘気を纏った拳を突き出す。
だが、盾のスケルトンは驚異的な反応で盾を正面に据え直した。ただ防ぐだけではない。盾を前に突き出したまま、その死角から片手剣がライラの喉元を狙って閃く。盾が壁となり、攻撃の起点が完全に見えない。
「くっ……見えない!? ならば、見えるまで打つのみ!!」
ライラは紙一重で首を逸らし、返しの手刀で応戦するが、その打撃はすべて、鉄壁の如き重盾によって無情にも弾き返された。
「もらったぁぁ!!」
一方、ジークはレイピアのスケルトンの懐に飛び込んでいた。 「『牙突槍撃破』!!」
槍が一点に収束し、スケルトンの胸部を貫こうとしたその瞬間――。 レイピアのスケルトンの背後から、巨大な影が飛び出した。
「なっ……!?」
頭上から降り注いだのは、身の丈ほどもある巨大な戦斧。技のモーションに入っていたジークは、無理やり体をしならせ、槍の柄でその一撃を受け止める。
ギギギギギィィィンッ!!!
火花が散り、ジークの足元の石畳が砕け散る。
「ちぃっ! 次から次へと……!!」
苦渋の表情を見せるジーク。その窮地を、レオの両手の銃が救った。 右の銃でアリーシャに魔力を充填する『エーテルバレット』を放ち、左の銃でジークを圧迫する斧のスケルトンへ物理弾の牽制射撃を叩き込む。
「……そこだッ!!」
斧のスケルトンが僅かにレオの方へ視線を逸らした瞬間、ジークの槍が嵐となった。
「『夢槍乱舞』!!」
無数の鋭い突きが、残像を残してレイピアと斧のスケルトンを包囲する。 だが、斧のスケルトンはその巨躯に似合わぬ機敏さで、巨大な戦斧を盾代わりにして無数の矢のごとき突きを凌ぎ切った。
その光景を見て、レオの脳裏にある閃きが走る。
「(物理的な破壊が足りない……。それなら、アンデッドにとっての『毒』を直接流し込めば!)」
レオは素早く腰のポーチから特殊な空の弾丸を取り出し、すぐ隣で負傷兵を癒していたセレスへと駆け寄った。
「セレスさん! 急ぎ、これに『ハイヒール』をかけてください!」
「え……? この弾丸にですか?」
突然の願いにセレスは目を見開いたが、レオの瞳にある真剣な光を見て、迷いを捨てた。 彼女が祈りを捧げ、その手に聖なる光を集める。
「聖なる癒やしよ、彼の者の器に宿れ……『ハイヒール』!!」
清らかな光が空の弾丸に吸い込まれていく。弾丸の中央にあるガラス張りの機構が、目に焼き付くほど強烈な黄緑色の発光を始めた。
「こ、これでいいのでしょうか……?」
「はい! たぶん、これでいけるはずです!」
レオはすぐさまその聖なる弾丸をシリンダーに装填し、レイピアと斧のスケルトンへと狙いを定めた。
「浄化されてくれ……!!」
放たれた二発の弾丸。黄緑色に輝く軌跡が、アンデッド二体の胸部へ着弾した。 瞬間、爆発的な聖なる力が内側からスケルトンを蝕む。
「ガアァ……ッ!?」
生気を持たぬはずの亡霊が、苦悶の声を上げた。弾が着弾した箇所から、まるで腐った木材が砕けるように、その強固な骨が粉々に粉砕されていく。
「今だぁぁっ!!」
ジークはその千載一遇のタイミングを逃さなかった。 再び発動された『夢槍乱舞』の激しい連撃。骨の強度が落ちたスケルトンたちは、もはや防ぐ術を持たない。無数の槍撃が二体の亡骸を文字通り塵へと変えていく。
だが、死の淵にあっても、魔族の呪いは執念深く生者を呪った。
完全に崩壊する直前、斧のスケルトンが最後の力を振り絞り、自身の魂を削るようにして巨大な戦斧をレオに向かって投げつけたのだ。
「――っ!?」
空気を引き裂く轟音。 巨大な斧は凶悪なブーメランのように回転しながら、逃げ場を失わせるほどの超スピードでレオへと飛来する。
(避ければ……セレスさんに当たる!)
レオの背後には、まだ祈りを終えたばかりのセレスがいる。 彼が避ければ、非戦闘員である彼女の細い体は、あの重量の斧によって一瞬で両断されるだろう。
かと言って、接近戦用のブレードモードを展開したところで、あの破壊的な質量をレオの細腕で受け止めるのは、自殺行為に等しかった。
「レオォォ!!」
ジークの絶叫。
「マスタァァ!!」
アリーシャの悲鳴が、硝煙の戦場に響き渡る。
回転する鋼の刃が、レオの目の前まで迫っていた。 死の冷気が、彼の前髪を揺らす。
レオの指先が、無意識に錬金銃を強く握りしめた。 彼の脳裏に、かつてアリーシャと誓い合った、あの日の言葉が蘇る。
(ここで終わらせてたまるか……!)
手に汗握る死の舞踏。 レオの選択は、そして迫りくる戦斧の行方は――。
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