3-1話:新たな大陸へ
翌朝、レオたちは長年拠点にしていた宿屋を後にした。使い込まれたベッド、軋む床板、朝食の匂い。そのすべてを背に、一行は冒険者ギルドへと向かう。 ギルドの前には、聖王国の紋章が刻まれた白銀の甲冑を纏う騎士団と、魔族の打撃にも耐えうる重甲な馬車が、朝の光を反射して威風堂々と鎮座していた。
中に入ると、既に『銀翼の旅団』の面々が揃っている。
「おぅ、遅かったじゃねぇか」
ジークの地鳴りのような声が響く。
「す、すみません! 遅くなりました!」
レオが焦って頭を下げると、全員の到着を確認したライラが、淡い青のドレスをなびかせて前へ出た。
「それじゃ、行きましょうか」
その凛とした号令に従い、一行はギルドを後にする。レオは受付のリサや、ちょうど顔を出したカイルに、心を込めて別れの挨拶を済ませた。
ギルドの門を出たところで、ネネリが足を止めた。
「私はここでお別れだな。いろいろと付き合ってくれてありがとう」
「僕の方こそ、ありがとうございました!」
レオが感謝を伝えると、ミレイユも「私の武器も作ってくれてありがとうございました」と深く頭を下げた。
「死ぬんじゃねぇぞ?」
「はい! 帰ってきたらまた顔を出しに行きますね」
レオがそう答えると、ネネリは黙って分厚い拳を突き出した。レオも自分の拳をそこに合わせる。
「またな」「でわ」――。
短い言葉を交わし、レオたちは荷馬車の後部へ、ネネリは西門へと歩み出した。
だんだんと小さくなっていくネネリの背中。レオが感慨に耽っていた、その時だ。
「あ! おーい!!」
ネネリが突然振り返り、腹の底から大声を上げた。
「さようならー!」とレオが叫び返すと、ネネリは顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
「ちがーう! アクセル・バレット!!」
「あら……」
感動の別れを台無しにするような要求に、レオは思わず毒気を抜かれた。アリーシャとミレイユが「ネネリさんらしいですね」と笑う中、レオは苦笑しながらも、共に死線を越えた相棒のために魔力を放った。
「――『アクセル・バレット』!」
放たれた加速。それを受けたネネリは、文字通り弾丸のような速度で地平線の彼方へと消え去った。
「ありがとう! またなあ!」という声だけが遅れて届く。
「はっっっや!」
呆然と口にするレオを見て、二人の少女は再び陽気に笑声を上げた。
馬車が動き出し、心地よい揺れの中でレオが落ち着くと、隣に座っていたジークがレオの腰元に視線を落とした。
「なぁ、お前のその武器、変わってるな」
レオはホルダーから『ツイン・レゾナンス』を取り出し、旅団の面々に見せた。セレスが「初めて見る形ね」と目を細め、カイトは「強そうには見えないけどなぁ」と茶化す。
「お前、これでこの前の戦況を切り開いたのか?」
ジークの問いに、レオは少し謙虚に応じた。
「ま、まぁ。僕はこの武器しかないので」
ジークは即座に構造を見抜いた。
「見た所、回転式の所、6個しか穴が空いてねぇな。発射口が2つなら3回で終わりだろ?」
「まぁ、そうなんですが、後は自分の魔力操作で1発だったり2発だったり発射可能です」
レオが説明すると、ジークは「結構、器用な事できるんだな」とニヤリと笑った。そのまま、ジークの鋭い視線が隣のアリーシャとミレイユに向く。その凄まじい眼力に、ミレイユは「うっ……」と息を呑み緊張した。
「おい、レオ」
「はい!」
「お前、どっちが好みなんだ?」
「え!? こ、好みって言われても……っ!」
唐突な、あまりに直球すぎる問いにレオの思考がフリーズする。横ではアリーシャとミレイユが顔を真っ赤にして固まっている。どっちと答えても角が立つ、かといって沈黙は許されない。レオの頭の中で超高速の葛藤が駆け巡った。
「い、いや……ふ、二人とも好きです!!」
目をつむり、決死の覚悟で叫んだ答えに、ジークは「ぷっ……ぷははは! どっちもかぁ! やるな! お前!」と腹を抱えて大笑いした。 すかさずセレスの拳がジークの頭に落ちる。
「ジーク! レオ君を遊びに使っちゃダメでしょ! そういうのが人を傷つけることになるんですよ!?」
説教を食らうジークを余所に、レオは恥ずかしさで消え入りたい思いだった。だが、ジークは笑い終えると、レオの肩をポンと叩き、真剣な表情で言った。
「それならお前は死ぬ気で二人を守らねぇとな」
その言葉の重みに、レオはこれから向かう戦場の過酷さを改めて実感した。
馬車が停車し、一行は港町ブローキアに到着した。石畳の街並みには新鮮な海鮮が並び、潮風と共に活気が溢れている。
「おお! ここが港町……!」
感動するレオだったが、馬車から降りてきたライラが予想外の方向に指を差した。
「そうそう! まだ時間があるし、ちょっとそこ寄っていきましょうか?」
指差されたのは、なんと『水着ショップ』。
「え? なんで水着!?」
動揺する男性陣を余所に、ライラは侍女たちに指示を出し、女性陣を店へと引き連れていった。レオたちは「お代はこちらが持ちますので」という侍女に案内され、隣のショップでシンプルなハーフパンツ型の水着を購入した。ジークは黒、レオは赤、カイトは黄色だ。
一足先に乗船したレオたちは、その船の威容に圧倒された。聖王国の王族専用客船。それは客船というより、軍艦のような重武装を施された鋼鉄の城だった。
「こいつはすげぇや。さすがにこんな立派な船乗ったことないな」
百戦錬磨のジークでさえ、その威容に驚きを隠せない。 鈍く光る重厚な鉄板で覆われた船体は、波を切り裂く刃のような鋭さと、あらゆる攻撃を跳ね返す盾のような堅牢さを併せ持っている。しかし、その無骨な外装とは裏腹に、甲板の上には贅の限りを尽くした空間が広がっていた。
太陽の光を浴びてキラキラと輝く、広大な屋外プール。その周囲には白いパラソルと高級感あふれるデッキチェアが並び、ここが戦場へ向かう船であることを忘れさせる。
「聖王国ってどれだけお金あるんですかね……」
思わず呟いたレオの声は少し震えていた。中に入れば、クリスタルのシャンデリアが輝く一等クラスのレストランや、最高級の酒が揃う落ち着いた雰囲気のバーなど、王族を「もてなす」ための施設がこれでもかと詰め込まれている。
「そんなの巡礼とかでいろいろもらってるんじゃね?」
カイトが軽い調子で応じる。 内装の随所には、繊細な金細工の装飾や、聖教の意匠を凝らした彫刻が施されており、その一つ一つが国家の強大な富と信仰の深さを物語っていた。
そんな3人が驚きに目を見開きながら内装を見て回っていると――。
ようやく女性陣が甲板に姿を現した。
「お、お待たせしました……」
先頭のアリーシャは、手にした荷物(先ほど買った水着の袋)を隠すように抱え、耳まで真っ赤にしている。続くミレイユも、いつもの大人の余裕はどこへやら、視線を地面に落とし、恥ずかしそうに足早に客室へ向かおうとしていた。
「マ、マスター。あまりこっち見ないでください。」
すれ違いざま、小さな声で呟いたアリーシャの潤んだ瞳に、レオの心臓は跳ね上がった。ライラやセレス、エレナもどこか楽しげ、あるいは少し照れた様子で甲板を通り過ぎていく。彼女たちがどんな『戦装束』を選んだのか、その披露はまだ先のことだが、その恥じらう姿だけで男性陣の想像力は十分に刺激されていた。
「ブオオオ!」と汽笛が響き、船はゆっくりとソレイユ大陸を離れていく。
「僕がいた大陸……こんなに大きかったんだ」
全容を見せ始めた故郷の姿を目に焼き付け、レオは隣にいる大切な仲間たちの存在を確かめた。
新たな地、プロット大陸へ。
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