2-59話:大規模戦闘1
王都東門を抜けると、そこはすでに「日常」の彼方だった。 見慣れた緑の草原は、迫りくる数千の魔物が巻き上げる土煙によって、どす黒く塗りつぶされようとしている。地平線の彼方から響くのは、雷鳴のような咆哮と、大地を穿つ無数の足音。それは、王都という巨大な獲物を喰らうために押し寄せる、飢えた獣たちの津波だった。
「みんな、急ぐぞ! 遅れるな!」
レオは二挺拳銃『ツイン・レゾナンス』を抜き放つと、迷いなく錬金回路を起動させた。
「――『アクセル・バレット(迅速の加速弾)』!!」
蒼い光の弾丸が四人の足元で弾ける。 撃ち込まれた瞬間、アリーシャ、ネネリ、そしてミレイユの身体能力が爆発的に向上した。夏の照りつける太陽の下、四人は蒼い閃光と化して、戦場へとひた走る。以前の彼らなら王都から戦場まで数刻はかかっただろう距離を、彼らはわずか数分で駆け抜けた。
レオ達がたどり着いた時には、すでに王都軍は完全に布陣を完了していた。 最前線には、王国騎士団が鉄の壁を築いている。重厚な全身鎧を纏った騎士たちが盾を隙間なく並べ、槍の穂先を魔物の群れへと向けてピタリと動きを止めていた。彼らの数メートル先には、すでに魔物の先遣隊が迫っており、今にも激突せんとする「爆発寸前の静寂」が戦場を支配していた。
騎士団の背後には、遊撃隊としてCランク以上の冒険者たちが武器を手に獲物を待ち、さらにその左右には、宮廷魔導士たちが大規模魔法の発動準備を進めている。魔導士たちの周囲には、すでに強大な魔力が渦巻き、空気がパチパチと帯電していた。
「くそっ、一番後ろか……!」
遅れて着いたレオたちは、冒険者部隊の最後尾に滑り込んだ。 前方の騎士団からは、一歩も引かぬという鉄の意志が、後方のレオたちにも伝わってくる。 夏の太陽が容赦なく照りつけ、鎧の中の汗、緊張で渇ききった喉、そして風に乗って運ばれてくる魔物の腐臭。恐怖と暑さが相まって、心臓は早鐘のように鼓動を刻んでいた。
「ミレイユ!」
レオは後方のミレイユを振り返った。 彼女は、バレンとレオが作り上げた『竜爪の魔杖』をぎゅっと握り締め、左太ももの『魔力バイパス・ガータータイツ』の感触を確かめていた。
「もう……その装備があれば、魔法素材(触媒)は使わなくても大丈夫そうかな?」
レオの確認に、ミレイユは少し怯えながらも、しっかりと頷いた。
「は、はい……! たぶん、この装備であれば、私の魔力を直接杖へ流せるので、素材を使わなくても魔法を発動できそうです!」
「それなら……お願いだ。今持ってる素材、全部僕にくれないかな?」
レオの言葉に、ミレイユは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに彼が何をしたいのかを理解した。
「はい! どうぞ!」
彼女は躊躇なくバッグを開けると、これまで研究所で集め、大切に保管していた多種多様な高級魔法素材――『フレイムリザードの魔石(失敗作)』、『ヴォイド・クリーパーの羽』、そして他にも数々の強力な触媒を、すべてレオの手へと渡した。
「ありがとう!」
レオが素材を受け取った瞬間、それらは音もなく彼の収納へと消えていった。 そして次の瞬間、レオの周囲で錬金術の青白い光が激しく明滅する。
(……火球、氷槍、雷撃、魔力阻害、回復、強化……すべて、弾丸に変える!)
レオは収納内部の空間で、ミレイユから受け取った膨大な素材を媒介に、ありとあらゆる属性の「魔導弾」へと瞬時に錬成していった。これまでの「支援弾」だけでなく、彼自身が直接攻撃、あるいは戦場をコントロールするための、多種多様な「弾丸」が、銃身へと次々と装填されていく。
戦場には、王国が要請した貴族たちの私兵団も到着し始め、布陣を完了しつつあった。 人族、魔物、双方が完全に動きを止め、睨み合う。 夏の太陽が頂点に達しようとしたその時、最前線の騎士団司令塔が、白銀の剣を高く空に突き上げた。
その剣が、太陽の光を反射して眩しく輝いた瞬間――。
ブオオオオオオオォォォォン!!!
開戦の笛が、戦場全体へ、そして世界全体へ鳴り響いた。
「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」
数千の騎士たちによる雄叫びと共に、鉄の壁が一斉に前進を開始した。 同時に、左右の魔導士部隊から無数の魔法弾が放たれ、魔物の群れの中で爆発する。 鋼と肉、魔と血が入り乱れる、大規模戦闘(レイド戦)が始まった。
最後方に位置するレオたちは、まだ直接的な戦闘には巻き込まれていない。しかし、前線から伝わってくる衝撃と、魔法の爆発音、そして死にゆく者の悲鳴が、地響きとなって彼らの足元を揺らしていた。
「みんな……行くぞ!」
レオは『ツイン・レゾナンス』を、 アリーシャが剣を、ネネリがハンマーを、ミレイユが杖を構える。 夏の嵐が、今、彼らを飲み込もうとしていた。
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