2-46話:ミレイユ・ソーサラー
レオ、アリーシャ、ミレイユの三人は、静まり返った冒険者ギルドの隅にあるテーブル席に陣取った。アルカナのギルドは元々冒険者が少なく、さらに今は雨上がりの昼下がりということもあって、周囲に聞き耳を立てるような者はいない。
「ここなら、あまり話も漏れないと思うから。……話せる範囲でいい、聞かせてくれないか」
レオが促すと、ミレイユは小さく震える指先を組み、ぽつりぽつりと重い口を開いた。 五年前の地下研究所での事故。人工魔力コア作成という禁忌に近い実験。そして、仲間を救うために浴びてしまった膨大な魔力の奔流――。 彼女が抱える『星脈過負荷症』という障害の全てを、ミレイユは教えてくれた。
(五年前……。ちょうど僕が神託の儀を受けた歳だ。あの時、アルカナでそんな凄まじい事件が起きていたなんて、全然耳に入ってこなかったな)
当時の自分には、自分の「無能」を受け入れるだけで精一杯で、他国の情勢を気にする余裕などなかったと思い返す。
「魔力コアを人の手で……。当時、神が与えし神秘と言われていたものを人が造り出そうとするなど、私には想像もつきませんでした」
アリーシャは、かつての時代の常識との乖離に驚きを隠せない様子だった。
「それで……ミレイユはこれからどうするんだ? エルゼ先生からも言われたんだろ? 何か考えてる?」
レオの問いに、ミレイユは暗く濁った瞳でうつむいた。
「……わかりません。学校を出たところで、私には行くあてもなくて。魔法だって、まともに使えない、欠陥品ですから……」
自虐的に笑う彼女を見て、レオは隣のアリーシャと視線を交わした。アリーシャは、主の言わんとすることを察し、力強く頷く。
「ミレイユ。もし君がよければ……僕たちと一緒に来ないか?」
「え……? 聞いていましたか? 私は魔法をまともに扱えないんですよ?」
驚きで顔を上げるミレイユに、レオはさらに踏み込んで聞いた。
「それって、うまく魔力を『コントロール』さえできれば、魔法が使えるってことなんだろ?」
「ま、まあ……理論上はそうです。でも、この体内の魔力量を抑え込むなんて、並大抵の術具じゃ不可能です。暴走すれば命に関わるんですよ?」
「たとえ使えなくても、僕たちと旅をする中で何かのきっかけが掴めるかもしれない。それにさ……実は、ちょっと心当たりがあるんだ!」
レオが自信満々に笑顔を向けると、アリーシャがピンと来たように声を上げた。
「もしかして、あのドワーフのところですか?」
「そう、当たり! ネネリなら、何か知ってるんじゃないかなって。ドワーフは武器の他にも魔導アクセサリーを作る技術があるだろ? 彼女なら、ミレイユの膨大な魔力を制御できる特注品が作れるかもしれない」
「それは……確かにあり得ますね!」
アリーシャの言葉に、レオはさらに地図を広げるような勢いで続けた。
「でも、王都に戻ってからあの山を目指すとなると、かなりの時間がかかる。ここは北門を抜けるとあの湿地が続くから、移動は困難だよね。……アリーシャ、何かいいルートはある?」
アリーシャは軍師のような鋭い目で、頭の中の地図を描く。
「そうですね。東門から出て北へ向かうルートはどうでしょう? 湿地を避けつつ、山脈の麓をなぞるように進めば、最短でドワーフの地下都市へ近づけます」
「え、ええ……? わたし、まだ行くなんて決めて……」
困惑するミレイユに、レオは優しく、しかし確信を持った声で語りかけた。
「決めるのは、行った後でいいよ! もしかしたら魔力がコントロールできるようになるかもしれない。その『可能性』を確認してから決めたって遅くないだろ?」
「可能性……」
ミレイユは、自分の左目――眼帯の下にある黄金の「竜眼」にそっと触れた。忌むべき呪いとして閉じ込めてきた力が、もしも「翼」に変わるのだとしたら。
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