1-4話:虚空を穿つ執念
裏山の修練場では、今日も木刀が空を切る鋭い音が響いていた。 10歳のあの日、設計図を描き上げてから、僕の稽古への姿勢は一変した。
(――もっと速く。無駄を削げ。この手首の動きが、いつかシリンダーを回す鍵になる)
父上が教える「型」の一つひとつが、今の僕には銃の機構を動かすための「真理」に見えていた。剣の才能がないと言われたからこそ、僕はその「理」を盗み、自分の発明へと昇華させることに没頭した。
泥にまみれ、何度も転び、それでも食らいつく。 その必死な姿は、本館の窓から見下ろす者たちには、救いようのない「悪あがき」に映っていた。
「……ふん。相変わらず、無駄な汗を流しているな」
本館の二階、豪奢な装飾が施された窓際で、長男のジークハルトが冷ややかに鼻を鳴らした。その後ろから、次男のアルフォンスが歩み寄る。
「何を見ているのですか、兄上」
「ああ、アルフォンスか。……いや、なに。信託を授かっても尚、未練がましく剣に打ち込んでいる弟の姿を見ていてな。才能も、適性もありはしない『劣等職』の分際で。あの一生懸命な姿を見ていると、実に滑稽に思えて笑いが出てくるわ。ははははっ!」
ジークハルトの嘲笑に、アルフォンスも歪んだ笑みを浮かべて同意する。
「それは言えてますね、兄上。まるで、飛べない鳥が必死に羽ばたきの練習をしているようだ。お父様も、あんな無能の相手をいつまで続けるおつもりなのか……」
「あら、あなたがた二人して。仲良く外を眺めて、どうしたのかしら?」
部屋の扉が開き、絹の擦れる音と共に正妻エレオノーラが現れた。 彼女もまた、窓の外――西日に照らされ、一人黙々と型を繰り返すレオに視線を向ける。
「見てくださいよ、母上。レオのあの無様な姿を」
エレオノーラは扇子を口元に当て、可笑しくて堪らないといった様子で目を細めた。
「あらあらあら……。本当に、一生懸命なこと。健気すぎて、涙を通り越して笑いが出てきますわね。ヴァレンタインの血を引きながら、あんな泥にまみれて……。あれが私たちの血族だと思うと、反吐が出るわ」
「ははは! 全くですな!」
部屋の中に響き渡る、親子三人の無慈悲な笑い声。 彼らは知らない。 レオが振るっているのは、もはや「当たらない剣」ではないこと。 その一振りのたびに、脳内のシリンダーが研磨され、弾丸が加速し、彼らの想像を絶する「戦律」が構築されていることを。
修練場のレオは、嘲笑に気づくこともなく、ただ一点を見つめていた。 手首を鋭く返す。その瞬間、レオの目には、未来で放たれる「最初の一発」がはっきりと見えていた。
「(……もっとだ。もっと、速く……!)」
5年という歳月が、静かに、しかし確実に牙を研ぎ澄ませていく。




