1-3話:暗闇の図面(設計図)
裏山で父に突き放され、泥だらけのまま自室に戻った僕は、明かりも点けずにベッドに突っ伏した。
「死んだら、終わりだ……」
父の冷徹な言葉が、耳の奥で何度もリピートされる。 騎士になれない僕は、戦場に出れば真っ先に死ぬ。神様から与えられた【アルケミスト】という職は、この家では「死を待つだけの無能」と同義だった。
(……いやだ。死にたくない……)
恐怖と悔しさで体が震える。その時、ふと、机の隅に置かれた一冊の古びた本が目に入った。亡き母、セレナが遺した形見——錬金術の魔導書だ。
僕は吸い寄せられるように本を手に取り、夢中でページをめくった。 これまでは「剣の修行の邪魔になる」と自分に禁じていた本。けれど、今の僕にはこれしか縋るものがない。
そこに記されていたのは、物質を分解し、再構築する「調律」の理論だった。
「……これだ」
脳裏に、今日の稽古で父が見せた「手首の返し」がフラッシュバックする。 父は言った。「無駄な動きを削ぎ落とせ」と。 剣を振るうために必要な筋力も、魔法を放つための膨大な魔力も僕にはない。 けれど、指先のわずかな動きと、緻密な計算に基づいた「機構」があれば——。
僕は羽ペンを握り、白紙の紙に線を引いた。
「剣より速く……魔法より正確に。一秒の隙もなく、敵を退けるための器」
頭の中の歯車が、猛烈な勢いで回り始める。 剣の「型」を、金属のシリンダーの中に閉じ込める。 父に教わった「手首の返し」を、弾丸を装填するための「機構」に変換する。
「……リロード(再装填)。一発撃って終わりじゃない。絶え間なく、旋律を奏でるように」
夜が更けるのも忘れ、僕は図面を引き続けた。 円筒形のパーツ。引き金。そして、魔力を弾丸に変えて加速させるための錬金術式。
それは、この国の誰も見たことがない武器の設計図だった。
「死者は救えない。でも……この一秒のリロードがあれば、これから出会う誰かを、死から救えるかもしれない」
窓の外では、少しずつ夜が明け始めていた。 「無能」と蔑まれた少年の部屋で、世界を塗り替えるための「戦律」が、静かにその産声を上げようとしていた。




