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家を追われた無能の三男坊、最速リロードで戦場を支配する ―父の剣術で放つ錬金銃(バレット)―  作者: Ni.Akki
第1章黎明のリロード ―無能と蔑まれた少年の5年間の旋律―
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1-2話:命の重さと、届かぬ叫び

 

 信託の儀を終えた翌朝。


 太陽が昇るよりも早く、僕は裏山の修練場へ立っていた。

 東の空はまだ薄暗く、吐き出した息が白く煙る。昨日の夕暮れに一人で振った木剣を、今日は父上と向かい合いながら握っていた。

 両手に伝わる重さは、昨日と変わらない。

 けれど、目の前に父上が立っているだけで、木剣は何倍にも重くなったように感じられた。


「構えろ」

「はい!」


 見よう見まねで木剣を正面に構える。


「右足を半歩引け。腰を落とし、重心を中心へ置け」

 

 言われたとおりに足を動かす。

 しかし、慣れない姿勢を保とうとするだけで太腿が震え始めた。


「剣先が下がっている」

「は、はい……!」

「返事に力を使うな。呼吸を整えろ」


 父上の言葉に従い、冷たい空気を肺いっぱいに吸い込む。

 けれど、集中しようとすればするほど、昨日の光景が脳裏に蘇ってきた。


『レオ君は何だったんだ?』


 騎士になる夢を語っていたテオの笑顔。


『錬金術師って……あまり戦えない職業だっけ』


 僕を励まそうとしながらも、困ったように視線を伏せたニナ。

 そして、二人との間に生まれた、目には見えない境界線。


「――足が止まっているぞ。集中しろ!」

「えっ――」


 鋭い声とともに、父上の木剣が僕の胴を打った。


「ぐっ……!」


 鈍い衝撃が全身を突き抜け、肺から空気が押し出される。

 僕の身体は地面へ投げ出され、そのまま泥の上を転がった。


「がはっ……はぁ、はぁ……!」

 

 息ができない。

 打たれた脇腹が、焼けるように痛む。

 冷えた泥が頬へ貼りつき、握っていた木剣は少し離れた地面へ転がっていた。


「立て」


 頭上から、父上の声が落ちてくる。

 立たなければならない。

 分かっているのに、身体へ力が入らない。

 痛みのせいだけではなかった。

 頭の中では、昨日の友人たちの言葉が泥と混ざり、ぐるぐると渦を巻いていた。


(違う……)


 テオもニナも、僕を傷つけようとしたわけではない。

 そんなことは分かっている。


(僕は、二人に同情されたかったわけじゃない……)


「立て、レオ」


 父上の声が、もう一度響いた。

 僕は歯を食いしばり、震える腕で身体を起こした。泥の中へ転がった木剣を拾い上げる。


「構えろ」


 父上の構えは、微動だにしていなかった。

 剣先にも、足の位置にも、わずかな揺らぎさえない。

 その隙のない姿が、今の僕には「お前には決して届かない」と告げているように見えた。


「……くっ」


 胸の奥で、何かが膨れ上がっていく。

 悔しさ。

 惨めさ。

 誰にも分かってもらえない寂しさ。

 僕はそれらをすべて吐き出すように、地面を蹴った。


「うあああああっ!」


 木剣を振り上げ、父上へ突進する。

 教えられた構えも、足の運びも頭から消えていた。

 ただ力任せに、何度も木剣を振り下ろす。


「やああっ!」


 パンッ――!


 乾いた音が修練場へ響く。

 父上はその場から一歩も動くことなく、最小限の動きで僕の木剣を弾き飛ばした。

 木剣が宙を舞い、泥の中へ落ちる。

 衝撃に耐え切れず、僕も再び膝をついた。


「……力任せに振るうだけでは、どれほど叫ぼうと届かん」


 父上の声は、どこまでも冷静だった。


「怒りに呑まれ、足の運びも呼吸も忘れた。そんな剣では、目の前の敵どころか、自分の命すら守れない」


 分かっていた。

 何も考えず、ただ感情をぶつけただけだ。

 それでも、その事実を父上の口から突きつけられることが、今は耐えられなかった。


「いいか、レオ」


 父上は木剣を下ろし、泥の中で膝をつく僕を見据えた。


「命は一つしかない」


 低く、重い声だった。


「死んだら、そこで終わりだ」


 冷たい風が、二人の間を吹き抜ける。


「戦場の敵は、お前が【アルケミスト】だからと手加減してはくれない。剣が不得手だからと、待ってもくれない」


 その言葉が、胸の奥へ突き刺さる。


「だからこそ、型を身体に刻め。恐怖で頭が止まっても、迷いで心が揺れても、身体だけは動くように」

「……だったら」


 気づけば、声が漏れていた。


「だったら、どうすればいいんですか……?」


 父上は何も答えない。

 その沈黙に耐え切れず、僕は顔を上げた。


「どうすればいいんだよ!」


 叫び声が、静かな修練場へ響き渡った。


「僕だって、そんなことは分かってる! 死んだら終わりだってことくらい、分かってるよ!」


 父上へこんな口を利いたのは、初めてだった。

 それでも、もう止められなかった。


「でも、それならどうして神様は、僕にこんな職業を与えたんだ!」


 視界が滲む。


「僕は、お父様のようになりたかった! 剣を持って、魔物や魔族からこの領地を守りたかった! だから信託を受ければ、僕も騎士になれると思っていたのに……!」

 

 広間で笑われたときにも、友人たちの前でも、必死に堪えていた涙が溢れ出した。


「【アルケミスト】なんかで、どうやって戦えばいいんだよ!」


 父上は、黙ったまま僕を見つめている。


「剣もまともに振れない。魔法も使えない。こんな力で、戦場になんて出られるわけないじゃないか……!」


 涙が頬を伝い、乾いた土の上へ小さな染みを作った。


「僕は……これから、どうすればいいんだよ……」


 最後の言葉は、声にすらならなかった。

 修練場に、僕の嗚咽だけが響く。

 父上はしばらく何も言わなかった。

 励ますことも、慰めることもなく、ただ泣きじゃくる僕を見下ろしている。

 その表情は、明け方の薄暗い影に隠れ、僕には読み取れなかった。

 やがて父上は、手にしていた木剣を壁際の台へ戻した。


「……今日の稽古は終わりだ」


 それだけを告げ、僕へ背を向ける。


「頭を冷やせ。明日も同じ時刻に来い」


 父上は修練場の出口へ向かって歩き始めた。


「……僕の質問には、答えてくれないんですか」


 震える声で尋ねても、父上は振り返らなかった。

 規則正しく遠ざかっていく足音が、一度だけ止まる。

 けれど、父上は何も言わない。

 わずかな沈黙のあと、足音は再び遠ざかり、そのまま聞こえなくなった。

 修練場に、一人だけ取り残される。

 東の空から昇り始めた朝日が、泥にまみれた僕の身体を照らしていた。

 新しい朝を告げる光のはずなのに、少しも温かく感じられない。


『命は一つしかない』

『死んだら、そこで終わりだ』


 父上の言葉が、呪いのように耳の奥で繰り返される。


(死んだら、終わり……)

 

 僕は泥の中へ落ちていた自分の木剣を見つめた。

 剣では、父上に届かない。

 騎士になったテオにも、きっと追いつけない。

 では、【アルケミスト】である僕が生き残るには、何が必要なのだろう。

 剣を持てない自分にも使える、命を守るための力。


「……そんなもの、本当にあるのかな」


 問いかけに答える者は、誰もいない。

 朝風が木々を揺らし、葉の擦れる音だけが静かに響いた。

 このときの僕は、まだ知らなかった。

 その答えが、亡き母の遺した古びた錬金術書の中で、僕に見つけられる日を待っていることを。


最後まで読んでいただきありがとうございます。評価、ブックマーク、リアクション等を付けて頂けると非常に励みになりますので、ぜひともよろしくお願いします!次話も読んでいただけると嬉しいです。


挿絵(By みてみん)

イラストは、作者が作成したキャラクター設定をもとに、生成AIを使用して制作・調整したものです。物語を読む際のイメージ資料としてお楽しみください。


※掲載内容は、この時点で明らかになっている情報のみで構成しています。

※画像が表示されない場合は、作品ページ上部の「表示調整」から「挿絵を表示」を選択してください。

※掲載画像の無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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