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2-35話:双響(ツイン・レゾナンス)の試射

 定石通り、上空の闇から猛然と襲いかかってきたキマイラ。だが、アリーシャはその巨体を大盾一枚で事も無げに受け止め、平然とした声で問いかけてきた。


「マスター、今回はどうしましょうか? 『ジャッジメントクライム』は使わない方がいいですよね? ……なんなら実験のために、私、一発くらいあえて攻撃を受けましょうか?」

「はあ!? 技はともかく、なんでわざわざ敵の攻撃を受けるなんて言うのさ!」


 いきなり度肝を抜かれたレオの声が、キマイラの咆哮をかき消した。


「低ランクの魔物なら『あ、じゃあお願い!』ってなるけど、キマイラはバジリスクより格上のAランクなんだよ!? 体を張った実験なら、後でやるBランクのバジリスクで良くない!?」


 頭の中が一瞬でごちゃごちゃになるレオを余所に、キマイラは毒の滴る尾を盾に叩きつけている。凄まじい衝撃音が響くが、アリーシャは涼しい顔だ。


「と、とにかく! 普通にキマイラを倒そう! 僕はアリーシャに支援弾バフを撃つから、その体感を教えて!」

「わかりました! では、いきますよ!」


 開始の合図と共に、アリーシャが動き出す。


(……ていうか、あの猛攻を盾でいなしながら、よく普通に会話できるよなぁ)


 レオは彼女の底知れなさを改めて痛感しながら、意識を極限まで集中させた。

 脳裏に浮かぶのは、母の形見の錬金術本に記されていた支援アイテムの数々。アリーシャの騎士という職業、その重装甲と高い防御力をさらに活かすには――。


「……これだ! これならどうですか!」


 レオは既に装填していた通常の魔弾を、スキル『ディメンション・ドロウ(次元抜剣)』で瞬時に収納空間へ。同時に魔力を練り上げ、強化用の薬液成分を魔力で固定した特殊弾を錬成し、再度『ディメンション・ドロウ』でリロードする。一連の動作に淀みはない。

 レオは右手の『プロメテウス』の銃口を、アリーシャの背中に向けた。


(……仲間に向けて銃を撃つのは、やっぱり抵抗がある。でも、これは支援なんだ! 彼女を助けるための力なんだ!)


 自分に強く言い聞かせ、レオは迷いを振り切って引き金を引いた。


 カァンッ!!


 澄んだ銃声と共に放たれた光の弾丸は、アリーシャの背中へ吸い込まれるように着弾した。


「とりあえず、攻撃力と防御力を底上げするバフ弾を撃ってみました! 何か変わった感じ、しますか!?」


 レオの問いかけに答えるように、アリーシャが手にした片手剣を一閃させる。


 ザシュッ!!


「えっ……!? 私の剣で、キマイラの強固な片足が、こんなに簡単に……!?」


 アリーシャ自身が驚愕の声を上げた。本来、彼女は防御特化の騎士であり、奥義『ジャッジメントクライム』を除けば、片手剣での攻撃力は並の騎士程度だ。それが今、Aランク魔物の肉を一刀両断にした。


「シールドバッシュ!!」


 さらに彼女が盾を突き出す。先ほどは距離を稼ぐために吹き飛ばしただけだったが、今度はキマイラの巨体がラグドールのように空高く舞い上がり、後方の巨木を数本なぎ倒してようやく止まった。


「これはすごいですよ、マスター! 力が溢れてきます!」

「……いや、あんたの素の筋力の方がすごいよ」


 レオは呆れつつも、プロメテウスの性能に確かな手応えを感じていた。 だが、異変はすぐに起きた。吹き飛んだキマイラが、ピクリとも動かないのだ。


「……あれ? キマイラ、起き上がってこないね」

「マスター、念のため、攻撃用の弾を撃ってみてもらえますか?」

 

 アリーシャに指をさされ、レオは頷いた。


「わかった。やってみるよ」


  レオはかつて所持していた「鉄くず」時代の名残である鉄片を素材に、純粋な破壊用の『鉄の弾丸』を錬成する。それをシリンダーに滑り込ませ、狙いを定めた。

 

 ダアァン!!


 重厚な銃声が森に響き渡り、弾丸はキマイラの眉間を正確に撃ち抜いた。 レオとアリーシャはしばらく身を構えて様子を見ていたが、やはり反応はない。二人は慎重に、アリーシャを先頭にしてキマイラの元へ近づいた。


「……あ、やっぱり。もう倒しちゃってるや」


 レオはポツリと漏らした。支援弾を受けたアリーシャのシールドバッシュが、キマイラの内部骨格を粉砕し、絶命させていたのだ。初陣となるはずの対キマイラ戦は、戦いと呼ぶにはあまりにもあっけなく終わってしまった。

 その時、アリーシャが何かを思いついたように、死骸の一部を指差した。


「マスター、このキマイラの毒袋を収集品として持っていきませんか? マスターの『ディメンション・ドロウ』で、この部位だけを収納できませんか?」

「うーん……試したことないけど、やってみるよ」


 レオは言われた通り、収納スキルの意識をその「毒袋」へと集中させ、ディメンション・ドロウを発動した。 刹那、目の前にあったグロテスクな毒袋が、霧のように消え去った。


「えっ!? ……入った。すごい、これ……!」


 レオは目を見開いた。


「それじゃあ、錬成に使う素材や、解体したばかりの重い部位を、手元を介さずに直接、異空間に入れておけるってことじゃないか!」


 アルケミストにとって、素材の運搬と鮮度の維持は最大の課題だ。それが戦闘スキルであるはずの『ディメンション・ドロウ』で解決できる。これは、戦場を「実験室」に変えることができる、レオだけの隠された能力の発見だった。


「ふふ、さすがは私のマスター。可能性は無限大ですね」

 

 二人は意気揚々とキマイラを解体し、有用な素材を次々と異空間へ「収納」していった。 重い荷物に悩まされることもなく、身軽なまま、二人は森のさらに奥――その先にある魔法都市アルカナを目指して歩みを進めた。


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