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2-30話:安着の宴

「な、なるほど……このためにネネリさんは光苔を撒いていたのか……!」


 肺が焼け付くような激しい呼吸の中、レオは今更ながらにその意味を痛感していた。かつてネネリが口にした「全力で走れる」という言葉。それは決して比喩などではなく、文字通り「命懸けの全力疾走」を強いられる現在そのものを指していたのだ。

 背後からは、地響きと共にアダマンマイマイが迫る轟音が聞こえる。だが、迷宮の闇に点々と光る青白い苔の目印が、道迷いの恐怖を打ち消し、彼らの足を前へと進ませた。

 次第に岩壁の色が深い闇から青みを帯びたミスリルの輝きへと戻ってくる。出口が近い。だが、前を走るネネリの背中を見ながら、レオはある異様な事実に気づいた。


(……っていうか、あの馬鹿みたいに重い鉱石、ネネリさん片手で持って走ってるよな……?)


 左手にアダマンタイトの塊を掴み、右手で巨大なバトルハンマーを担いで爆走するネネリ。その尋常ならざる膂力に、レオは改めてドワーフの族長という存在の規格外さを思い知らされた。

 ようやく、最初の激闘を繰り広げたジュエルスパイダーのフロアまで戻ってくると、ネネリが足を止めた。彼女は長い耳をピンと立て、背後の闇の音に全神経を集中させる。


「…………ふぅ。どうやら、もう追ってきてないみたいだね」

 

 その言葉を聞いた瞬間、レオとアリーシャは力尽きたようにその場に腰を下ろした。


「よかったなレオ! これでお目当ての鉱石は手に入ったぞ」

「よ、よかった……です。あ、ありがとうございます……」


  大の字に倒れ込んだレオが、天井のミスリルを見上げながら途切れ途切れに答えた。

 一行は洞窟内で手短に補給を済ませると、滝裏の道を抜け、山道を一気に下って地下都市へと帰還した。


 ________________________________________


 地下都市の入り口では、ネネリの工場の前で弟子たちがズラリと列をなして待ち構えていた。


「おかえりなさいませ! お勤めご苦労様です、姉さんッ!!」

 

 野太い声が響き渡る。


「で、姉さん。お目当てのブツは見つかりましたか?」


  一人の弟子がそう問いかける姿を見て、レオは思わず心中でツッコんだ。


(……どこぞのヤ〇ザだよ……)


「ああ、しかも大量に『いいの』が入ったぜ!?」


ネネリが不敵に笑うと、弟子たちは「おおおおお!」と地鳴りのような歓声を上げた。


「とりあえず今から仕分ける。お前らも来い!」

「あざーすッ!!」

 

 一糸乱れぬ礼をする弟子たち。レオは引き攣った笑いを浮かべながら、ネネリの後に続いた。 工場に入ると、ネネリは持ち帰った重厚なバッグを「ドスンッ!」とテーブルに置いた。


「まずは、レオの目当ての鉱石。ヒヒイロカネとアダマンタイトだ」


 実物がテーブルに乗った瞬間、工場のボルテージは最高潮に達した。


「おおおおお!! マジかよ、本物か!」

「それだけじゃない。ラピスラズリ、ダマスカス、ガーネット、オニキス……大漁だ」


 レオは目を輝かせ、テーブルに並べられた色とりどりの鉱石を見つめた。アリーシャもまた、その美しさに「うわぁ、綺麗ですね……」と感激の声を漏らしている。

 ネネリは並べた鉱石をじっと見つめ、その中から一つの銀灰色の石を拾い上げた。


「ん、これもだな」


  彼女はそれを、ヒヒイロカネとアダマンタイトの山の方へ分けた。


「これも使うんですか?」


 レオの問いに、ネネリは答えず、ただフフッと笑ってその「ダマスカス鉱石」をレオの手の平に乗せた。


「うわっ……! かるっ!!」


あまりの軽さにレオは声を上げた。


「アダマンタイトがどんなに重いか、身をもって分かっただろ? あれだけで武器を作って、あんたに使いこなせるかい?」

 

 ネネリの問いに、レオは即座に首を横に振った。あんな質量を二丁拳銃のように振り回すなど、人間には不可能だ。 「だから、こいつを混ぜるのさ。軽さと強靭さを調和させるためにね。……しかも今回の鉱石はどれも純度が高い。これは……かなり期待していい出来になるぞ!」

 その夜、無事な帰還と大収穫を祝う「安着祝い」の宴が催された。 アナウサギ族は意外にも大の酒好きで、弟子たちは朝まで続く勢いでどんちゃん騒ぎを繰り広げた。

 やがて宴の終わり、工場の隅には空の酒瓶が転がり、弟子たちはあちらこちらで雑魚寝を始めている。


「……ようやく終わった……。もうダメだ、眠い……」


  極度の緊張と疲労、そして心地よい酔いがレオを襲う。ふらふらと立ち上がり、宿屋へ帰ろうとしたその時。 足元にあった空の酒瓶に躓き、レオの体が前のめりに倒れ込んだ。


「マスター!」


 カシャリ、と金属の擦れる音がして、鎧を一部外していたアリーシャがレオを正面から受け止めた。


「あぁ……なんか、温かくて、柔らかい……」

 

 今日の死闘、重たいアダマンタイトとの格闘、そして全力疾走。すべての疲れが、彼女の腕の中で一気に解けていく。レオはアリーシャの胸に顔を埋めたまま、抗うことなく深い眠りへと落ちていった。

 アリーシャは腕の中の幼い寝顔を見つめ、慈しむように微笑んだ。


「お疲れ様でした、マスター」


 彼女はその頭を優しく撫でたあと、彼を軽々と横抱きに抱え上げると、静かな足取りで宿屋へと向かった。

 ドワーフの里の夜は、溶岩の熱気と共に、静かに更けていくのだった。


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