2-29話:鉱石採取3
「――来るよ!」
ネネリの叫びと同時に、アダマンマイマイが光を嫌うように素早くその巨体を殻の中へと引っ込めた。次の瞬間、家一軒ほどもある鋼鉄の塊が猛烈な勢いで回転を始め、一直線にこちらへと突進してくる。
「避けろッ!」
反射的に飛び退くレオだったが、足元の粘液がそれを阻む。ヌメヌメとした床は踏ん張りが効かず、まるで氷の上で足掻いているような感覚だ。
「あんなのに当たったら、骨まで粉砕されてイチコロだよ!」
「洒落にならないから! 全然笑えませんよ、ネネリさん!」
背後を通り抜けた殻の風圧だけで、レオの肌がチリチリと焼けるように痛んだ。
「ネネリさん、このカタツムリを倒せばいいんですか!?」
アリーシャが重厚な大盾を構え、突進の軌道を読みながら問いかける。
「いや、こいつは倒さないよ。……というか、ここにもう一体いるはずなんだ!」
「へ? ……嘘だろ!?」
レオの顔から血の気が引く。この化け物がもう一体? 二体同時にあのスピードで転がってきたら、逃げ場などどこにもない。
「無理無理無理! 死んじゃいますって!」
「弱音を吐いてる暇があったら動きな! ほら、レオ! お前の後ろだッ!!」
ネネリの声に、レオの背筋が凍りついた。条件反射で全力のジャンプを繰り出し、空中で向きを変えてミスリルの剣を構える。着地と同時に見たのは、闇の中からヌッと現れた二体目の巨大な殻だった。 だが、その二体目は突進してこない。何かを慈しむように、その場にどっしりと居座り、背後を隠していた。
「……動かない? 何か守ってるのか?」
「レオ! そいつの後ろだ、よく見てみな!」
ネネリに促され、レオはヌメる足場を滑るように横へ移動した。二体目の殻の隙間から見えたのは、鈍い銀光を放つ無数の丸い鉱石――。
「後ろに、鉱石があります! これが……!」
「でかした!あれは『アダマンマイマイの卵』だ。あいつらが命がけでこの場所を動かないのは、その『銀の卵』を守るためなんだよ! んじゃ、そこから一個掠め取ってきな!」
「えっ、今から!? 取るって……あいつの目の前ですよ!?」
戸惑うレオを余所に、ネネリは即座に指示を飛ばした。
「アリーシャ! こっちの動いてる方はお願いできるかい?」
「はい、お任せください!」
アリーシャは大盾を叩き、突進を繰り返す一体目を引きつけた。その隙に、ネネリは粘液の合間を縫うように、まるでバネのような跳躍で二体目へと肉薄する。
「レオ、行くよ! 準備はいいかい!」
「う、うわぁぁぁ! もう、どうにでもなれッ!」
レオは覚悟を決め、ネネリの背中を追って全力で走った。
「――どきなッ!!」
ネネリが叫び、巨大なバトルハンマーを横一文字に振り抜いた。
ガァァァァン!!
巨大な鉄塊同士が衝突したような衝撃音が洞窟内に轟き、守りを固めていたアダマンマイマイが、その巨体ごと数メートル横へと吹き飛ばされた。
「今だッ! レオ!」
「うおぉぉぉぉ!!」
レオは勢いそのままに粘液の上をスライディングし、光り輝く鉱石の一つを掴み取ろうとした。
(やった、入手……) ……できなかった。
「ぬおぉぉ!? な、なにこれ……おっっっも!!」
指先に力を込めるが、一個の鉱石がまるで地面に根を張っているかのように重い。
「ちょっと待って、何これ……ナニコレ! ぐぬぬぬっ!!」
顔を真っ赤にし、血管が浮き出るほど力を込めるが、アダマンタイトの塊はびくともしない。比重が他の鉱石とは次元が違うのだ。
「何をやってる! 早く一個でいいから取れッ!」
ネネリの焦りに呼応するように、吹き飛ばされた二体目が体制を立て直した。怒り狂ったように殻を回転させ、標的をレオに定めて加速する。
「レオ、来るぞ! 避けろッ!!」
「避けろって言ったって、これ、本当に重いんだって……ッ!! おりゃあああああああ!!」
死の回転が迫る直前、レオは渾身の力を込めて鉱石を抱え上げた。その瞬間、手の粘液で滑った鉱石が、まるで弾丸のようにネネリの方へと飛んでいく。
「ネ、ネネリさん! そっちに行きました!!」
ネネリは迫りくる殻を横目で捉えながら、空中でその鉱石を片手で見事にキャッチした。
「よしッ! 合図だ、みんな全力で逃げるよ!!」
ネネリが着地と同時に反転し、来た道を猛烈な速さでダッシュし始める。
「マスター!」
「ああ、行こうッ!」
アリーシャの呼びかけにレオも応え、三人での全力疾走が始まった。背後からは、宝を奪われた主たちの怒り狂った地響きが迫ってくる。
「振り返るんじゃないよ! 光苔の通りに、全力で駆け抜けな!!」
三人の影は、自分たちが置いてきた「道標」をなぞるように、闇の奥から出口へと向かって爆走した。
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