2-28話:鉱石採取2
「あの……さっきから気になってたんですけど」
レオが、前を行くネネリの背中に疑惑の眼差しを向けた。
「ん? なんだい?」
「『釣れた!』って言ってましたよね。ネネリさん、僕がジュエルスパイダーの糸に引っかかるの分かってて、わざとやりましたよね?」
「ああ、知ってたよ! レオが良い感じに糸にかかってくれたから助かったよ、あははは!」
ネネリは悪びれる様子もなく、ご機嫌に笑い飛ばす。
「『あはは!』じゃないですよ! 暗い場所で上からあんなのが降ってくるのがどれだけ怖かったか分かってるんですか!」
「でも、そのおかげで無事にお目当ての鉱石が取れただろ?」
ニヤリと笑いながら歩を止めることなく進むネネリ。その背中をレオは必死に抗議の目で見つめるが、アリーシャが優しくフォローを入れる。
「マスター、ああいう状況でも必ず私たちが助けますから、安心してください」
「いや、安心とかの前に、仲間を『釣り餌』に使わないでくれってことを言いたくて……」
「ははっ、次も期待してるぞ!」
(……ダメだ、この人。全然反省してない) レオは深くため息をつき、これ以上の抗議は無駄だと諦めた。
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一行はさらに奥へと進む。 目指す「アダマンタイト」を持つ魔物は一向に姿を見せず、ただ時間だけが重苦しく過ぎていく。地下都市エイトリを朝に出発し、険しい山を登り、下り、そしてこの閉ざされた闇の中。太陽の見えない世界で、レオは疲労から「今がちょうど真上、昼時くらいかな」とぼんやり推測する。
そんな中、レオはあることに気が付いた。ネネリが等間隔に、光る何かを地面に落としているのだ。
「ネネリさん、それ、何ですか?」
「これかい? これは『光苔』さ。暗闇でも自生する珍しい苔でね。こういった暗い道でも帰り道がわかるよう、目印に置いてるのさ」
「さすがですね! これなら帰りも安心だ」
「まあ、安心かどうかはまだわからないけどね。道さえわかれば、いざという時に『全力で走れる』だろ?」
意味深なネネリの言葉に、レオの背筋に冷たいものが走った。全力で走る。それはつまり、全力で「逃げ出す」状況を想定しているということだ。
(……なんか、嫌な予感しかしない)
深層に進むにつれ、壁に埋もれているミスリルに混じって、見たこともない色の鉱石が混ざり始めた。それはこの場所が、より純度の高い、あるいは希少な資源が眠る領域であることを示している。 レオは貸し出されたミスリル剣を握り直し、先ほどの戦闘の感覚を指先に思い出させた。
「手首の返し……くりん、くりん。……よし、この感覚だ。忘れないようにしないと」
修練の動きを無意識に再現しながら歩いていると、前を行くアリーシャが不意に足を止めた。
「あだっ!」
思考に没頭していたレオは、そのまま彼女の背中に激突する。
「あ、アリーシャごめん……」
「いえ、大丈夫ですよ。マスターの方こそ、おでこは大丈夫ですか?」
アリーシャは身のこなし重視の軽量鎧とはいえ、金属にぶつかれば当然痛い。レオは赤くなったおでこをさすりながら「なんとか……」と苦笑いした。
その時、ネネリが地面にしゃがみ込み、異変に気づいた。
「……この感じ。近いかもしれないよ。いつ出てきてもおかしくないから、気を抜きなさんな」
ネネリが見つめる地面には、幅1mほどの緩やかな湾曲状の「えぐれた跡」が、奥へと延々と続いていた。
「これが、アダマンタイトを持つ魔物の……」
レオが喉を鳴らす。 さらに警戒しながら進むと、その削り跡にキラキラと光る、粘着質な液体が付着し始めた。
「……来るよ!」
ネネリが警戒を強めた直後、視界が急に開け、足元がヌメヌメとした質感に変わる広いフロアに出た。 間違いなく、ここがヤツの巣だ。 ネネリが周囲に一気に光苔をばら撒く。淡い青白い光が闇の中に広がり、その中心に鎮座する「それ」を浮かび上がらせた。
「出たね……! あれが『アダマンマイマイ』だ!!」
そこにいたのは、車1台ほどもある巨大なカタツムリ。 だが、その殻は生物のそれではない。幾重にも重なる重厚な鋼鉄の層を成し、鈍い黒光りを放っている。 ヌメり気を帯びた巨大な触角が、光を嫌うようにレオたちの方へと向けられた。




