2-25話:地下都市エイトリ
アナウサギ族の地下都市エイトリは、地上の寒風が嘘のように熱気に満ちていた。山の心臓部から汲み上げられた溶岩が、血管のように張り巡らされた水路を赤々と流れている。その地熱を利用して鉱石を溶かし、武器を打ち出すのが彼らのやり方なのだ。
「ふぅ……道理で、みんな薄着なわけだね」
レオは額の汗を拭った。ネネリのワイルドな装いも、この過酷な熱帯の中では最も合理的な作業着なのだと理解する。
「とりあえず、あたしの工場で話そうじゃないか」
ネネリの後に続いて巨大な工房へと足を踏み入れる。ついてこようとしたパロムとマロムは、彼女の鋭い視線一つで「あんたたちはダメだよ」とつまみ出されてしまった。
工房の中央、巨大な鉄のテーブルの前に腰を下ろすと、ネネリがニヤリと笑って口を開いた。
「さて、借りを返すには……武器を作ってやったほうがいいのかな?」
「作っていただきたい武器があって……まず、これを見てほしいのですが」
レオは意を決して、バッグから二丁の「鉄屑」と、ボロボロになるまで描き直した設計図をテーブルに広げた。ネネリは無言のまま、設計図をじーっと見つめる。ゴーグルを上げ、その鋭い眼光で図面の隅々に描かれた精密な部品の噛み合わせ、そして魔力の流動経路を追っていく。
「……ほほう。こいつは面白いね。あたしも長く打ってるが、こんな構造は作ったことがない。……いいよ、これはあたしも作ってみたいと思える代物だ!」
その言葉に、レオの表情がパッと明るくなった。だが、喜びも束の間、ネネリの表情が真剣なものへと変わる。
「――だけど、一つ問題がある」
「それは……?」
「このミスリルじゃダメだってことだ」
ネネリは傍らのトレイにある青く澄んだミスリル鉱を掴んで見せた。
「確かにミスリルは貴重だ。だが、この設計図を見る限り、あんたはこいつで『かなりの数』の弾を撃つんだろう?」
「はい、一応、連射できるようにとは書きました」
「その撃った瞬間に放たれる爆発的な熱、そして管の中を弾が擦り抜ける摩擦熱。……ミスリルの融点じゃ耐えきれなくなる恐れがある。そうなった時、この武器は壊れるよ」
職人特有の重い指摘に、レオは息を呑んだ。
「じ、じゃあ、どうすれば……!?」
「だから、ミスリルじゃダメだと言ったんだ」
ネネリの言葉に、隣のアリーシャが「まさか……」と察した。ネネリはニヤリと笑う。
「そうさ。必要なのは『アダマンタイト』だ。ミスリルより段違いに硬く、熱にも強い。あの溶岩でさえ、一週間は漬け込まないと加工できる状態にはならない代物さ。あと、このギミック……」
ネネリは設計図の一箇所を指差した。
「は、はい。昔、父から剣を習っていたので……」
「ここもアダマンタイトだと重すぎる。なら、ここは『ヒヒイロカネ』かな。……どっちにしても、神の素材に近い鉱石だ。滅多な所じゃ見つからないよ」
ネネリの言葉に、レオは「やっぱりダメなのか」と深く落胆した。しかし、ネネリは不敵に笑い続けた。
「言っただろう? 『滅多なところじゃ』見つからないとね」
「じゃあ……!?」
「ああ。この山の奥深き洞窟に、あるぞ」
期待に胸を膨らませたその時――ネネリが何かに気づき、静かに部屋のドアへと近づいた。そして、勢いよくドアを開ける。
「ドサッ!」
盗み聞きしていたパロムとマロムが、絡まり合いながら転がり込んできた。
「いたたた……」
「いててっ……」
「おい、お前たち。何してるんだい?」
どスの効いたネネリの声。見上げれば、般若のような顔の族長が立っている。
「あ、あはは……」と苦笑いする二人だったが、ネネリの怒りは頂点に達していた。
「この馬鹿野郎共が! 何も反省してないな!」
ネネリは近くにあったロープを掴むと、あっという間に二人をぐるぐる巻きにした。
「おい! こいつらを少し牢にぶち込んどけ!」
そのまま近くにいた弟子に投げつける。
「わかりました、姉さん!」
パロムの泣き叫ぶ声が都市の奥へと遠ざかっていった。
「すまないね、話を折ってしまって。……とりあえず、採取に行くのは明日にしよう。今日はここの宿に泊まってゆっくりするといい。明日、またここに来てくれ」
伝説の素材への希望と、少しの不安。 レオは複雑な心境のまま、熱気に包まれた地下都市の夜へと身を委ねるのだった。




