2-24話:褐色の族長
ぴょこぴょこと走り回り、地面を這いずり回る二人のドワーフ。しかし、ミスリルはそう簡単に見つかるものではない。
「ねぇ~、まだ探すの? もう疲れちゃった。帰ろうよ~」
飽きてきたパロムが、だだをこねるように足を止めた。
「もうちょっと! あとちょっとだけだからさ!」
マロムは焦りながらも、パロムの気を引くために必死に目を皿のようにして地面を追う。その時だった。
「あ! マロム、あれ見て!」
パロムが指さす先、巨大な岩の隙間に、青白く光る小さな「石」のようなものが二つ、寄り添うように見えた。
「あ! あった! あったぞパロム!」
二人は顔を見合わせ、手を取り合って喜びを爆発させた。
「早く持って帰ろう! 遅くなったらバレて怒られちゃう!」
「分かってるって! そんなに急かすなよ」
ベテランの鍛冶師を気取ったマロムが、鼻息荒く光の元へと駆け出した。
だが、岩陰でそれを見ていたレオの背筋に、氷を突きつけられたような戦慄が走った。 あの岩の並び、そして規則的に放たれる不気味な青い光。それはかつて資料で見た「捕食者の目」だ。
「――っ、まずい! 二人とも止まれッ!!」
レオが岩陰から飛び出したのと、マロムが青い光に手を伸ばしたのは同時だった。 それはミスリルなどではない。眠れる巨獣『ロックサイノス』の、魔力が凝縮された「角」の先端。急所そのものだった。
「グオオオォォォォォン!!」
地鳴り。 ただの岩塊だった巨体が身を震わせ、砂利を弾き飛ばして起き上がった。
「う、わあああああ!?」
衝撃でひっくり返る子供たち。怒り狂ったロックサイノスが、丸太のような脚を高く振り上げた。
「アリーシャ!」
「はい!」
風が抜けた。アリーシャが瞬時に二人の前に割り込み、大盾を構える。
ドォォォォォン!!
大地を揺らす一撃を受け止めたが、衝撃波でレオの髪が逆立つ。だが、悪夢は始まったばかりだった。共鳴するように周囲の岩が次々と動き出し、無数のロックサイノスが目を覚ます。
「これだけの数……さすがに私でもきついです。平地ならまだしも、この足場では……」
アリーシャの背後に冷や汗が流れる。後ろは断崖絶壁へと続く曲がり角。逃げ場はなく、前方からは怒り狂った岩の群れが猛スピードで押し寄せてくる。 絶体絶命。そう思われた、その時。
「――うちのガキ共をいじめてんのは、どこのどいつだいッ!!」
空を割るような鋭い怒声。頭上から一条の影が、彗星のごとく降ってきた。 褐色の肌、デニムの短パンから伸びる引き締まった脚。タンクトップの上にデニムジャケットを羽織ったその女性は、空中で自らの身長ほどもある巨大なバトルハンマーを旋回させた。
「退きな! 鉄屑に変えてやるよ!」
ズゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
爆鳴。 振り下ろされたハンマーがロックサイノスの強固な外殻を一撃で粉砕し、文字通り「塵」へと変えた。それだけではない。
「おらおらおらおらァッ!!」
彼女が歩を進めるたび、巨大なハンマーが左右に唸る。右へ飛ばされた個体はそのまま崖下へ、左へ飛ばされた個体は一度岩壁にぶつかり、その反動で奈落へと落ちていく。
それは戦闘というより、もはやただの「ハエ叩き」だった。
「ねぇ、アリーシャ……ロックサイノスって、あんなに簡単に飛ぶものなの?」
レオが引き攣った顔で尋ねる。
「いいえ、マスター。ロックサイノスはかなりの重量級。私でもああは飛ばせません。……あの方が、あまりの馬鹿力なのです」
「……やっぱり? だよね」
「これで終わりだぁぁ!」
最後のロックサイノスを粉砕して蹴散らすと、彼女は巨大なハンマーを無造作に肩にかけ、こちらへと歩み寄ってきた。 パロムとマロムはガタガタと怯えている。まるで彼女が何者か、そしてこれから何が起きるかを熟知している恐怖のようだ。
ズドンッ!
「ひっ!」
彼女がバトルハンマーを地面に力強くついた音で、二人の子供は心臓が飛び出るほど飛び跳ねた。
「パロム、マロム……わかってるだろうね?」
「は、はい……」
もはや言い逃れは不可能。二人は消え入りそうな声で答えた。
「で、あんたたちは?」
彼女はゴーグル越しにレオとアリーシャの身なりを鋭く確認する。
「見た所人間だけど、こんなところまでピクニックってわけじゃなさそうだけど?」
レオは冷や汗を拭いながら、これまでの経緯――武器の相談のためにこの山を訪れたこと、そして危うい子供たちを放っておけず見守っていたことを説明した。
「そうだったの。それは……悪いことをしたね」
彼女は表情を少し和らげると、豪快に笑った。
「私はアナウサギ族の族長、ネネリ・ラニクス。君たちがこの子たちを助けてくれたんなら、借りを返さなきゃね。……ついてきな!」
ネネリの言葉に促され、レオたちはついに「伝説」への門を叩くことになった。 案内された入り口は、一見ただの洞穴だった。中は薄暗く、人間一人が通るのが精一杯の狭い通路が続く。しばらくその穴を進んでいくと、奥の方に微かな、けれど確かな明かりが見えてきた。
「――っ、これは……」
通路を抜けた瞬間、レオの視界が劇的にひらけた。 そこには、地上の寒風からは想像もつかない巨大な地下都市が広がっていた。山の中すべてをくり抜き、幾千もの灯火が輝くアナウサギ族の聖域。
鍛冶の鎚の音が、遠くから重奏のように響き渡っていた。




