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2-21話:擬態する岩壁

 王都フィラルモニアを離れ、二人は北西へと向かう行商人の馬車に揺られていた。幸い、荷台の空きスペースに乗せてもらう代わりに、冒険者として道中の護衛を引き受けることで旅費を浮かせることができた。歩くよりは格段に楽だが、それでも三日間の長旅を経て、ようやくグラン・バザルト山岳地帯の麓にある小さな村、リトス村へと到着した。

 太陽が真上を過ぎ、影が伸び始める時間だ。今日は無理をせず村の唯一の宿に泊まり、英気を養うことにした。翌朝、村の商店で数日分の干し肉と水袋を買い込み、いよいよ岩の巨人たちが座す山岳地帯へと足を踏み入れた。

 最初は深い森が続いていた。茂みからは、鎌のような脚を持つ人食いカマキリの変異種『ブレード・マンティス』や、樹上から音もなく飛びかかる猛毒蛇『フォレスト・バイパー』が襲ってきたが、アリーシャが大盾の一撃でそれらをなぎ倒していく。

 森を抜けると、景色は一変した。木々はまばらになり、足元はゴツゴツとした砂利と、大小さまざまな岩があちこちに転がる荒々しい道へと変わる。路肩は意外にも広かったが、行く手を阻むように居座る巨岩が煩わしい。


「なんだよ、このデカい岩……! 邪魔なんだよ!」


 登山の疲れも重なり、苛立ちが募ったレオは、目の前の岩に八つ当たりの蹴りを入れようとした。その瞬間――。


「ダメっ!! 止まってください!」


 アリーシャの鋭い叫びが響く。レオは咄嗟に足を止めようとしたが、勢いが死なない。無理やり体勢を捻った結果、無様に砂利道へ転倒した。


「いっ、ってぇぇ……」


  手のひらや膝を擦りむき、じわりと血が滲む。レオは顔をしかめてアリーシャを睨んだ。 「なんだよアリーシャ! なんでダメなんだよ、ただの岩じゃないか!」


「マスター、落ち着いて聞いてください。今あなたが蹴ろうとした岩……それは魔物です」

「はっ!? ……嘘だろ?」


 レオは目を見開いた。どこからどう見ても、ただの苔むした無機質な岩だ。


「それは岩に擬態して眠る『ロックサイノス』別名『岩の巨人』という魔物です。非常に神経質で、一度起こせばあの巨体で執拗に突進してきます。刺激しなければ動かない『岩』と同じですから、今は構わず進みましょう」

 

アリーシャの説明を聞き、レオは血の気が引いた。改めて周囲を見渡すと、道端に転がる不規則な岩すべてが、眠る化け物の背中に見えてくる。路肩は広いとはいえ、こんな不安定な足場で巨体と戦うスペースなどどこにもない。 それからは、石ころ一つ蹴り飛ばさないよう、レオは爪先立ちで歩くような慎重さで進むことを徹底した。


「……ねえ、思ったんだけどさ。だいぶ山を登ってきたけど、ドワーフの地下都市への手がかりとか、何か心当たりはあるの?」


 息を切らしながらレオが尋ねると、アリーシャは歩みを止めずに即答した。


「ありません」

「……え、ないの!? じゃあなんでこんなに必死に山を登ってるんだよ! 地下都市なら山頂より麓の方が入り口を見つけやすいんじゃ……」

「大丈夫、上でいいんです!」


 アリーシャは頑なに意志を曲げず、一点の迷いもない背中で標高の高い岩場を目指して歩き続ける。 本当にこの道で合っているのか。伝説のドワーフは、こんな荒涼とした山頂付近に本当に住んでいるのか。 レオは薄くなる空気の中、背負い袋の中の「鉄屑」の重みだけを頼りに、アリーシャの背中を追うのだった。


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