2-20話:地底に眠る職人の国
キマイラ討伐という大きな功績を上げ、無事に『銀の竪琴亭』へと戻った二人。 夜。レオは自室のベッドで仰向けになり、天井を見つめていた。その手には、「鉄くず」と呼んでいる、二丁の重い金属塊がある。
「自分に合った、武器……」
アリーシャの言葉が耳を離れない。自分は【アルケミスト(錬金術師)】。物を変質させ、創り出す者。だが、これまでこの鉄塊をどう「完成」させればいいのか、その答えは見つからなかった。 レオは、自分で設計し、何度も書き直した図面を広げた。そこには、二本の筒から火を噴き、弾丸を飛ばす――この世界にはまだ存在しない「銃」という概念が描かれている。
「これさえ完成すれば、僕も……」
翌朝。レオはその鉄屑と図面をバッグに詰め込み、アリーシャと共に冒険者ギルドへ向かった。
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「武器の作成、ねぇ……」
受付で相談を受けたリサは、レオが差し出した奇妙な図面を覗き込み、眉を寄せた。
「こんな複雑な構造……。ごめんなさいレオ君、王都にある普通の武器屋じゃ無理だと思うわ。この『筒』の中の精密な溝とか、部品の噛み合わせなんて、人間の鍛冶師の技術じゃ追いつかない」
リサの困り顔に、レオはやっぱりか、と肩を落とす。しかし、隣で話を聞いていたアリーシャが、ふと顎に手を当てた。
「……マスター。『ドワーフ』という種族をご存知ですか?」
「ドワーフ? 伝説の……穴を掘るのが得意な妖精のこと?」
「ええ。正式名称は『ネザーランドドワーフ(アナウサギ族)』。ですが、古の戦場では親しみを込めてドワーフと呼ばれていました。彼らは小柄ですが、その腕は神の領域。鋼を叩き、魔導を組み込む技術において、彼らの右に出る者はいません」
リサも思い出したように手を叩いた。
「あ、聞いたことあるわ! 何でも作っちゃう幻の鍛冶師一族でしょ? でも、彼らは地下深くに都市を築いて生活しているから、入り口がどこにあるのかも分からず、何百年も人間とは関わりがないって言われているけれど……」
「マスター。ダメ元で、一度王都の北西にある『グラン・バザルト山岳地帯』へ行ってみませんか? もしかしたら、入り口の手がかりが見つかるかもしれません」
アリーシャの提案に、レオは強く拳を握った。 このままお荷物のまま、彼女の背中を見守るだけで終わりたくない。自分の武器を、自分の「戦律」を奏でるための道具を、どうしても完成させたい。
「よし、行こう……。ドワーフに会えるか分からないけど、やってみる価値はある!」
「いい決断ね! じゃあ、あそこは険しいから野営の準備もしっかり整えて。キマイラの報酬で装備や食料は揃えられるでしょ?」
リサの温かいアドバイスを受け、二人は出発の準備を整えた。 目指すは雲を突き抜ける巨岩の山々。レオは、バッグの中で冷たく鎮座する鉄屑に触れ、心の中で語りかけた。
(待ってろよ。今度こそ、お前を「完成」させてやるからな)
二人は希望と緊張を胸に、王都の北西、霧に包まれたグラン・バザルト山岳地帯へと歩みを進めた。




