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2-15話:安らぎの微睡(まどろみ)と、秘密の約束

 宿屋『銀の竪琴亭』に到着し、リサから預かった書類を番台のおばさんに手渡すと、彼女は眼鏡をずらしてレオとアテナを交互に見た。


「……ギルドからの特別紹介状ね。2階に2部屋空いてるから、そこを使いな。食事は一階だよ」


 鍵を受け取り、階段を上がる。それぞれの部屋の前でアテナと短く挨拶を交わすと、レオは自分の部屋の扉を開け、そのまま吸い込まれるようにベッドへとダイブした。


「――っ、ふかふかだぁ……!」

 

ヴァレンタインの屋敷を追われて以来、地面の硬さと夜風の冷たさに耐え続けてきた体にとって、清潔なシーツの感触は至福そのものだった。 仰向けになり、天井の木目を見つめながら、レオは今日一日の出来事を反芻する。


(……明日、カイルさんやリサさんに、アテナさんのことなんて説明しよう……)


「封印を解いたら伝説の勇者が出てきました」なんて正直に言えば、間違いなく王都は大騒ぎになる。そうなれば、かつて魔導士たちに疎まれたアテナは、また同じ悲劇に巻き込まれてしまうかもしれない。


(それは、絶対に嫌だ。……明日の朝、ちゃんと口合わせをしなきゃな)

 

 レオの思考は、心地よい微睡みの中に溶けていく。 明日は何をしようか。アテナさんに街を案内しようか。それとも、新しい依頼を……。 最後の方は言葉になっていたかも怪しい独り言を漏らしながら、レオは深い、深い眠りへと落ちていった。

 

 ________________________________________


 翌朝。 窓から差し込む明るい陽射しと、リズミカルなノックの音がレオの意識を浮上させた。

 ――コンコンッ。


「おはようございます、マスター。……入ってもよろしいですか?」

「……はい、どーぞ……」


 寝ぼけ眼で生返事をしたレオだったが、その数秒後、脳内が「アテナ」という単語で埋め尽くされ、一気に覚醒した。


「……っ!? ちょ、ちょっと待って! 待ってください!!」

 

飛び起きたレオは、脱ぎ散らかしていた服を大慌てで拾い上げ、ガタガタと音を立てながら着替える。髪を適当に手で整え、一呼吸置いてから扉を開けた。


「ど、どうぞ! おはよ、アテナさん」

「失礼します、マスター。……少し、お顔が赤いようですが?」

「気のせいだよ! それより、ちょっと相談があって……」

 

 レオはアテナを部屋に招き入れると、昨夜考えていた「口合わせ」を切り出した。 彼女の正体は、とりあえず「最深層で魔物に襲われていたところを助けた、記憶喪失の剣士」ということにする。無理があるかもしれないが、この街の誰一人として「本物のアテナ」を見た者はいないはずだ。


「わかりました。私はマスターに従うのみ。あなたの紡ぐ物語に、歩幅を合わせましょう」

 

アテナは静かに、けれど力強く頷いた。 その信頼が、レオには少しだけ面映ゆい。

 準備を整えた二人は、朝日が石畳を照らすフィラルモニアの街へと繰り出した。 目指すは、再び冒険者ギルド。 昨日の「無能な新人」ではなく、伝説を背負った一人の冒険者として、レオの新しい一日が幕を開ける。


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