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2-13話:終止符の先のプレリュード

 王都フィラルモニアの夜は更け、昼間の喧騒が嘘のようにギルド内は静まり返っていた。 多くの受付窓口はすでに閉まり、ランプの灯りだけが石造りの床を寂しげに照らしている。


「……ちくしょう、……マジかよ……」


 カイルは、泥と埃にまみれたままギルドの椅子に深く沈み込んでいた。 レオが消えてから数時間。彼は日没の限界まで洞窟の各フロアを、喉が枯れるほど名前を呼びながら探し回った。だが、転移トラップの行き先など素人にわかるはずもなく、ただ虚しい残響が返ってくるだけだった。


「……最悪だ。俺は何をやってんだ……」


 自慢の軽銀の鎧は傷つき、かつての余裕に満ちた笑みはどこにもない。 冒険者の世界では、新人が初日に命を落とすことなど珍しくはない。昨日まで隣で笑っていた仲間が、今日はもういない。それが「当たり前」の世界。 けれど、それを自分が引き起こしてしまったという事実は、カイルの胸に鉛のような重さで居座っていた。


「……カイルさん?」


 震える声に顔を上げると、そこには三番窓口に残っていたリサが立っていた。 彼女もまた、帰りが遅すぎる二人を案じ、閉館時間を過ぎても一人で待ち続けていたのだ。


「すまねぇ、リサちゃん。……やっちまったよ……」


 カイルの口から漏れたのは、いつもならリサを口説く時に使う甘い声ではなく、震えるような懺悔の告白だった。 レオが鉱石の罠に触れたこと。目の前で消えたこと。どれだけ探しても見つからなかったこと。


「えっ……レオ君が……!?」


 リサの顔から血の気が引いた。眼鏡の奥の瞳が大きく揺れ、手元の書類が床にハラハラと落ちる。


「そ、そんな……。あんなに目を輝かせて、ここに来たのに……」


 二人の間に、救いようのない沈黙が降りた。 死んだら、そこで終わり。 冒険者なら誰もが知るその残酷な格律が、今、リサとカイルの心に深く、鋭く刻まれる。

 リサが力なく事後処理の書類を手に取ろうとした、その時だった。

 ――ギギィ、と。

 重厚なギルドの正面扉が、夜風を吸い込んでゆっくりと開いた。


「(……こんな時間に、誰だ?)」


 カイルが虚ろな目で入り口を振り返る。 逆光の中、そこに立っていたのは、ボロボロになりながらも確かに自分の足で立つ少年の姿だった。


「……た、ただいま戻りました」

「――レオ!?」


 カイルが弾かれたように立ち上がり、椅子が派手な音を立てて倒れた。 リサもまた、信じられないものを見るように口元を両手で覆う。

 だが、驚きはそれだけでは終わらなかった。 レオの背後から、静かに、そして圧倒的な存在感を放ちながら現れたのは――月明かりをその身に宿したかのような、美しい金髪の聖騎士。 白銀の鎧を纏い、背には巨大な盾。王都の騎士団ですら目にしたことがないほど神々しいその女性は、レオを一歩後ろから守るようにしてそこに立っていた。


「……レオ君? 無事だったの!? それに、その方は……」


 リサの声が、驚愕と混乱で上ずった。 カイルも言葉を失い、レオと、その背後に控える「規格外」の風格を持つ女性聖騎士を交互に見つめることしかできなかった。

 絶望の淵から生還した少年と、歴史の闇から再誕した伝説。 二人の帰還は、平穏だったフィラルモニアの夜を、激動の序奏へと塗り替えていった。


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