2-11話:再誕の聖騎士、誓いの旋律
暴力的だった白い光が、波が引くように少しずつ収まっていく。 焼き付いた網膜の残像に目をしばたたかせながら、レオは恐る恐る顔を覆っていた右腕をどかし、その光の中心を覗き込んだ。
「……あ、……」
そこには、静寂の中に凛として佇む「一人の女性」がいた。 光を吸い込んだような眩い金髪が、腰まで届く長い一房となって流れている。身に纏っているのは、王都の衛兵たちが着ていたものとは次元が違う、繊細かつ重厚な装飾が施された白銀の鎧。そして彼女の背には、一人の少年を優に隠しきれるほど巨大な盾が背負われていた。
彼女は深く片膝をついた姿勢から、ゆっくりと顔を上げた。その青い瞳が真っ直ぐにレオを射抜く。
「……封印を解いてくださり、ありがとうございます」
鈴を転がすような、けれど芯の通った透き通る声。
「これからはあなた様に忠誠を誓います。……マスター」
「…………マスター?」
レオは呆然と立ち尽くした。何が起きているのか、全く理解が追いつかない。 あまりにも現実離れした美しさと威圧感に、これは何かの高度な投影魔術か、あるいは死ぬ間際に見ている夢なのではないかと辺りを見渡す。だが、そこには自分以外の誰もいない。
「マスターって……もしかして、僕のこと?」
おずおずと自分に指をさすと、彼女は深く、優雅に頷いた。
「えええ!? 僕がマスター!? な、なんで……!?」
混乱するレオの脳裏に、パズルのピースがはまるように母の語った「物語」が蘇る。一人で魔王を討伐し、王都に凱旋したものの、その強すぎる力を恐れた魔導士たちに排除された、孤独な女勇者。
「ち、ちなみに……あなたのお名前は?」
震える声で問いかけると、彼女は立ち上がり、右手を左胸に当てて深く一礼した。
「私はアテナ・グランジェといいます。かつて魔王討伐を果たしましたが、その直後、王国の魔導士たちによってこの地の底に封印されていました」
(アテナ……グランジェ……)
その名は、母の物語に登場した勇者の名と全く同じだった。 母さんの話は、お伽噺じゃなかったんだ。あのおかしな「ブローチ」が、彼女の封印を解くための鍵だったんだ。母さんは、最初から僕がここに辿り着くことを知っていたのか……?
次々と湧き上がる疑問に頭がパンクしそうになるが、今は感傷に浸っている場所ではない。ここは魔物が蠢く洞窟の最深層だ。
「わ、訳がわからないことだらけだけど……。と、とりあえずここを離れよう。地上に戻らないと」
レオは震える足を叱咤し、歩き出した。 家を追われ、街を追われ、たった一人で「無能」として生きるはずだった少年の背後に、今、世界最強の「盾」が音もなく従う。
不協和音に満ちていたレオの運命が、アテナという新たな音色を得て、激しく、力強く共鳴を始めていた。




