2-10話:深淵の共鳴、形見が拓く光
視界を焼き尽くすような閃光が収まったとき、レオの足元にあったはずの確かな感覚は消えていた。 背中を打つ硬い感触と、鼻を突く古い埃の匂い。レオが恐る恐る目を開けると、そこは先ほどまでの幻想的な空洞とは似て非なる、沈黙が支配する死の世界だった。
「……はぁ、はぁ、……ここ、は……?」
立ち上がろうとしたレオは、あまりの暗闇に息を呑んだ。 頼りになるのは、壁にへばりつくようにして自生している微かな発光鉱石の光だけ。それ以外は、飲み込まれそうなほどの濃密な闇だ。 カイルの声も、風の音もしない。ただ、自分の荒い呼吸と、どこかで滴る水の音だけが反響している。
(……最深層だ。間違いない)
本能が警鐘を鳴らす。王都付近の洞窟とはいえ、最深層には「無能」とされた今のレオが太刀打ちできるような魔物はいない。足が震え、腰に差した短剣を握りしめるが、その細い鉄の棒がひどく頼りなく感じられた。
壁に手をつき、一歩ずつ慎重に闇を進む。 やがて、その指先に不自然なほど滑らかな感触が触れた。
「……なんだ、これ?」
暗闇に目が慣れてくると、そこがただの行き止まりではないことがわかった。 そこには、悠久の時を経て風化したような石造りの祭壇、あるいは古びた「祠」のような場所があった。
レオは手探りでその祭壇を調べた。冷たい石の表面に、奇妙な「くぼみ」があるのを見つける。 どこかで見たことがある形だ。レオは数分間、暗闇の中でその形状を指先でなぞり続け、やがて雷に打たれたような衝撃と共に、ある物を思い出した。
「え、これ……まさか……」
震える手で、胸元にずっと付けていた母の形見――剣と盾を象ったブローチを外す。 まさか、という思いと、縋りたいという願い。レオはそのブローチを、祭壇のくぼみへと慎重に滑り込ませた。
カチリ、と。 完璧な精度で、形見が祭壇と一体化した。
「…………」
静寂。 なーんだ、やっぱり何も起きな――。 そう思いかけた瞬間だった。
「――っ!?」
足元の石床に、見たこともないほど巨大で複雑な魔方陣が浮かび上がり、暴力的なまでの魔力が吹き荒れた。壁に刻まれた古いルーン文字が次々と青白く発火し、洞窟全体を激しく揺らす。
「やばい、やばいって! なんだよこれ!!」
レオは慌てて祭壇から飛び降り、背中を壁に強く打ち付けた。 凄まじい振動。父が幾度となく繰り返した「死んだら、終わりだ」という言葉が、呪いのように頭の中で鳴り響く。
「死にたくない……死にたくないよ……!」
死への恐怖に視界が歪み、レオの瞳から一筋の涙が溢れる。 その時、祭壇の中央から、世界そのものを塗りつぶすような純白の光が溢れ出した。
それは影一つ作らせないほどに、あまりにも明るく、あまりにも神聖な光。 洞窟の暗闇も、レオの孤独も、そして震えるような恐怖さえも、その圧倒的な輝きの前では意味をなさなかった。
レオは眩しさに堪えきれず、腕で顔を覆った。 その光の渦の中心で、何かが目覚める音がした。




