2-9話:黄金の罠、光の断絶
「――ふんっ!」
レオが短剣を一閃させると、スライムの核が正確に撃ち抜かれ、プルプルとした体躯が水溜まりのように地面へ弾け散った。
(……倒せた。案外、あっさりだ)
初めて自分の力で魔物を倒したという高揚感が、胸の中に熱く広がる。5年間の地獄のような稽古は、決して無駄ではなかったのだと誇らしくなった。レオが期待に満ちた目でカイルを振り返ると、彼は剣を鞘に収めることすらなく、鼻で笑った。
「なんだ、その満足げなツラは。スライムごとき倒せて当たり前なんだよ、この世界じゃな。喜んでる暇があったら次を見ろ」
「…………っ」
褒め言葉の一つも期待していた自分に、レオは猛烈に腹が立った。カイルの言う通りだ。自分はまだ、冒険者の入り口に立ったばかり。スライム一匹で浮かれるなど、プロから見れば滑稽でしかない。
「……わかってますよ。次、行きましょう」
レオは悔しさを飲み込み、さらに洞窟の奥へと歩を進めた。 しばらく進むと、通路の先が急激に広がり、幻想的な光景が目の前に現れた。
そこは、壁一面に埋め込まれた鉱石が自ら光を放つ、巨大な空洞だった。青や黄色の結晶が星屑のように散りばめられ、洞窟全体を宝石箱のように照らしている。
「わぁ……! 綺麗だ。……あ、ありました! あれが依頼の鉱石ですね!」
焦燥感と空腹、そして「早く一人前だと認められたい」という功名心が、レオの警戒心を一瞬で上書きしてしまった。レオは背後のカイルの存在を忘れ、吸い寄せられるように壁際の巨大な結晶へと駆け出した。
「おい! バカ、待て! 止まれレオ!!」
背後でカイルの悲鳴に近い叫びが響く。
「トラップがあるかもしれねぇって――」
だが、カイルの言葉が届くより先に、レオの指先が冷たい結晶の表面に触れた。 その瞬間。
「……え?」
壁一面の鉱石が、心臓を突き刺すような鋭い音を立てて共鳴した。 視界が真っ白に染まるほどの強烈な閃光。 レオの足元の地面がぐにゃりと歪み、重力が消失する。
「う、わああああああっ!!」
叫び声も、光の中に飲み込まれて霧散した。 光が収まったとき、そこには無残に削り取られた壁と、ポツンと取り残されたカイルの姿しかなかった。
「……嘘だろ。おい、レオ! 返事しろ!」
カイルは駆け寄り、レオがいたはずの場所を無我夢中で探るが、そこには冷たい岩肌が残っているだけだった。
「やっちまった……クソっ! 転移トラップかよ……!」
カイルは頭を抱え、膝をついた。 王都のギルドで、自分の不注意で新人を見殺しにした「無能な先輩」という不名誉なレッテルが頭をよぎる。だがそれ以上に、あれほど口を酸っぱくして警告したのに、目の前で若者が消えてしまったという事実が、彼の胸を激しく締め付けた。
「あれだけ言っただろ、馬鹿野郎……! 生きてろよ、レオ……!」
カイルの慟哭が静まり返った空洞に虚しく反響する。 一方、光に飲まれたレオは、自分がどこへ飛ばされたのかさえ分からぬまま、終わりなき暗闇の加速へと身を投じていた。




