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2-8話:洞窟の静寂、冒険者の境界線

 結局、レオはカイルの同行を拒みきれず、二人で王都郊外にある「微睡まどろみの洞窟」へと向かっていた。

 道中、カイルは新人のレオに対し、延々と「冒険者の心得」を説き続けていた。


「いいかレオ、冒険者の基本は逃げ時を見極めることだ。死んだら金も名誉もねぇからな。あと、装備の整備は……おい、右から左に受け流してんだろ、お前?」

「……聞いてますよ。いざという時に痛い目を見る、でしょ」

 

レオは素っ気なく答えた。 見た目はチャラく、リサさんに食事を迫るような男だ。そんな奴の言葉に重みを感じたくないという意地があった。だが、カイルの歩き方は無駄がなく、常に周囲の物音に耳を澄ませている。チャラい外見とは裏腹に、その身のこなしは一線級の冒険者そのものだった。

 やがて、二人は鉱石が眠る洞窟の入り口へと到着した。 その瞬間、カイルの空気が一変した。


「いいかレオ。ここからは遊びじゃねぇ」


 軽薄な笑みが消え、その瞳には鋭利な刃物のような冷徹さが宿る。


「日没も近い。少しでも『やばい』と感じたら即撤退だ。いいな? 勇者ごっこがしたいなら他所でやれ。ここでは、死んだらそこで全部終わりだ」

「…………っ」


 その真剣な眼差しに、レオは息を呑んだ。 家を出る時、父ギルバートが放った「死んだら、終わりだ」という言葉が脳裏にフラッシュバックする。目の前の男が、一瞬だけ父と同じ、厳しい「戦士の顔」に見えた。


「……わかってます。お願いします」


 レオも覚悟を決め、背負い袋の中の「二丁の鉄塊」の感触を確かめた。だが、まだこれはただの不格好な鉄。実戦で役に立つ保証はない。結局、レオが頼れるのは、腰に差した護身用の古びた短剣だけだった。


「よし。俺が先行する。離れずについてこい」


 カイルが先に洞窟へ足を踏み入れる。 内部は等間隔に配置された魔導光が青白く灯り、湿った冷気が肌を刺した。奥へ進むにつれ、べちゃり、べちゃりという不気味な足音が反響し始める。

 現れたのは、半透明の不定形な魔物――スライムだ。 王都周辺では珍しくない、初心者向けの魔物。とはいえ、油断すれば足を取られ、体内に取り込まれて窒息させられる危険もある。

 カイルは剣を抜かず、顎でスライムを指した。


「レオ、自分でやってみるか? 冒険者になったんだ。いつまでも俺の背中を見てるわけにもいかねぇだろ」

「……っ。はい、やってみます」


 レオは短剣を抜き放ち、じりじりとスライムとの距離を詰めた。 スライムなら、なんとかやれるはずだ。魔法も剣の才能もない、辺境伯家の「無能」と蔑まれた自分でも。

(――低く、速く。父さんの型を思い出せ)

 レオは短剣を逆手に持ち替え、一歩を踏み出す。 初めての、本物の魔物との対峙。洞窟の冷たい空気が、レオの集中力を極限まで研ぎ澄ませていった。


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