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2-7話:焦燥の残響と、招かれざる同行者

 冒険者ギルドのプレートを手に、一瞬だけ英雄になったような気分に浸っていたレオだったが、次の瞬間、血の気が引くような事実に直面した。

(……待てよ。僕、今いくら持ってる?)

 背負い袋の奥、小さな革袋を覗き込む。そこにあるのは、道中ほとんど食べてなかったせいで、王都の店で使い果たし、底が見えかけた数枚の銅貨のみ。王都の物価を考えれば、今夜の宿代どころか、まともな夕食にすら足りない。

(あ、……やばい。このままだと、王都に来て初日から野宿だ……!)

 焦りがレオを突き動かす。リサさんに聞けば、ギルド提携の安い宿を紹介してもらえるかもしれない。けれど、その「安宿」に払う金すら今のレオにはなかった。

(今からだ。今から日銭を稼ぐしかない……!)

 レオは再び掲示板へと駆け寄った。だが、時間はすでに昼過ぎ。条件の良い討伐依頼や護衛任務は、午前中のうちに手練れたちが総なめにしていった後だった。残っているのは、手間がかかる割に実入りの少ない「残り物」ばかり。


「薬草採取と、鉱石採取……これなら今からでも間に合うかな」


 レオは二枚の依頼書を剥ぎ取り、三番窓口へと急いだ。


「リサさん! すみません、さっそくですがこれ、お願いできますか?」

「んー? どれどれ……?」


 リサは手渡された依頼書と、壁に掛かった時計を交互に見た。


「今からなら、街のすぐ外での薬草採取なら間に合いそうだけど……鉱石採取の方は、少し離れた洞窟まで行くから時間がかかっちゃうかも。初めてだし、一人で行くのはちょっと危険かなぁ。誰か、慣れた冒険者と一緒ならいいんだけど……」


 リサが困ったように眉を下げた、その時だった。



「おやおや、リサちゃん。どうしたのさ? 何かお困りかな?」


 横から、やけに軽い調子の声が割り込んできた。 現れたのは、磨き上げられた軽銀の鎧に身を包んだ、金髪を遊ばせたチャラめな男だった。その顔には余裕たっぷりの笑みが浮かんでいる。


「あ、カイルさん! ちょうどいいところに。この子、レオ君が鉱石採取に行きたいそうなんですが、この時間ですし、良ければ一緒に行って案内してもらえませんか?」

「え、俺がぁ?」

 

カイルと呼ばれた男は、レオを値踏みするように上から下まで眺めると、リサに向かってニヤリと笑った。


「ん~、そうだなぁ。……なら、今度俺と一緒に食事に行ってくれるなら、付き合ってやってもいいぜ?」


 その言葉を聞いた瞬間、レオの胸の奥で、カチリと何かが噛み合わない音がした。 自分を「小僧」扱いする視線も、リサさんを取引の道具にするような物言いも、今のレオには異様に腹立たしく感じられた。


(……なんだ、この人。……不愉快だ)


「……いいです。一人で行きますから」

「えっ、レオ君!?」


 リサの制止を聞く前に、レオは背を向けた。 あんなチャラついた男に、リサさんとの食事を「報酬」として差し出させるわけにはいかない。何より、自分の力で生き抜くと決めた初日に、あんな男の顔色を伺うなんて御免だった。

 レオは何も言わず、足早にギルドの出口へと向かった。 怒りと焦りで耳が熱い。頭を振ってリサさんの心配そうな顔を振り切り、重い扉を押し開けて外の喧騒へ飛び出した。

 だが。


「お、おい! ちょっと待ってくれよぉ、置いてくなよ!」

 

背後から、慌てたような足音が追いかけてきた。振り返ると、さっきのカイルが軽銀の鎧をがちゃつかせながら走ってくる。


「リサちゃんにあんな顔させちゃ、寝覚めが悪いだろ? ほら、案内してやるから。感謝しろよ、新人くん!」


 レオは無言で眉を寄せた。 王都での初仕事は、どうやら最悪の「不協和音」と共に幕を開けることになりそうだった。


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