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2-5話:不協和音の洗礼と、導きの旋律

 門をくぐった瞬間に押し寄せてきたのは、辺境の領地街とは比較にならない「音」と「熱」の洪水だった。

 石畳を叩く馬車の蹄、露店商たちの野太い呼び声、数え切れないほどの人々が放つざわめき。そして何より、白亜の石造りの建物が空高くそびえ立ち、どこまでも続く光景にレオは圧倒されていた。


「(……すごい。全部が、僕の知ってる『街』とは別の生き物みたいだ)」


 レオは新しいもの、珍しいものに目を奪われ、首が痛くなるほどキョロキョロと周囲を見渡しながら歩いた。だが、そんな感傷に浸っていられるほど、王都は優しくなかった。


 ――ドンッ!


「ぐっ……!?」


 正面から歩いてきた大柄な男に肩がぶつかり、レオは弾き飛ばされそうになった。


「おい小僧! ちゃんと前見て歩きやがれ、この田舎者が!」


 見上げれば、熊のような図体の男が鋭い眼光でこちらを睨みつけていた。腰には使い古された大剣が揺れており、場数を踏んだ冒険者であることは一目でわかった。


「す、すみません! 気をつけます!」


 レオは反射的に頭を下げ、逃げるように小走りでその場を離れた。少し離れてから、ようやく荒い鼓動を落ち着かせて溜息をつく。


「……あぶねぇ。おっかねぇおじさんだったなぁ……。人も多いし、浮かれて歩いてると命がいくつあっても足りないぞ」


 気を取り直して、目的地の「冒険者ギルド」を探そうとしたレオだったが、すぐに壁にぶち当たった。右も左も似たような豪華な建物ばかりで、どこに何があるのかさっぱりわからないのだ。


「(……てか、ギルドどこだ? あんなに威勢よく入ってきたけど、場所を聞くのを忘れてた……)」


 ふと、門番の冷たい顔が脳裏をよぎる。戻って聞こうかとも思ったが、あの「家の紋章」を見た時の蔑むような視線を思い出すと、二度と顔を合わせたくなかった。


「いや、あいつらに聞いたら胸糞悪くなるだけだ。……よし、もっと優しそうな人を……」


 あてどなく歩きながら、レオは再び周囲をキョロキョロと見渡した。人波に流されそうになっていたその時、すぐ隣から涼やかな声が届いた。


「キミ、どうしたの? 地方から来たばかりかな?」

「えっ?」


 振り向くと、そこには眼鏡をかけた、落ち着いた雰囲気の女性が立っていた。艶やかな黒のロングヘアが風に揺れ、知的な印象を与える。そして何より、王都に来て初めて向けられた「心からの親切な微笑み」に、レオは毒気を抜かれた。


「あ、あの……冒険者ギルドへ行きたいんですが、迷ってしまって」

「やっぱり! さっきからキョロキョロしてたから、放っておけなくて。ふふ、いいわよ、ちょうど私も戻るところだから。付いてきて」

「本当ですか!? 助かります……!」


 レオは地獄に仏とばかりに、彼女の後を追った。彼女が歩くと、混み合った通りでも不思議と道が開いていく。歩きながら時折こちらを気遣うように振り返る姿は、まさに「綺麗なお姉さん」そのもので、レオは少し照れくさささえ感じていた。

 彼女に案内されること数分。路地を抜けた先に、ひときわ頑丈そうな、それでいて活気溢れる大きな建物が現れた。入り口には剣と盾をあしらったギルドの紋章が掲げられている。


「はい、到着。ここが王都の冒険者ギルドよ」

「ありがとうございます! こんなに近かったんですね……」


 レオが深く頭を下げると、彼女は眼鏡の奥の瞳を悪戯っぽく輝かせて笑った。


「いいのよ、気にしないで。……あ、そうだ。困ったことがあったら、三番窓口に来てね」

「窓口、ですか?」

「ふふ、実は私、ここの受付をしてるの。私はリサ。よろしくね、未来の冒険者くん」


 そう言って軽やかにギルドの中へ入っていく彼女の背中を見送りながら、レオはポカンと立ち尽くした。 不協和音ばかりだと思っていた王都フィラルモニア。けれど、その中に一筋、心地よい「旋律」を見つけたような気がして、レオは無意識に胸のブローチに触れた。


「……リサさん、か。よし、行くぞ」


 レオは覚悟を決め、冒険者としての第一歩を刻むべく、ギルドの重い扉を押し開けた。


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