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2-4話:巨都の門、捨てられぬ証

「――っ、はぁ、はぁ、……まだ、全然……遠い……っ」


 レオは膝に手をつき、荒い息を吐き出した。 さっきまでの高揚感はどこへやら、喉の奥が鉄の味を帯びている。丘の上からあんなに近くに見えた城壁は、実際に走り出してみると、陽炎のように遠ざかっていくばかりだった。


「あー、……やっぱり、歩こ……」


 直射日光を遮るものがない街道で、一人バテている自分の姿を想像し、レオは急に羞恥心に襲われた。 かっこよすぎる旅立ちを決めたはずなのに、これではただの「張り切りすぎた子供」ではないか。

(……誰かに見られてないよな?)

 レオは、挙動不審な動きで周囲をキョロキョロと見渡した。幸い、街道を進む馬車は遠く、近くに歩行者の姿はない。 不審者と間違われてもおかしくない怪しい動きを自覚して、レオは顔を赤くしながら、ぐったりと肩を落とした。


「……はぁ。こんなことで人目が気になるなんて、僕もまだまだガキだな」


 自分を「15歳の男」だと言い聞かせて境界を越えたはずなのに、根っこの部分は屋敷で不遇を嘆いていた少年のまま。そんな自分に少しだけ凹みながら、レオは今度こそ、一歩一歩、地に足をつけた歩みを再開した。

 

 ________________________________________


 太陽が天頂に届き、影が足元に吸い込まれる頃。 ようやく、レオの頭上に巨大な影が差した。

 見上げるほどに高く、厚い。王都フィラルモニアの外門だ。 門の先からは、石畳を叩く馬の蹄の音、人々の喧騒、そして得も言われぬ熱気が、不協和音となって溢れ出してきている。


「次、お前だ。止まれ」


 銀色に輝く甲冑に身を包んだ門番が、槍を交差させてレオを止めた。 ヴァレンタイン領の衛兵とは違う、洗練された、だが事務的な冷たい眼差し。


「王都への入市目的は? それと、身分を証明できるものを提示しろ」

「えっと、仕事を探しに……。身分証は、これです」


 レオは背負い袋の奥底、大切に布に包んでいた「銀のプレート」を取り出した。 家を追われ、相続権も何もない「無能」とされた身であっても、彼がヴァレンタインの血を引く者であることを証明する唯一の品――ヴァレンタイン家の紋章が刻印された身分証だ。

 受け取った門番の眉が、ピクリと跳ねた。


「……ヴァレンタイン? 辺境伯の、あの『双剣の紋章』か。それも三男……」


 門番はプレートとレオの薄汚れた格好を交互に見た。その瞳には、一瞬で「名門の家から逃げ出してきたのか、それとも追い出されたのか」という憶測の火が灯る。

 レオはその視線に、胸の奥がチリりと焼けるような感覚を覚えた。 自由になりたくてここへ来たのに、最初に出すのが「父の名前」だなんて。 けれど、今の自分にはこれ以外に自分を証明する術がない。


「……通っていいか?」


 レオの声は、少しだけ低くなった。 門番は無言のまま、プレートを突き返すように戻すと、交差させていた槍を引いた。


「通れ。……だが小僧、この街は辺境ほど甘くない。家の紋章が守ってくれるのは、この門をくぐるまでだと思え」

「――わかってる」


 レオはプレートを握りしめ、前を見据えた。 重厚な門をくぐった瞬間、視界が開ける。 目の前に広がるのは、白亜の建物が立ち並び、数多の運命が交差する大都市フィラルモニア。

 少年の「戦律」を書き換えるための、真の舞台がついに姿を現した。


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