5-9.リンメイとダマリン
街は人族の街の風景とほとんど変わらない。看板の文字も人族と同じだった。文字も人族から学んだのだろう。
ただ、よく見ると、街を行き交う者たちは耳の尖った者と尖ってない者が居る。エルフでも種類が違うのか。そう思っていると
「イミナスを人族から魔族に返した頃は、人族は奴隷扱いだった。が、今はダマリンたちも人族を受け入れているようで、人族のエリアもつくったとか。魔族にしろ、人族にしろ、種類が違うだけでいい者も悪い者もいる。共存出来たほうがいいと思うよ」
と雅則が話してくれた。
「・・そうですね」
リンメイが雅則と城に上がっていくと、エルフが待っていた。耳が尖っているから、そうだと思った。雅則が
「ルル、ごくろうさん」
と挨拶した。
「ダマリン様が謁見の間でお会いになります」
ルルと呼ばれたエルフと思われる女が親しそうな顔で雅則に言った。
「彼女もエルフですか?」
「うん。ダマリンがイミナスの統治者になったあと、山から呼んだエルフの一人で、ネネは街で飯店を経営し、ルルは城の中で仕えている」
謁見の間に入ると、そこは広々とした部屋だった。会議が開けるようにテーブルも椅子も揃えてある。
「ダマリンたちも洒落たことをしているんだ」
雅則も知らなかったようだが。するとルルが
「ダマリン様から相談されて、会議が開けるように仕様を考えました。人族の真似ですけど」
と教えてくれた。
「さすがエルフ。人族に負けていないな。魔族会議も開かれたと聞くが、ここでしたのかな?」
「はい。ここでした」
ルルはそうこたえて部屋を後にした。
そして3人が入ってきた。一人はリサ、もう一人はイビル。そして2メートルを超える大柄な者が入ってきた。どう見ても人族には見えない。顔つきからして凶暴な魔物という印象だった。
「あれがダマリンですか」
「そうだ」
腕の太さといい、筋肉質の身体といい、まともに闘ったら勝ち目のない印象だった。
これが雅則が友達になったという魔族なのか。
が、そのダマリンは
「ハーロック。慣れないことをすると緊張するものだな」
と雅則に言った。
「俺もまさか、ダマリンが魔族会議を開くなど聞いたときは驚いた。さすがシームア領を管轄するだけの器量があると思った」
雅則も、まるで親しげな友達と会話するように言った。
「持ち上げなくていい。これからはハーロックの力を借りなければならない事態になりそうだ」
「俺もこっちの世界に愛着を強めている。ダマリンたちとも仲良くしていきたい」
リンメイは雅則とダマリンの会話に唖然としていた。
「で、どうして俺に人族を会わせたいと・・」
「リンメイはスラーレン法国出身だが、今はエランデルに身を置いている。そして近隣の魔族から頼りにされているらしい。これから相手にするのは今までにない人族の国だ。魔族、人族その他力を合わせて危機を乗り越えなくてはならない。そのためにもリンメイには魔族と絆を深めてほしいと思った。俺、悠介、美緒の3人では他国を相手に今までのようにいかないかも知れないからな」
「うむ。俺に異論は無い。で、リンメイの力は・・」
「レベル100。火星魔法を使える。武術も習得している」
雅則がリンメイを高く評価するように言った。
「頼もしい人族だ。リンメイ、よろしくな」
「は、はい」
リンメイはダマリンに言われて、また緊張してしまった。そして
「あ、あの・・」
リンメイには理解出来ないことがあった。
「魔族は人族の言葉を話せるんですか?」
そう、雅則とダマリンは友達のように会話をしている。そしてダマリンの言葉をリンメイも理解出来ている。というかダマリンが人族の言葉を発しているように思った。
確かに、リサやイビル、リンスたち魔族は人族に変異して人族の中で生きているが・・。
「ああ、そのことか・・普段気にしてないから忘れていた」
雅則が説明してくれた。
「俺は言語翻訳魔法という魔法で魔族と会話することが出来る。ダマリンも人族の言葉を理解出る魔法が使えるらしい。だからダマリンから発せられた言葉は相手の人族に人族の言葉として伝えることが出来る」
「そうなんですか。私はスラーレンで育ち、魔族と会ったことはなかったのでそういう魔法は知りません。でも・・マキギ族の言葉も理解出来ました」
「そうなんだ。それはマキギ族が言語翻訳魔法を使えるか、リンメイが本能的に言語翻訳魔法を使ったのかも知れない」
「そう・・ですよね」
なんとなく理解した。いや・・理解せざるを得なかった。
「リンメイの名はマキギ族のキーリスから聞いていた。彼も魔族会議に参加してくれたからな。リンメイに感謝しているようだった」
ダマリンに言われて
「私は・・何も出来ていないです。みんなハーロックさんたちが力を出してくれたから・・」
リンメイはすまなそうに言った。
「リンスの話でも、マキギ族はリンメイを頼りにしているそうだ」
「頼られても・・」
すると雅則が
「リンメイ一人で力になってくれというわけじゃないだろう。俺一人でどうなることでもない。みんなで協力して解決していけばいいんじゃないか」
と言ってくれた。
「噂では、ケルトン族を追い出したアリオン神国の人族は、人族の国にも攻め入ってくる気配らしい。クハノウ国同様、エランデル国も落とされる可能性がある。これからは人族だ、魔族だなどと言っている場合ではなくなるだろう」
「それで、魔族会議を開いたのか」
「正直、人族を守ると言うよりシームア領を守りたい。どう対応するかまでは至らなかったが、危機感を共有出来たと思う。何かあれば、今まで以上に迅速に情報が入るだろう」
「俺の見解では、エランデルの人族の力はあてにはならない。魔力に頼りきっているところもある。イミナスの軍もワリキュールの軍も俺が潰してしまった経緯もあるし」
「近隣の人族が大人しくなったのは認めるが、まさか他の領地から侵略される事態になるとは思っていなかった」
「力を合わせて危機を乗り越えよう」
「堅苦しい挨拶は苦手だ。座ってくつろごう。昨日から緊張し通しだ」
「え?そうなのか」
「飲み物を持ってこさせる。人族は酒というものを飲んでなごむようだとイビルから聞いているが・・」
「人族はそういう和み方をする場合もあるが、ダマリンは覚えないほうがいい。城が壊れるかもしれない」
「そんな危険な飲み物か」
「イビルは二日酔いで済んでいるが」
「今は二日酔いにならないくらい強くなったから」
イビルが反論した。
「美緒がエランデルでリカに遇ったらしい。非協力なイメージだったと言っていた」
「リカはイビル以上に扱いにくい」
「何よ、その言い方。ひどくない?」
イビルは遠慮なくダマリンに貯め口をきいている。
「イビルは懸命に尽くしてくれている。俺は感謝している」
雅則がダマリンに言った。
「俺もイビルが以前と比べて丸くなったと評価している。ハーロックのおかげだろう」
「俺は何もしていない。イビルやリサを束縛出来ないからな」
「リサを従者にしているだろう」
「え?ああ・・言ってなかったか。従者は解任した。リサには悪かったと思っている」
「そうなのか」
こんどはリサが気まずい顔をした。リサはダマリンに雅則の従者を解かれたことを報告していなかったようだ。雅則もそれを察して
「だが今でも俺に尽くしてくれている。大切な仲間だ」
と雅則がリサをかばった。
「俺もリサやイビルはもちろん、シームア領の生き物は、みんな仲間だと思っている」
「ではこれからもリサやイビルの世話になるぞ」
「承知」
「それで、近々クハノウ領に行ってくる予定だが、リサとイビルも連れて行く」
「イビルからその話は聞いている。二人はそれなりの力があるから心配はしていないが、無事、戻してくれよ」
「約束する」
ダマリンとの対面を終えてリンメイは
「意外で驚きました」
と雅則に言った。
「すごく暖かいものを感じました」
「俺もダマリンは心やさしくて頼りになる魔族だと思っている」
リンメイも人は見かけによらないもの、という思いを改めて感じた。ダマリンは人ではないが。




