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5-8.イミナスへ

 翌日、美緒は牧場に行った。仕事の引継ぎをスミスたちとしてくるらしい。

 雅則はリサとエドワールに向かった。

 リンメイはカリナに自動車の運転を教わることになった。

 自動車は馬車に変わる自分で動く乗り物。悠介とカリナが設計したものらしい。ソリアも今はそれで冒険者協会の往復に利用している。

「これがアクセルで、これがブレーキ。慣れないうちはあまり速度を出さなければ安全よ」

 館の庭でカリナから運転を教わった。運転はそう難しくはなかった。最初はブレーキとアクセルを間違えてカリナを驚かせたが、走らせることが出来ると楽しい乗り物に思えた。


 夕方には美緒も戻ってきて、悠介も営業所の帰りに寄ってくれた。

「リンメイさんは自転車に慣れるのも早かったけど、自動車の運転を覚えるのも早いわ」

とカリナが絶賛してくれた。

「明日は牧場の送り迎えをしてもらおうかな」

 美緒が言うと

「それ、教習所の仮免のあとの路上教習のようなものか?」

と悠介が聞いていた。

「ピンポ~ン。名案でしょう? 私の元の世界では、自動車を運転するには教習所に通って教わらなければならなくて、仮免をとると、実際に路上運転するの」

と美緒が説明してくれた。


 そして翌日。

 リンメイは美緒を助手席に乗せて自動車を走らせて牧場に向かった。

 今は牧場の敷地にチーズ工場、バター工場、ワイン醸造所、スミス電力、そして総合商社・スミスコーポレーションの本社も建っている。

 リンメイはそれらの建屋を美緒に案内してもらった。どの建物も驚くばかりだった。

「雅則くんは、エドワールに電気を作る発電所などの建設に携わっているの。エドワールもどんどん変わっていくわよ」

 リンメイがニドルの経営する温泉で過ごしている間に、エドワールも変わっているようだった。美緒の話に、リンメイはまだついていけそうになかった。


 ◇


 そして翌日、エドワールから戻った雅則とリサと3人で魔族が統括しているというイミナスに行くことになった。承知はしたものの、ダマリンとかいう魔族に会いにいくのだ。興味と不安を覚えた。

 悠介がキャンピングカーで館にやってきた。悠介が新しく設計したというキャンピングカーで、頑丈に出来ているらしく、大抵の魔物に襲われてもビクともしないらしい。

「改良を加えてあるから、速度も出るし、燃料も往復出来る。ガラスは鉄ガラスで作ってある。ただライトはまだないから、夜の運転は気をつけろよ」

 悠介が雅則にキャンピングカーの説明をしていた。

 雅則もリサも旧型のキャンピングカーには乗ったことがあるらしいが、リンメイははじめてだ。美緒やソリアが通勤に乗り回している自動車にも驚いたが、キャンピングカーの車内は少人数なら住めるようなつくりになっている。

「ぶつけたり、何処かに落としたりしないように気をつけて行ってくるよ」

「リサは運転の経験がないんだろう?」

「行きながら慣れてもらうさ。難しくないだろう」

「交通規則を覚える必要もないし。道路は路面の平らなところは少ないから、バネにも改良を加えてある。乗り心地は高まっているはずだ」

「わかった」

 ソリアとカリナが用意しておいてくれた野菜や食料を渡してくれた。

「じゃあ行ってくる」


 出発時は雅則が運転した。

「確かに乗り心地はよくなっている。しばらく走ったらリンメイが(運転を)代わってくれ」

「はい」

 リンメイと雅則が運転を交代しながらイミナスに向かった。リンメイはコースがわかないから雅則が指示している。

 途中で一休みしたあと雅則に

「リサに運転の仕方を教えてくれる?」

と言われた。

 雅則が教えるのかと思っていたが、リンメイが頼まれた。

 リンメイはカリナに教わった方法を思い出し、リサに運転の仕方を説明した。後で気づいたのだが、お互いおしゃべり苦手なリンメイとリサの仲を縮めようとの雅則の気遣いらしかった。


 リサも運転を覚えるのは早かった。

「どう難しいか?」

と雅則に聞かれて

「いいえ。楽しいです。馬車を走らせるより楽です」

とリサはこたえていた。

「暗くなったってきたらあらためてリサに運転を頼むから、明るいうちは俺とリンメイで交代しながら行こう」

「はい」

 リサは夜行性でもあるらしく、夜の走行は雅則がリサに頼んだ。ただ、一日中、走りっぱなしではない。途中、休み休みイミナスに向かった。馬車の馬が水を飲んだり、えさを食べるように、キャンピングカーもエンジンというものを休ませながら走らないといけないらしい。

 それにずっと揺られながら乗っていると、疲れも溜まる。

 以前にキャンピングカーの試乗をしたことのあるカリナから

「長く乗っているとお尻が痛くなるかも」

と聞いていたが、それはない。新しいキャンピングカーは乗り心地も良くなっているのだろう。


 ◇


 イミナスには2日かけて到着する予定らしい。

 キャンピングカーの中には水が使えるシンクや冷蔵庫もある。蛇口から水を出すためにエンジンの回転を利用して電気を発生させ、それをバッテリーに蓄電して水を吸い上げるモーターを動かす。バッテリーは多くは蓄電出来ないらしいが、重宝した。冷蔵庫は魔法で出した氷を入れて庫内を冷やすシンプルなものだ。具材を暖めたい場合も魔法を用いる。

 館を出て来るとき、ソリアとカリナが、用意しておいてくれた野菜や食材を渡してくれた。美緒やコーネリアからも牛乳やチーズなど乳製品もくれた。料理は雅則が得意らしい。リンメイもリサも申し訳なく思いながら、美味しく食べた。


 川の近くで車中泊する。

 車内を寝室仕様に変更すると、その乗り心地は馬車よりはるかにいい。車体は頑丈につくられ、窓は鉄ガラスというものらしく、魔獣に襲われても壊される心配はなさそうだ。

「リサ、何かあればセンスエネミー(敵感知)が働くから休んでいいぞ」

「はい」

 雅則がリサを気遣っている。リサは雅則に従者にされてからの仲だという。本当に仲がよさそうだが、雅則は人族。リサは魔族だ。ワリキュールでは、雅則はハーロック伯爵を名乗ることもあり、その場合は、リサは伯爵夫人。コーネリアはハーロックの妹という扱いらしい。

 夜中に襲ってくるものはいなかったが、日中は距離を稼ぐために森の中を抜けるコースも走った。飛び蟻(フライアントラー)など小物はリンメイとリサが打ち落とした。キャンピングカーの進行を阻むものは、雅則が倒した。


 ◇


 陽が落ちると夜空の星が煌びやかに彩った。夜行性の目を持つリサが運転してイミナスの街に入った。

 街の外灯は油を灯しているが、遅くまで賑わっていることもなく、外灯も油がなくなると消えて暗くなる。

 ある飯店の前で誰かが待っている。

「ネネです」

 リサが雅則に言った。ネネは飯店の女将をしているらしく、先にイミナスに戻ったイビルがリサと交信して到着時間をネネに伝えていた。

 玄関前にキャンピングカーが止まると、ネネはキャンピングカーを見て驚いていた。

「お待ちしてました。これが馬車に替わる乗り物ですか?」

 ネネが雅則に聞いた。

「うん。馬の世話もないから楽だよ。ここに居る間は置かせてもらうから、自由に乗っていいよ」

「宿泊は2名でいいんですか?」

「うん」

 どういうこと?と思っていると、リサは飯店に一緒に泊まらず

「私はダマリン様のところに」

と宿をあとにした。そう、リサはダマリン配下の魔族だった。普段は彼女が魔族であることを忘れるくらい人族に溶け込んでいる。


 そしてリンメイは、他にも戸惑ったことがあった。

「どうした」

 雅則に聞かれて

「いえ。・・イミナスの街は魔族やエルフが住んでいると聞いていたので。街に入ると、見かけるのはほとんど人族に近く、よく見ると耳の形が確かに違うようですけど。それにこの飯店もエランデルとほとんど違和感がないので」

 リンメイもエルフの存在は知っている。ニドルの温泉で働き始めた頃、ケルトン族という人族に襲われていたエルフを助けたことがあった。

「人族に近いのはほとんどはエルフという種族らしいが、今は街に住んでいる人族も居るらしい。種族を超えて仲良く暮らしている。ここも大分変わってきた」

「種族を超えた共存ですか」

「うん。それがいいんじゃないかな」

「ハーロックさんの考えというか、思いがわかってきました」

「そう?ならいいけど。俺はもともと口下手だし、話すのは得意じゃない」

「今回はハーロックさんについてきてよかったと思います。魔族との対面は不安ですけど」

「心配しないで。見た目は怖そうだが、心は優しい魔族だ。リンメイと同じ部屋で過ごすわけにはいかないだろうから、ゆっくり休んで。お休み」

「はい」

 この飯店はエルフが経営している。そしてつくりは人族の飯店と変わりは無い。不思議な気持ちを抱きながら、リンメイはベッドで眠りについた。キャンピングカーの乗り心地は馬車よりよかったが、それなりに疲れた。


 ◇


 そして翌朝。

 リンメイは雅則と食事処に向かった。

「よく眠れたか?」

「はい。自動車での長旅はSLより疲れましたけど、ぐっすり眠れましたから」

 そうこたえて

「ここはほんとうにエルフの街なんですか? 人族の街と変わらない感じがするんですけど」

と雅則に聞いた。

「昔は人族とエルフは仲が良かったらしい。エルフは人族に近い知性を持っているらしい。そして昔は人族からいろいろ教わったとも言っていた。ただエルフは戦闘能力はあまりないので守ってやらないと滅びてしまう。そういう種族でもあるらしい。そのうち、人族が権利争いをして、国をつくり、他の生き物をエリアから追い出していった、そして今のようになった。

 イミナスも同じような人族の国だったが、エランデル国に侵攻してきたので、俺や美緒でイミナスを潰した。この辺りはもともとシームア領の管轄で、魔族のダマリンが守っていたらしい。そこでイミナスをダマリンたちに返したんだ。その後、ダマリンは、ここイミナスにもエルフたちを住まわせるようになった」

 雅則は淡々と語ったが、リンメイにはこともなげに何でもしてしまう雅則に驚かざるを得なかった。


 そして朝食。

「料理も美味しいし、料理や作法も人族の経営する飯店と違いはないですね」

 素直に感想を述べた。

「俺も、このイミナスの街も気に入っている」

「私もケルトン族から追われていたエルフを助けたことがありましたけど、生き物っていろいろ居るんだと、あらためて思いました」

「俺も、この世界に来ていろんな生き物が居ることに驚いた。・・城に上がってダマリンと対面してもらうけど、街を散策してから城に上がるか」

「はい」



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