5-6.なつかしい館
ワリキュールに早く行くには飛行船がいいが、搭乗するには予約が居る。SLのほうが乗車は慣れている。今はエランデル国からワリキュール王国までの直通のSL列車がある。リンメイはSL列車で行くことにした。
以前、両親の墓参りにスラーレン法国に戻ったときもSL列車を利用した。しかし、そのときはワリキュールの街にもハーロック(雅則)たちの館にも立ち寄らなかった。
今回は雅則たちに会うために館を訪ねる。ワリキュールのワルコット駅が近づくと緊張を覚えた。そしてワルコット駅に着くとハーロック(雅則)たちの館に向った。
エランデルに逃げるように移ってからは、ワリキュールの地は足が重く感じたが、今日は軽かった。館のみんなには多少会いづらい思いもあるが遊びに戻ってきたわけではない。シームア領の危機を救ってもらえないか、相談に来たのだ。
駅から館までの景色は以前と変わってないように思えた。
ただ街路は馬車より自動車のほうが増えているようだ。エランデル国ではまだ自動車はなく、馬車が重宝されている。
そしてナターシャが結界を張っているので、ワリキュールの街が魔物に襲われることもない。
「ワリキュールは平和なんだ」
そう思った。
館の前に着くと、急に足が重くなった。雅則たちに助けられ、世話になったことが何度かあった。その館を夜逃げのように抜け出してエランデル国に逃げるように出て行ったのだ。今更戻ってくるつもりは、先日までなかった。だが、エランデル国が、シームア領が再び危機に陥っている。雅則たちを頼らなければならない状況に陥っている。そのために館に足を運んできた。
館の中はひっそりとしていた。みんな仕事に出かけているのだろう。
「リンメイさん・・」
カリナが気づいて二階から下りてきた。カリナは居た。
「カリナひとり?」
「ええ。悠介さんも館を出て、ハーロックさんは伯爵邸かエドワール。美緒さんはエランデルに向かったわ」.
「美緒さんがエランデルに? それに伯爵邸って・・」
「ハーロックさんは、もともとエランデル国の伯爵だから、スラーレンの大使館だったところをリフォームして伯爵邸にしたらしいの」
「そう」
貴族の身なりは嫌っていたハーロック(雅則)も、やはり心を変えたのか。
「二人が館を出た代わりというか、スレーンさんが館の住人になったわ」
スレーンとは元冒険者で、チーズの店『マキバ』の店長をしているはず。
「しばらく離れている間に館も変わったのね」
「悠介さんもナディさんと住み始めたし」
「そうなんだ」
夕方になって、まずソリアが帰ってきた。
「リンメイさん」
ソリアは笑顔で迎えてくれた。リンメイを館の中で一番気遣ってくれたと思っている。
イビルも館に戻ってきて
「リンメイ。戻ってきたの?」
と驚いていた。
「エランデルというか、シームア領に人族以外にも、クハノウ領の魔物も移ってきていて、ハーロックさんたちにその報告と相談に・・」
「その話はイミナスからエランデルに回ったハーロックさんから聞いたけど、それで美緒さんがエランデルに向かったの。ハーロックさんはエドワールに戻ったはず。リサが同行して行っているから・・リサ夫人として扱ったほうがいいかな?」
「人族じゃないんだから。でも、もう同じようなものか」
リンメイはイビルとソリアの話を理解出来ず、「え? え?」という顔をした。
ソリアが
「これもいろいろあってね。リサはハーロック伯爵夫人ということになっているの」
と話してくれた。どうしてそうなったかは、リンメイはまだ理解出来ていない。
それからソリアから
「リンメイさんの部屋は、いつ戻ってきても使えるように美緒さんから空けておくように言われているから。以前のように自由に使って」
と言われた。
スレーンも『マキバ』の店を閉めて帰ってきた。
「リンメイ、しばらく」
勝手に出て行ったリンメイのことを、みんな前のように暖かく迎えてくれる。これは感謝だった。
「これで館の住人はみんな戻ってきたかな」
ソリアが確認していた。リンメイは思い出したように
「ジルは?」
と聞いた。リンメイが館に居たとき、ジルとスミス電力で仕事をしていたこともあった。
「ああ、忘れていたわ。彼はスミス電力の寮に住み込みで入っているのよ。いちいち館に戻ってこなくてもいいように」
「そうなんだ」
「ジルが休みの前にイビルがジルをスナックに誘って出かけているわ」
リンメイはジルも何処かに行ってしまったわけではないことに、なぜか安堵していた。
夕食の料理はソリアとカリナが考案してもてなしてくれた。
「コーネリアも、ハーロックさんも美緒さんも館を出ているから、悠介さんとナディさんに預かってもらっているの」
ソリアが思い出して教えてくれた。
食事のあと、リンメイも
「私も手伝うわ」
と後片付けを手伝った。
そして、その夜。
イビルがエドワールに行っているリサとオウムで交信し、リンメイと雅則が話せるようにしてくれた。
「リンメイです」
「久しぶり。元気?」
久しぶりに雅則の声を聞いた気がした。
「はい。・・あの、エランデルのことで・・」
リンメイはエランデル国の状況を雅則に伝えた。雅則も
「(エランデルが)大変なことになっていることは知った。美緒ちゃんがエランデルに向かった。俺も明日、そっちに戻るから。館ではなく、伯爵邸で会おう」
「はい」
雅則は相変わらず話が短絡的だ。だが、内容はわかった。
リンメイは雅則と話が出来て、なぜか安心したような思いになった。まだ何も解決出来ていないのだが。
そしてソリアから
「一緒にお風呂に入らない?」
と誘われた。
「大浴場は温泉と、ここしか知らないから・・この館に居たときは、入るのが楽しみでした」
リンメイもソリアとお風呂を楽しんだ。
「話しづらかったら聞かないけど、温泉っていいの?」
ソリアに聞かれて
「温泉は、ここと同じように大きな浴槽だけじゃなく、お湯の質が違うの。私も温泉に行くまでは知らなかったんだけど・・」
ソリアはまだ温泉を知らないようだった。
温泉の話から始まって、ソリアと長湯をしてしまった。
◇
翌日、イビルから雅則とリサがエドワールから戻ってきたことを聞いたリンメイは、ハーロック伯爵邸を訪ねた。
すると玄関にメイドが現れ、リンメイは「え?・・」と思った。
「どちらさまでしょうか」
「あ、あの・・リンメイだけど・・」
すると
「お待ちしていました。中でハーロック伯爵がお待ちです」
と言われた。
中に通されると、いきなり大広間があった。そして応接室に通された。
しばらくして雅則がやってきた。身なりは貴族らしからぬカジュアルな普段着だった。
「お待たせ」
「あの・・ここは以前、マーラが大使館に使おうとしていた館ですよね」
「うん。ハーロック伯爵邸として改装してもらった」
「メイドもつけたんですか?」
「ああ、あれは予定外だった。最初はリサとコーネリアの3人だけの予定だったから。セキュバスのアリスからセキュバスをメイドとして雇ってくれと言われたから。俺はエドワールに居ることが多いので、留守番を兼ねて雇うことにした」
「そうだったんですか。ハーロック様は貴族に戻ったんだと思いました」
「いや、SLも出来てワリキュール王国とエランデル国の外交も重要になってきて、一般人としては行動しづらくなったから、ハーロック伯爵として構えなくてはならなくなったから。邸宅も必要になってね。でも、貴族として振舞うのは性に合わない。これからもただのハーロックとして接してくれていい」
「はい」
「リンスの話は聞いてない?」
「何かあったとは聞いてますけど」
「リンメイなら話しても問題ないだろう」
リンメイは雅則からリンスと伯爵邸について話を聞いた。
ことの発端は国王のランケルの生誕30周年祝賀会だった。ランケルがエランデル国のシャルロット姫を来賓として招待したいと言い出した。シャルロットもワリキュールには来たことがあり、招待されたことを喜んだ。そしてリンスがエランデルの男爵令嬢としてシャルロットの護衛について同行することになった。
そのため、リンスはエランデル国の人族の監視の任を解かれ、セバス男爵の令嬢として所作を学んだ。そしてナルーシャの家も出ることになった。詳しいことはナルーシャにも秘密だった。
「そうだったんですか」
「リンスは人族として振舞わなければならなかったから、どうかなと思ったが、何とかなったよ。それと俺もワリキュールやエランデルの宮殿ではハーロック伯爵として振る回らなければならなくなったので、リサに俺の配偶者という立場になってもらって、伯爵邸も必要になったので、急遽ここをリニューアルしたんだ」
リンメイは雅則からいろいろと話を聞いた。
雅則の話を聞いたリンメイは、自分について雅則に話した。
「ニドルさんに養女にしてもらったあと、両親の墓参りにスラーレン法国に戻ってきたことがあるんですけど、プロティナとオルコックが次の覇権を狙って内紛を起こしていました」
それを聞いた雅則は
「権力をかざすのが、そんなに嬉しいものなのだろうか。俺はもっと自由に生きたいと思うけど」
と、あきれた顔をした。そして
「リンメイはスラーレン法国をどうしたい?」
と聞かれた。スラーレン法国生まれのリンメイを気遣ってくれているようだった。
「私は・・」
リンメイも迷って
「私の故郷ではあるんですけど、捨てた国なので、今更どうなってもかまいません」
とこたえた。
「なら放っておくか」
雅則もスラーレン法国に関わるつもりは無いようだった。
◇
美緒がエランデルから戻ったら、その報告を聞いて、それから今後について相談するらしい。リンメイは美緒が戻ってくるまで館で過ごすことにした。
伯爵邸から館に戻る途中、リンメイは『サンダース自動車販売』の営業所に寄った。
「リンメイ・・」
悠介もリンメイの姿を見て驚いた。
リンメイは館に戻ってきた理由を悠介に話した。
「そうか。まあ、リンメイはニドルさんの養女になってよかたっと思うよ」
「うん」
館に戻ったリンメイは
「ジルに会ってこようかな。戻ってきたのに会わないのも悪いし」
とジルを思い出した。
「でも、牧場までどうやって行くの?自動車を使うようになってから、馬車を借りるのも容易じゃないし・・悠介さんに言えば自動車を貸してもらえると思うけど」
カリナが気遣ってくれた。
「でも、私は、その自動車を扱えないし」
「なら自転車を使う?」
「自転車って?」
リンメイはカリナに自転車を見せられた。
「悠介さんが考案したもの。バランスをとらないと転んじゃうけど、乗れると便利よ」
カリナが乗ってみせてくれた。
リンメイもまねして乗ってみて、すぐにコツを掴み、乗れるようになった。
「リンメイさん、すごい。これを使えば、牧場の往復は歩くより速くて楽しいわよ」
「じゃあ借りるわね」
リンメイは自転車で牧場に向かった。
スミス電力の事務所は牧場の敷地内にある。リンメイはジルの居場所を聞いて会いに行った。
「リンメイ。戻ってきたのか」
ジルも戻ってきたリンメイを見て再会を喜んだ。
リンメイはジルに理由を話した。
「そうか。その件で美緒さんがエランデルに行った。戻ってきたら、俺も呼ばれることになっている」
「でも、どうして館を出たの?」
「元の世界にいつ戻れるかわからないからこの世界で生きることにした。すると、館とここを行き来するのも面倒になって。だから寮に入ることにしたんだ。イビルがときどきスナックに誘ってくれるからそれも楽しみになっている」
「私もここで一緒に働いていた頃がなつかしいわ」




