5ー2.マーラの第3の計画
リンメイはトナの森の小屋に泊まって疲れを癒した。近くには綺麗な水が流れる川もあり、山に生息する草や木の実、それに、魔物の肉も食料になる。
「気配を感じる。・・久々に修行の相手をしてもらおうかな」
リンメイは高く跳躍して木の枝に飛び乗った。気配の主は狼魔獣。リンメイの修行時代に相手になってくれた魔獣だ。
ローウルフは木の枝からリンメイめがけて襲ってきた。リンメイは逃げるように木の枝に次々と飛び移った。ローウルフが追いかけるようについてくる。ここまでは以前と変わらない。だが、今のリンメイは以前より力をつけている。温泉の周りでも魔物相手に修行を重ねていた。
リンメイは宙を舞うとローウルフの頭に蹴りを入れた。ローウルフはそのまま地上に落下した。
「まだ居る。・・練習の相手になって」
数匹のローウルフが交互にリンメイに襲い掛かった。リンメイは身をかわしながらローウルフたちを倒していった。
◇
午後、リンメイは森を下りた。そして父の墓に向かった。父の墓は先に無くなった母の墓の隣に立てられた。リンメイは両親の墓の前で手を合わせて
「今はエランデル国で、温泉のオーナーのニドルの養女になって幸せに暮らしています」
と報告した。
父の後を継がずにシャドーコープスに入らず、ニドルの養女になったことを、父は喜んでくれるだろうか。故郷、スラーレン法国を見捨てたようなリンメイを。
墓参りを済ませたリンメイは、どうするか考えた。スラーレン法国に未練は無い。エランデル国の温泉ではニドルやユニが待っている。
ふと思い出したリンメイは、ミリアが住んでいた家に向かった。ミリアはワリキュールに行き、今はエドワールで衛兵隊に所属しているらしい。そして雅則がスラーレン法国に来たときに利用していた家でもある。リンメイも数日、使わせてもらったことがある。
その家は健在だった。今は誰も住んでいる様子はない。ここを使わせてもらうことも考えたが、誰かに気づかれ、問われたらまずい。今はヒュンケルも玉座を下りて山に戻ったと聞いている。
あと頼れるのはオルコック。父の親しい友人でもあった。スラーレン御三家の次男に生まれ、次に王位につくはずだった。しかし大神官のハスラーにエクレール家の長女、プロティナを女王にされたため、国王になれなかった。
マーラとドルインの陰謀が発端で、ヒュンケルが山に戻ると、オルコックが国王になる機会があったが、人族以外を卑下するオルコックはその機会を失った。
そんなオルコックに会うつもりは、今のリンメイにはなかった。もうスラーレンで会いたい者はいなくなった。
リンメイは高台に登って街を眺めた。貴族街は雅則の『流星雨』で壊滅的損害を被ったが、徐々に復興を遂げている。貴族で生き残った者たちが立て直しているようだ。被害を免れたオルコックの館だけが、まるで大地主のように思えるほど立派に見える。リンメイがオルコックを見逃してくれるように雅則に頼んだ結果だ。
街にはワリキュールやエランデルのように飯店や旅店もある。冒険者協会などはない。
リンメイは食事処に入って腹を満たした。
そして耳に入ってくる客の話を確認した。リンメイには聴力魔法という能力もある。
「この先、ワリキュールはどうなるんだ? まだ国王が決まらないんだろう?」
「ああ、エクレール家とアレイン家のどっちが玉座につくかでもめているそうだ。血を流しながらな」
「やだやだ、王族は」
「今までの貴族に代わって街から国王を選出する話もあったが、貴族側から剣や槍を向けられてはどうしようもないからな」
話からすると、新しい国王はプロティナかオルコックということになる。どちらも力で国をまとめようとしている。そんな王族の従者として、シルビアやマクレス、プロティナに仕えていたリンメイは自分が情けなく思った。
◇
オルコックの館。
マーラはいらだっていた。
「まったく父は不甲斐ないんだから」
「貴族街はほぼ破壊されましたが、復興は進んでいます。街の住民も、これを機に国取りを模索しようとする者も現れていますが、芽を摘み取るように制圧してますのでご安心を」
ソドルがまだマーラについていた。ドルインも失った今は誰かについていないと途方に暮れてしまう。
「第3の計画を実行するわ」
「それは・・」
「私が女王になるの。そうなったら、ソドルにはシャドーコープスのリーダーになって力になって」
「もちろん、マーラ嬢の片腕として力を振わせてもらいます」
「そのためには、プロティナも父も邪魔。彼の力も借りるわ」
「彼とは?」
「ヒュンケルよ」
「ええ?!」
「彼なら私に力を貸してくれるはず。スラーレン法国のために」
「マーラ嬢がドルインと結託していたことと思われているのに?」
「ものは考えようよ。私が言いくるめるから。私なら会ってくれるはず。誰かロワール城に行ってヒュンケルに書状を渡してきて欲しいの」
「ではハユナとマユナに行かせます」
ワリキュールから戻ったハユナとマユナはソドルのもとに居た。そしてマーラの書状を預かってロワール城に向かった。
「ロワール城って、ヒュンケル以外は魔族とかが居るだけらしいわよ。大丈夫?」
「危なくなったら転移して逃げられるから」
そう、ハユナもマユナも近距離だが転移魔法が使える。
ロワール城は不気味なほど静かだった。
「大丈夫よね」
恐る恐る庭から入っていった。
そして二人は無事マーラのもとに戻ってきた。
「ヒュンケルは不在で、書状を渡せませんでした」
「不在?」
「何でも旅に出たとか。帰りはいつになるかわからないそうです」
「そう。・・え?誰と話してきたの?」
「(ロワール城の)留守を預かる魔族です。魔族が言語翻訳魔法を使えるようで、話が出来ました」
「そう。ご苦労様」
ハユナとマユナを下がらせると、ソドルは
「どうします?」
とマーラに聞いた。
「まず父には、オルコック家の当主の座を退いてもらうわ。代わりに私が当主になってプロティナを追い落とすわ。そうすれば私がスラーレン法国の女王に・・」




