5-1.帰省
『~リンメイ』の続編です。
雅則たちの館を出たリンメイは、エランデル国の温泉のオーナー、ニドルの養女になって新たな生き方をはじめた。
だが迫りくるシームア領の危機に、リンメイは雅則たちを頼ることにする。
スラーレン法国で生まれたリンメイは、父がシャドーコープスの一員でもあったりして幼い頃から魔法と格闘の腕を磨いていた。
王族の内紛に巻き込まれた父が亡くなったあと、リンメイは王族にいいように利用されてきた。スラーレン法国に見切りをつけたリンメイは、エドワールで冒険者になる。
列車の警護中に魔獣に襲われ重症を負ったリンメイはハーロック(雅則)に助けられ、雅則たちワリキュールの館の住人の一人になる。
スラーレン法国の陰謀に巻き込まれ、リンメイは父の仇と思われるソドルの存在を知る。
雅則がスラーレン法国の貴族街を壊滅させたり、父の友人でもあったオルコックが人族以外の生き物を卑下する性格の持ち主であったことなどに悩んだリンメイは館を出てエランデル国に行く。温泉の警備員の仕事をはじめたリンメイは、クハノウ領からシームア領に入ってきたケルトン族(人族)の騒動に巻き込まれる。
解決後、リンメイは温泉のオーナーのニドルから養女になってくれと言われる。
悩んだあげく、リンメイはユニと一緒にニドルの養女になる。
冒険者も辞めたリンメイは、ニドルとともに温泉の営業に携わっていく。
温泉は山の麓にあり、魔物も出やすい。温泉を行き来する馬車も魔物に襲われることもある。なのでニドルは温泉の警備をギルド協会に依頼し、ギルドハンターなどを雇っている。
リンメイ一人でも魔物に対応できるが、四六時中、リンメイだけでは無理がある。なので今も警備員を雇っている。
「来月の警備員の手配をしてこないと」
「私が頼んできます」
リンメイはニドルに代わってギルド協会に出かけた。途中、魔物が現れることもあるが、リンメイが脅威に思う魔物はいないようだ。
ギルド協会に着くと、手続きを済ませて二階に上がった。それに気づいたナルーシャが
「リンメイさん。来月の警備依頼で?」
「うん。今日はお父さんの代わりに私が・・まだお父さんって言うのが慣れなくて・・」
「ニドルさんがリンメイさんを養女にしたと聞いたときは驚いたわ。でも、リンメイさんが私の友達になってくれて嬉しく思っているの。心強いし。ハーロックさんたちはエランデルに来てくれなくなっちゃったし」
リンメイは雅則たちの話を出されると気まずい思いをした。夜逃げ同様に館を出てきた身なのだ。リンメイがニドルの養女になったことは、雅則も喜んではくれたが。
「父が街に出てくるときは、護衛をつけないと危ないし。私が出てきたときは、ナルーシャの温泉の送り迎えをしてもいいわよ」
「そうしてもらえると嬉しいわ」
いつのまにか親密な関係になった二人だった。
◇
幸せな日々を過ごし始めたリンメイだが、心残りなことがあった。
「お父さん・・」
リンメイはニドルに思い切って話した。
「私はお父さんに養女にしてもらったことを嬉しく思っています。でも、ひとつ心にくすぶっているものが・・父に・・実の父に養女になったことを報告してきたいんです」
「報告って・・」
「父の墓参りをしてきたいんです」
「・・・」
ニドルが恐れていたこと。・・それはリンメイが一時でも自分から離れてしまうことだった。もしかしたら、何かに巻き込まれてリンメイが戻ってこなくなることを恐れた。ニドルは一度、娘を亡くしている。そのような思いを二度としたくない。
だが・・
「わかった。行ってきなさい」
リンメイを縛ることは出来ない。
「必ず戻ってきます」
リンメイが支度をはじめるとユニも
「帰ってくるよね」
と心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫。戻ってくるから、待っていて」
リンメイは街に帰る馬車に乗って温泉を出た。
温泉を離れていくと、リンメイは特別な思いに駆られた。
母国、スラーレン法国に未練は無い。だが・・そのスラーレンに父と母が眠っている。それが心残りに思うようになった。そう、リンメイが今どうしているのかを、教えないでいる。
エランデルに来て、温泉のオーナーのニドルに養女にしてもらった。それはリンメイに第二の人生を送らせてくれる出来事だった。一緒に養女にしてもらったユニも妹が出来たようで幸せな日々を送っている。自分が幸せに生きていることを、両親に教えたくなったのだ。
◇
エランデルの街に着くと、アリシクル駅に向かった。スラーレン法国に行くのに、ルートはどうしようと考えていた。
以前なら馬車でワリキュールに行って、そこから徒歩でスラーレン法国に向かう。途中、魔物や魔族に遭う確率はエランデル国側より多い。ゴラン谷には竜魔族も居る。だからワリキュールからトナの森を抜けてスラーレン側に行く者がほとんどだ。リンメイがトナの森で修行していた時もキャラバン隊が通り抜けるのを見たことがある。魔物が出ても対応出来る魔術師などが居るほうが無難だ。
飛行船でワリキュールに行く方法もあるが、予約をとらなければならない。SLならエランデル国のアリシクル駅から乗り込めば、エドワールを経由してワリキュール国まで行ける。
リンメイはアリシクル駅で、ワリキュール王国のワルコット駅まで直通のSL列車があることがわかった。リンメイが冒険者をしていた頃は、中間のエドワールまでの列車しかなく、エドワールで1泊し、ワリキュールまでは2日かかっていた。
ソマル男爵が長距離運行できるSLを開発した結果だが、リンメイには知る由もなかった。ただ、エドワールで下りることはないので、そこで宿泊する手間も省けるほか、衛兵隊のソーンなど、顔見知りに出くわすことも避けられる。
列車に乗り込むと、懐かしい思いがした。エドワールで冒険者をはじめて、列車の護衛の仕事は数え切れないほどこなした。そんな列車に愛着も感じる。
エドワールに向かいながら忘れていた人々の顔が思い出された。一番身近に接してくれたのは衛兵隊第2分隊長のソーン。真面目で信頼のある男だ。エドワールで他に親しくなったのは冒険者協会職員のカラナ。案外さっぱりとした性格の女のようだ。
だが、なつかしいからと言って会うつもりはない。今の自分を知られたくないと思った。
その点、直通のSL列車が出来たことはリンメイを安心させた。
だが、以前のように列車内で顔見知りに遭うことは考えられる。列車の警護をしていたとき、魔獣に襲われて、偶然乗り合わせたハーロック(雅則)に助けられたことがあった。彼が温泉に来たときにニドルの養女になったことを知られている。出合ったときはそのときだと肝をすえた。
ワリキュールのワルコット駅に着くと、不思議に懐かしさを覚えた。大きな館には雅則たちが居るはず。それより以前にシルビアとワリキュールに来て、探索など街中に足を運んだこともある。そして夜は、安い宿に寝泊りしていた。
問題はここからどうやってスラーレン法国に行くかだ。
スラーレン法国はマーラやドルインの陰謀によって貴族街を雅則に破壊され、魔王ヒュンケルも山に戻り、今はどうなっているのか、リンメイはわからない。ワリキュール王国とスラーレン法国の交易もなかった間柄だ。馬車などの交通手段もなかった。自己責任で行き来しなければならない。
一番近いのはゴラン谷を抜けるルートだ。だがそこには竜魔族が居る。ハーロック(雅則)は竜魔族と仲良くなったらしいが、リンメイはなっていない。
トナの森を経由してスラーレン法国に戻ることにした。
だが、そのトナの森に行くのも容易ではない。ワリキュールの街は自動車なる乗り物が走りはじめたが、馬車もまだまだ健在だった。
「トナの森に行きたいんだけど・・その近くまででも馬車を出してほしい」
御者をしてくれる人を探し、頼んだ。
「わざわざトナの森に行く用はないが、ちょうどシグ領ワイナ村に行きたい人が居る。魔物対策に冒険者協会に冒険者を頼みにいくところらしい。お金が掛かるが、用心に越したことはないからな」
「それなら、私がその冒険者の代わりを努めてもいい。連れていってもらえるなら、お金はいらない」
リンメイはエランデルのギルド協会でもらったSランクのプレートを見せた。
「わかった。話してみる」
リンメイはトナの森にいけることに安堵した。
◇
馬車の警護をしながらトナの森を抜けた。途中で馬車を見放したら、魔物に襲われかねない。
馬車を見送ったあと、トナの森に戻った。
トナの森に入っていくと、小屋を発見した。リンメイに武術を教えてくれた仙人が住んでいた小屋だ。リンメイもそこで暮らしたことがある。そこで休息することにした。
「仙人は何処に行ったのかな」
もしかすると、彼も異世界から来た人族。・・そんなことを言っていた記憶もある。ハーロック(雅則)たちも異世界から来たと言っていたから、仙人なる彼も本当に異世界から来たのかも・・。




