< 幕間 オーク高原の戦い >
リンスはリンメイからの情報を雅則には報告せず、ダマリンに報告した。
「新たなケルトン族がシームア領に入ってくるそうです。マキギ族がハーロックに縁のあるリンメイという人族に教えたとのことです」
「マキギ族はシームア領内でもクハノウ領に近い山に棲む魔族と聞く。リンスの話が本当ならシームア領の危機だな。調査を続行してくれ」
「はい」
その後、ダマリンはルルから
「レオン様が来ました」
と報告を受けた。
「どうしたレオン」
「クハノウ領からシームア領に向けて人族の移動が始まっている。人族に何があったのかは知らないが、シームア領に危機が迫っていると言っていいだろう」
「エランデル国を監視させているリンスからもその情報を得た。マキギ族からの情報らしいが」
「マキギ族はクハノウ領に近い山に棲んでいる。他にもグレコ族とかも居る。俺も目を光らせよう。もし、数万もの人族がやってきたらシームア領を守れるか?人族をあなどるなよ。奴らは魔法も使える」
「ともに戦う気はないか?」
「数では勝ち目はない。シームア領を統括するダマリンに期待している」
レオンはそう言って戻っていった。
「結局は他人任せか。こんなだから人族に土地を奪われるんだ」
ダマリンはため息をつくと
「またハーロックを頼るか。異世界から戻ってきたようだからな」
◇
薬草を採取して異世界から戻ってきた雅則は、エドワールに行って火力発電所の建設に携わっていた。
「ハーロック様、ダマリン様から緊急事態だそうです」
同行しているリサが雅則に伝えた。
「ダマリン、緊急事態とは?」
「シームア領がケルトン族に狙われている」
「俺たちが異世界に行っている間に美緒が潰してきたという?」
「それは一部らしい。全部で数万人の規模らしい。それがシームア領に居住地を設けるらしい話をリンスがリンメイとかいう人族から聞いたそうだ」
「リンメイが? 離れていても頼りになるな。しかし、この世界の人族は本当に自己中心的だな。出張っていくようか。久々にイミナスにも行ってみるかな」
「喜んで歓迎する」
「少し待っていてくれ」
雅則とリサ、イビルが鳥獣オウムでイミナスに向かった。悠介と美緒もワリキュールの飛行船でイミナスにやってくると
「ケルトン族の動きは配下に調べさせている。魔族との小競り合いは始まっているが、それが引き金になっているのか、分散していたケルトン族が集まりはじめたようだ」
とダマリンが報告した。
「ケルトン族ってどういう人族なんだ?」
悠介が聞いた。
「調べによると、クハノウ国に仕える一族だったらしい。そのクハノウ国がアリオン神国に進攻されて国は潰れ、ケルトン族もクハノウ領を追われたらしい」
「アリオン神国?・・ソアラの国か」
雅則も思い出した。
翌日、宮殿で対策会議が行われた。
「シームア領は豊かな水や食べられる食物も多く、いろんな生き物が共存している。人族がイミナス国やエランデル国を作るためにそれらを追い出し今のようになった。これ以上人族の縄張りをひろげさせないために、我々は戦ってきた。そんなシームア領に新たな人族、ケルトン族が侵入しようとしている」
ダマリンが話した。
「ケルトン族というのはクハノウ領に住んでいた人族だとは聞いたが、どういう人族なんだ?」
雅則があらためて聞いた。
「魔法の力もある種族のようね。性格は凶暴と言った印象。温泉にもしつこくやってきたようだから」
美緒が思い出して言った。
「じゃあ、潰すか」
「いいんじゃない。私も一つの集落を潰しちゃったし」
「リンスからの報告だと、シームア領近くのマキギ族も被害に被っているらしい」
「みんな迷惑を被っているわけだ」
「思い出したけどさ、グレコ族も心配。葡萄の件で仲良くなったし」
美緒がまた思い出して言った。ワインをつくるためにグレコ族から葡萄の木をもらったことがある。
「今のうちに確認してきてもいいかも」
「エランデル国の山の麓だろう?となり近所じゃないぞ」
悠介が突っ込む。
「テルザを使えば?」
イビルが提案した。
「俺は勧めない」
まだ高所恐怖症を完全に克服していない雅則は消極的だ。すると
「テルザを使ってハングライダーのように飛んでいけば?」
と美緒が提案した。
「え?」
「テルザの首から吊るすようにして座っていくの」
「美緒ちゃんは次から次へと発想するけど、いいね、それ」
「でしょう?」
その後、悠介と美緒はグレコ族に会いに行って無事なのを確認した。
一方、雅則とダマリンは戻ってきたイビルから
「ケルトン族はオーク高原の反対側にテントを張ったわ」
と報告を受けた。
◇
雅則たちはダマリンの先導でシームア領のオーク高原に向った。ケルトン族がそこからシームア領に進攻してくる情報を得たからだ。
率いるケルトン族の長を努めるホッセルもオーク高原に魔族たちが守りについたのを確認していた。
ケルトン族は放浪の旅をしてきてシームア領に定住する居住地を見出していた。ホッセルたち一族はオーク高原の麓にテントを張って旅の疲れを癒していた。数にして約5000名。そのうち兵士として働けるのは2000名もいない。あとは女、子供など家族連れだ。そこに他のルートで移動してくる一族も加わることになっている。
だがホッセルは彼らを待つもりはなかった。
ホッセルは家族に
「シームア領に行けば水も食べ物もあるらしい。そこを居住地にしよう」
と笑みを浮かべながら言った。
「もうすぐ、他の一族の方々も到着すると聞いてますけど、それを待ってからでも」
「いや、ここまで来て目的地を目の前にして待っていられるか。アリオン神国にクハノウ国を落とされ、国を追われてここまで長い旅をしてきた。お前たちにも苦労をかけた。部下の調べだとシームア領には水も木々の食べ物もあるらしい。私は早くおまえたちにも水と緑の豊かな地で過ごしてほしいと思っている」
「でも、そこには今まで以上に魔族や魔物が居ると言ってましたけど」
「なに、そんなやつらはみんな退治してやるさ、ケルトン族は上位魔術師も多く居る。邪魔な生き物はみんな殺し、これからはシームア領に我々の新しい住処を、村を、街を、そして国をつくるんだ」
「みんな殺すんですか?」
「人族に逆らうやつらを生かしておいてどうする。余計な心配はしなくていい。今から行って退治してくる」
◇
ホッセルは千人を越える一族の兵を率いてオーク高原に上がっていった。迎えるダマリンたち魔族を中心とする一団は、その半分にも満たない。
「ダマリン、結界とか防御魔法を使えるものはいるか?」
雅則がダマリンに聞いた。
「居ることはいるが、それで戦えるのか?」
「ダマリンたちの被害を少なくするだけでいい。攻撃は俺たちがする」
「3人で?ワリキュール軍を全滅したことは認めるが、ケルトン族は魔術師も居ると聞く」
「大丈夫だ。極大魔法でなければ美緒ちゃんのゴジラは倒せない」
「任せて」
美緒もやる気満々だ。
高原の対面にケルトン族が現われた。
「かなりの数がいるわよ。ゴジラでも全員踏み潰すには時間がかかるわ」
とやる気十分の美緒に
「もう、その気になっている」
と悠介も思った。
ホッセルも対面する魔族を確認した。
「あれだけで我々に対抗しようとは、ばかにされたものだ。一気に潰せ!」
ケルトン一族が攻め込んできた。
「反撃!」
ダマリンたちも魔法攻撃を放った。
「ケルトン族の魔法を浴びせてやれ」
「防御魔法だ」
「本当に戦場が原になっちゃったよ。サイコパワーシュート」
悠介が迫るケルトン族をサイコ攻撃で倒していった。
「思ったより強そうだな。魔獣を召喚しろ」
ケルトン族の召喚魔術師が魔獣を召喚した。
「ねえ、雅則くんは何もしないの?」
「いや、ケルトン族の力を知りたくてね。召喚獣を出せる者もいるようだね」
「私もゴジラを召喚するわよ。ゴジラ~!」
美緒がゴジラを呼ぶと雲が湧き出てゴジラが空から降りてきた。
「召喚獣を出せる魔族も居るのか」
これにはホッセルも驚いた。
「召喚獣をもっと出して倒してしまえ」
ケルトン族は何体かの召喚獣を出した。
ゴジラは襲ってきた数体の召喚獣をシッポを振って跳ね飛ばした。
「何体出てきてもゴジラの敵ではないと思うけど。土星魔法でケルトン族を足止めさせるか」
雅則は天を仰いで
「クラックグラウンド!」
と叫んだ。すると地面が揺れ始め、ケルトン族の前に地割れが発生した。
「極大上位魔法?やつらを見くびっていたか。一旦引け!」
ケルトン族は引き下がっていった。
「今、高原の下でテントを張っている一族の他に、向って来る一族もあるわ」
イビルが調査していた。
「シームア領に向けて集まってくるのか。まとめて叩いたほうが世話が無いけど、先行軍を片付けておくか」
雅則はケルトン族に向かって歩き出した。
◇
「ひとり、向ってきます」
兵がホッセルに報告した。
「どんな魔族だ」
ホッセルはおそるおそる出て行った。
「見た目は人族のようですが・・」
兵が報告した。
雅則は相手が聞こえる距離まで近づいていって
「大将と話がしたい」
と言った。
兵が
「魔術師ということもあります」
とホッセルに言った。
「いきなり攻撃はしてこないだろう」
ホッセルは前に出て行って
「私が一族の長、ホセッルだ」
と雅則に言った。
「俺はハーロック、話し合いに来た」
「人族のようだが変異しているのか」
「俺は人族だ」
ホッセルは雅則が魔族ではないと知って安心した。
「話を聞こう」
「シームア領には多くの生き物が生息しいる。立ち入らず引き返してほしい」
「我々も安住の地を求めている。シームア領に住みたいと思っている」
「それは許可しない。他の地を探してもらいたい」
「君も人族なら、我々も住んでもかまわないだろう」
「おまえたちが魔族や他の生き物と共存すると言うなら許可しないでもない」
「ばかなことを。魔族と一緒に住めるか」
「じゃあ引き返せ」
「人族を何だと思っている」
「他の魔族や生物と同じ生き物だ」
「変わった人族だな。頭がおかしいのか? 人族を他の生き物と同等に出来るか」
「人族でなくても魔族にも他の生き物にも家族も居るし生活もある。同じ生き物だ」
「それがどうした。そんなこといちいち考えられるか」
「やはりそういう考えか。ではお前にも今までお前が殺してきた生き物の怒り、悲しみを教えてやろう」
「なんだと」
雅則は天を仰ぐと
「召喚、流星雨!」
と叫んだ。すると空に黒い雲が渦を巻いて現われた。
「な、なんだ!」
「高原の麓にはお前たちのテントがあったな」
「ま、まさか」
雲の中から巨大な火の玉が落ちてきた。火の玉はそのテントを襲った。
「俺たちの一族が・・家族が・・」
ホッセルは自分たちのテントが潰れていくのを悟った。
「全滅だな」
「何をしてくれている!」
「お前が今までしてきたことをしたまでだ」
「ふざけるな!」
「ふざけているのはおまえのほうだろう!自分が何をしてきたか反省しろ!」
ホッセルは膝を落とすと
「こんなこと・・ありえない」
とつぶやいた。
「現実だ。お前たちのためにみんな迷惑を被っている」
ホッセルは雅則に何を言われても聞く耳を持たなかった。そして
「おまえは人じゃない!」
と雅則に叫んだ。すると雅則も
「おまえもゴミだろう。人族とは認めない。おまえたちもゴジラで踏み潰してやろうか」
と反論した。
「ま、まて・・話しあおう」
「その気はうせた」
「命だけは・・」
自分の命が危ないと悟ると、ホッセルは雅則に助けを求めた。
「条件がある。後から来る一族があるな。彼らの命と引き換えに助けてやらないでもない。いやならお前たちを始末するだけだ」
「おれたちに他の一族を殺せと?・・」
「お前たちは人の命もどうでもいいと思っているんだろう?自分の命が惜しかったら実行しろ。結果で答えを示せ。従わないときは命はないと思え」
雅則はそう言って戻った。
ダマリンが
「どうなるんだ」
と雅則に聞いた。
「さあ、やつらの行動次第だ。自分たちで殺し合いをするか、徒党を組んで入ってくるか。そのときは全滅させるだけだ」
雅則たちはネネの経営する飯店で休んでいた。
イビルが戻って来て
「後からやってきた一族はホッセルたちに倒されたわ。ハーロックってすごい」
と言った。
「人間の習性を利用しただけだ。ホッセルたちの行動を監視しないとな。それはダマリンに任せるか」
雅則たちはワリキュールに戻った。




