4-7.マキギ族との出会い
リンメイはその後も温泉で警備の仕事を続けたが、気持ちは晴れないものがあった。
異世界から来たという雅則は、人族以外の種族との共存を望み、相手が人族であっても容赦なく国ごと潰してきたらしい。そして美緒もエルフ狩りや温泉を襲ってきた人族であるケルトン族を滅ぼしてきた。
リンメイの心の傷はまだ癒えそうになかった。
しばらくしてトリルがまたやってきた。
「薬をつくってきました」
とニドルに渡していた。
「助かるよ。これで胃腸の具合は悪くならないで済む」
トリルが
「リンメイさんに薬草採りを手伝ってもらってよかった。薬にすると結構売れるんだ」
とリンメイに言った。
「私は薬草はわからないから」
「ポーションが作れれば、深い傷も治せるけど、それをつくる薬草は温泉の付近にもないから」
するとニドルが
「そうだ。リンメイを街に連れていってくれないか」
とトリルに言った。
「ケルトン族もいなくなったし、リンメイもたまには気晴らしをしてくるといい。リンメイはもう家族のようなものだ」
「オーナー」
突然のニドルの言葉にリンメイは驚いた。
「いつまでも居てほしい」
リンメイはニドルに家族と言われて嬉しいような複雑な思いだった。
リンメイはトリルに連れられてエランデルの街に行った。そして街を案内された。リンメイが異性と二人だけで過ごすのは初めてのような気がした。これが以前に悠介が言っていたデートなのか。
「ここが僕の家で、隣で薬を作っている」
裏町の一軒屋だった。隣の建屋に薬屋の看板を掲げている。
店の中に女がひとり居た。
「お帰り、お客さんじゃないようだね」
女はリンメイを見て言った。
「ただいま。僕の母」
トリルが女をリンメイに紹介した。
「何だ。連れてくるなら先に言っておいてほしかったね」
「え?」
「いつまでも独り身だから心配していたんだけど」
「ち、違うよ母さん」
トリルが母の誤解を察してあせった。
「このリンメイさんは、ニドルおじさんの温泉で警備をしてくれている・・」
トリルは、母が彼女を連れてきたと誤解したと思った。
「あら、勘違いして、ごめんなさい」
「はじめまして、リンメイといいます」
「私はトリルの母のアーサ。よろしくね」
リンメイはトリルの家に泊まることになった。
「ニドルも娘が戻ってきたようで嬉しいだろうね」
アーサはトリルからリンメイのことを聞いて、そう呟いた。
「ニドルにも奥さんが居て娘も居たんだけど、亡くなったんだよ。家族で山に入った時、道に迷ってね。それをエルフが帰り道を案内してくれた。だが、そこに現われた人族がエルフを殺しに現われた。奥さんと娘はエルフを逃がそうとしてエルフと一緒に男たちの手にかかってね。魔法を使えないニドルは奥さんと娘を助けられなかった」
その話を聞いたリンメイはショックを受けた。ニドルにそんな過去があったとは。
「温泉の名前が『エランデル温泉ロッテ荘』となっているだろう? ロッテというのは亡くなったニドルの娘の名前なんだよ」
「そうなんですか」
「僕が薬師を目指したのは、その件もあったからなんだ」
トリルも話してくれた。そして
「リンメイさんが薬草採りに一緒に山に入ってくれたんだ」
とアーサに話した。
「そう。トリルも多少魔法は使えるけど、ギルド協会で魔力検査してもらったら、レベルは20。弱くはないけどハンターの仕事はしてないの。リンメイさんは魔力検査した?」
「はい。今はレベル100です」
「100?」
アーサも驚いた。
「そんなにレベルの高い魔術師はハンターの中にもほとんどいないよ。強いのはいいけど、あまり強いとトリルがお尻の下に敷かれちゃうわね」
と言いながらアーサは微笑んだ。
「母さん、そういう話はしないの」
「もしリンメイに手伝ってもらえるなら、バンショーコーを採ってこられるといいわね」
「え?」
「バンショーコーとは薬草の一つで傷を治すのに効果があるんだ。でもそれがある山には魔物が出やすい。温泉のほうよりね。彼らの縄張りでもあるようなんだ」
「今までハンターも入ってくれたことがあるんだけど、犠牲者も出ててね。それなりの力を持った魔物だと思うよ」
その夜はトリルの家で寝ることになったが、ニドルの話などを聞いて、リンメイはなかなか寝付かれなかった。
◇
翌日、リンメイはトリルとバンショーコーを採りに山に向かった。
「そんなに深く山に入らなくても薬草は採れると思うんだけど、前に魔物が出て来たのはもっと奥だったから」
リンメイが周りを警戒し、トリルが薬草を探した。
「あった。よかった。この辺りで採れれば無事戻れるだろう」
「そうでもないみたい」
リンメイは何かが近づく気配を感じた。
正面にのっぺらとした顔をした者たちが現われた。
「魔物というより魔族に近い?・・」
二本足で立って近づく者たちをみてトリルは声を発した。すると
「魔族と思われるのは不快ではないが、生憎魔法はあまり使えない」
と現われた者が言った。
「言葉がわかる?」
リンメイも驚いた。
「人族の言葉を理解した。何回も山に入ってきたからな。俺は他の仲間より魔法にも長けている。何しに来た」
「薬草を採りに・・」
「薬草か。ハンターには見えないから信じてやるか。今までハンターとかいう人族が山に入ってきて俺たちを狩っていった。お金になるらしい。人族の目的はそれ以外に居住地の拡充もあるようだが、俺たちにも棲みかは必要だ。逆に縄張りを広げようと考えている」
「そんなことをされたら薬草が採れなくなる」
トリルが言うと
「そんなことは知るか。もともと人族が土地を奪いに入ってきたんだ」
と言われた。
リンメイは彼らを倒せば薬草も採れるし、彼らの侵入を止めることが出来ると思った。しかし・・
「人族のために他の生き物を殺す・・」
リンメイは雅則とオルコックの会話を思い出した。そして雅則は種別を超えて共存していくことがいい、とも言っていた。アーサのニドルの家族の話も心に引っかかっていた。
「提案があるわ。話し合わない?」
リンメイは切り出した。
「話し合う?何をだ」
「いろいろ」
「・・お前は強そうだな。このまま闘えば、俺たちにも犠牲が出そうだ。その話し合いとやらを飲もうじゃないか。俺はマキギ族のキーリス。この領に棲むマキギ族の族長をしている」
「私はリンメイ。魔術師よ。私たちは薬草が採れればあなたたたちを追い払うようなことをする気はないわ」
「だが同じ人族でもケルトン族という人族がやってきて俺たちの居住地を荒らしている」
「え、ケルトン族?」
「それってエルフ狩りをして温泉にも押しかけてきたやつらじゃないか?」
トリルも思い出して言った。
「ケルトン族は美緒さんたち、私たちの仲間が退治してきたと言っていたけど」
「ケルトン族は幾つもの集団があり、それぞれ居住地を確保している」
「そうなの?」
「どうも同じ人族に追い出されているようだ。そこで新しい地に新しい国を作ろうとしているらしい」
「オーナーがケルトン族について何かを知っているようなふうだったわ」
リンメイはそれを思い出した。
「彼らはおまえたちエランデル国があるのを知って迂回するように移動しながらシームア領に向かっているようだ。エルフも彼らの被害に遭っている」
トリルは、そのエルフはクルスたちトルエン族だろうと思い
「もし僕が知っているエルフならシームア領の魔族に助けを求めていた」
とキーリスに話した。
「なに、それはもしかしてオラン族のダマリンか」
マキギ族はダマリンを知っている?
「何族かもどんな魔族かも知らないが、きっと無事保護されたと思う」
「ほんとうか」
「本当よ。私も関わったから」
リンメイもキーリスに安心するように言った。だが、リンメイもトリルもダマリンを知らない。
「それなら安心だが、きっと彼ら人族はシームア領に住み着く。そこは水も食べられる植物もあり住むには適しているのを知ったようだ」
「それで彼らの人数は?」
キーリスがケルトン族について知っていそうなのでリンメイは聞いてみた。
「幾つかに分散しているみたいだが、合流すれば何万人にもなるはずだ」
「何万人にも?私一人で何とか出来ることじゃないわね」
魔術師ひとりで相手にできるものではない。
「話し合いは最初から無理なことだったか」
キーリスもリンメイには期待していなかったように言った。
「待って・・時間をくれる?何か考えてみるから」
「我々を人族から守ってくれるというのか」
「あなたたちと人族が共存出来る方法を考えてみる」
リンメイは思わず『共存』という単語を口にしていた。
「共存? 彼らは血気に逸っている。我々と共存など考えていない」
「エルフ狩りして温泉も襲ってきたようなやつらだったし」
それはトリルも認めた。
「何かいい方法がないか考えてみるから」
リンメイはキーリスに約束して街に戻った。
リンメイはトリルから
「ほんとうにいい方法を考えるの?」
と聞かれ
「思いつかないけど、どうにかしたいと思ったのは本当よ。薬草はあまり採れなかったけど・・ごめんね」
と言って温泉に戻った。
◇
温泉に戻るとニドルから
「お帰り。浮かぬ顔だな」
と言われた。リンメイはどんな顔をしているのか自覚した。
マキギ族と出会ったことは、リンメイに新たな苦悩を強いることになった。人族がマキギ族たち魔族や森に棲む生き物の命を奪っている。以前のリンメイなら、どうでもいいことに思えるが、今はマキギ族たち人族以外の種族を救いたい気持ちが湧いてくる。
そしてもうひとつ、気になることが・・。
「オーナー、家族のことをアーサから聞きました」
リンメイが言うと
「余計なことを・・」
とニドルはとまどうような顔をした。ニドルには妻や娘を失ったことは秘めておきたいことだった。
「忘れたくても忘れることは出来ないものだ。家族を奪われた者の哀しみは奪われたものしかわからない。温泉が出来ることは娘も楽しみにしていた。そこで何が何でも温泉をつくろうと思った。『ロッテ荘』という名称は娘の名前からつけたんだ。・・別にリンメイを娘の代わりに思っているわけではない。・・が、去らないでほしい」
「オーナー」
リンメイは話題を替えるように
「ケルトン族について聞かせて」
とマキギ族という魔族と出会ったことを話した。
「ケルトン族がシームア領に入ってくる?・・ケルトン族についてはお客さんから聞いただけで、詳しいことはわからん。ここにいると、お客さんとの会話が楽しみの一つでね。色んな情報も得ることが出来る。・・で、リンメイは魔族と仲良くなりたいのか」
「そういうわけじゃ・・」
「温泉を一緒に守ってくれた魔王シゲルとかいう彼から聞いた話だが、この前来てくれた美緒という女性。ハーロックさんの友達でもあるらしいが、魔族と仲良くなって葡萄の木をもらっていったそうだ。なんでもそれからワインとかいう飲み物を作るんだとか言っていた」
そのワインは、リンメイも館で飲んだことがある。美緒がスミス牧場にワイン工場を作ったのも知っている。
「最初信じられなかったが、ハーロックさんたちは魔族と仲良くなれる力を持っているのかねぇ」
それはリンメイも信じられなかった。
だが、雅則たちの意思や行動に不信を抱きながらも、別の種族と共存を考えていることには共感するものがあった。
◇
何も考えられず、日々が過ぎて行った。ハーロック(雅則)に相談することも考えたが、今さら会いづらいし、今は異世界に行っていると美緒からも聞いた。しかしこのままではケルトン族の動向が心配でもある。
そんなときリンスが現われた。
「私はエランデルを監視する担当だから。ここもエランデル領だから私の管轄」
「そうなんだ。リンスはシームア領の魔族なの?」
リンメイはあらためてリンスに聞いた。
「シームア領のダマリン様の配下。イミナスとエランデルは人族がやってきて開拓した国。私はエランデル国の人族の動向を監視する役を担っているの」
「そう・・あらためて聞くけど、そんなリンスやリサたちは、どうしてハーロックたちに協力しているの?」
「それは、ダマリン様がハーロックと親しくなったため。別に魔族が人族に協力しているわけではないわ」
「そう・・ケルトン族がシームア領に入ってきて住み着くかも」
リンメイはリンスに教えた。
「マキギ族という魔族から聞いたの」
リンメイは薬草を採りに山に入ってマキギ族に出会ったことを話した。すると
「マキギ族は私は今まで出会ったことがないけど。その話をダマリン様には報告するわ。それと・・ハーロック様は異世界から戻ったから私から報告してもいいけど」
「それは任せるけど。・・私、館を出てきちゃったから(ハーロックには)会いづらいのよ」
と正直にリンスに話した。
リンスはリンメイの苦悶しているような表情を見て、黙って去った。




