4-3.温泉の危機と魔王シゲル
翌日、クルスの容態は悪化しないものの、回復には時間を要するようだった。
「オーナー」
従業員があわてふためいていた。温泉に迫って来るものがあった。
「魔獣じゃないな。人族のようだ」
ニドルは彼らを見て
「ケルトン族だ」
と言った。
リンメイも彼らを見て、昨日、エルフ狩りをしていた男たちなのを確認した。人数も増えている。
「ケルトン族って?」
「かつてクハノウ国に仕えていた人族だが、クハノウ国がアリオン神国に対抗し、潰れた後、領主を失って落ちぶれていった人族と聞く」
ニドルはケルトン族について知っているようだった。
温泉にケルトン族がやってきた。
「エルフを渡してもらおうか」
「知らん」
ニドルはケルトン族を追い返そうとした。
「俺たちは、その男と女を知っている。ここに居なければ聞き出すまでだ」
男たちはリンメイとトリルを見て言った。
リンメイは腹をくくって
「私が相手をする」
と前に出た。
薬草採取に行って、ケルトン族に出くわしたのがきっかけだったが、まさか温泉に来て魔物ではなく、人族を相手にするようになるとは思っていなかった。これも自分の運命と割り切るしかなかった。
ケルトン族は魔法陣を出しはじめた。
リンメイは彼らが魔法を放つまで、多少時間が必要だと知り
「チェインライトニング!」
連鎖電撃魔法を彼らに放った。
「ぎゃあ・・」
リンメイのチェインライトニングは強力だった。レベル100の魔法攻撃だ。
その力に、ニドルもトリルも驚いていた。
「これまでとは・・さすがSクラスの魔術師だ」
ケルトン族は去っていった。
だが、翌日。ケルトン族はまたやってきた。昨日より人数も多くなっている。
温泉に警備の仕事でやってきているハンターたちは、そんなケルトン族にビビっていた。まさか魔物ではなく、人族を相手にすることになろうとは思っていなかったからだ。
「あなたたちは、温泉を守ってください」
リンメイは一人でケルトン族を相手にする覚悟を決めた。が、こんな時こそ、雅則たちが居てくれたら心強いのだが・・と思ってしまった。
森で仙人を名乗る異世界から来たという男に魔術と武術を習い、山賊やオーグを相手にしたこともあった。そしてレベルも上がり、今は100にもなった。
「ここで死ぬなら、それも運命。・・私は2度もハーロックさんたちに助けられた。それなのに・・ここまで逃げてしまった」
その恩返しを、まだしていない事に気づいた。
「無駄死にはしない」
リンメイは気を高めた。
ケルトン族は、リンメイに魔法陣を出し始めた。
そこに
「俺が相手をしてやる」
と男が現われた。
「あなたは魔王」
ニドルが現われた男を見て、思わず声を上げた。
リンメイも見覚えのある男だった。以前に悠介たちとエランデル国に来て、オーグ討伐キャンペーンに参加したとき、カリア村で警備しているといっていた男だ。
「温泉に入りに来たら、こんなことになっているとは。まだ状況はつかめていないが、ここはオーナーたちを守るべきところかなと思って」
「なんだ。おまえは」
ケルトン族の男が突然現われた男に聞いた。
「俺は女神からこの世界に転移されてきた魔王ヤマトシゲル。お前たちは魔物には見えないが、同じようなものだろう」
「俺たちを魔物扱いするなど、ふざけたやろうだ」
男たちがシゲルに魔法陣を出すと、シゲルは聖剣をかざして一振りし、男たちをはじき飛ばした。
「聖剣ミツルギ。女神からもらった剣だ。美緒さんの聖剣なら、やつらを一気に切り刻むだろうが、俺のは中古品らしいからな」
とシゲルは切れ味の悪さに残念がった。
ケルトン族は逃げるように去っていった。
リンメイは突然のシゲル登場に唖然としていた。
「魔王ヤマトシゲルさん。また助けてもらいました」
ニドルがシゲルに礼を言った。
「魔王の仕事ですから」
シゲルは照れ笑いをしていた。それからリンメイを見て
「もしかしてオーグ討伐キャンペーンで一緒だった・・」
と思い出して聞いた。
「ええ・・」
リンメイは気まずそうに思った。まさかこんなところで出会うとは。・・しかし助かったのは事実だった。
「じゃあ、悠介さんか美緒さんも・・」
「いえ・・ここに居るのは私ひとりです」
シゲルはリンメイの顔から何かあると思った。が、問い詰めることはしなかった。
シゲルはニドルから事情を聞いて、エルフのクルスを見た。
「俺も治癒魔法は使えないから・・でも、この辺りでエルフとはめずらしい」
「クハノウ領から追われて出てきたんです。シームア領のダマリン様を頼って」
クルスがこたえた。
「ダマリン様?・・知らないな」
「ハーロックさんなら知っているかも。ああ、口に出してはいけないことだった」
ニドルが慌てて口を手で塞いだ。
「ハーロックって誰?」
シゲルも雅則とは、まだ対面していない。知っているのは美緒と悠介だった。
「(ハーロックさんは)あなたのように強い人です」
とニドルはシゲルに言った。
リンメイはニドルがハーロックを知っていると知って驚いた。だが自分も雅則の館に居たことはまだ言ってないし、言うつもりもなかった。置手紙を残して出て来た身だった。
そしてニドルがハーロックを知っているということは、シゲルが口にした「美緒」は雅則と一緒に住んでいる美緒なのだろうと思った。
「オーナー、俺も警備員に雇ってもらえませんか?」
シゲルがニドルに頼んでいた。
「いいんですか?」
「カリア村には温泉にしばらく行ってきたいと行って出て来たので」
「助かります」
シゲルも温泉を守ることにした。




