4-2.トリルとクルス
温泉にニドルの知り合いと思われる男がやってきた。
「リンメイ、紹介しておく。甥のトリルだ。薬師でもあり魔術師でもある」
ニドルから言われた。
「くすし?・・」
「薬を作る仕事をしているんだ、薬草からね。よろしくリンメイさん」
リンメイはトリルから挨拶された。
「僕は年に何回か、こっちの山に薬草を取りに来ているんだ。でも最近は魔獣が現われる確立が高いから止めた方がいいとおじさんに言われていたところなんだ。でもこの辺りの山から取れる薬草はとても貴重でね。治癒魔法を使えない人たちには重宝するんだ。おじさんからリンメイさんは強いと聞いたから、もしよかったら薬草採りの手伝いをしてもらえないかなと・・」
トリルから頼まれて、リンメイはとまどった。
「オーナーがいいと言えば、私でよければお手伝いしますけど」
すると
「薬はないと困るからね。私もトリルの作ってくれる薬を重宝している。リンメイもたまには温泉警備の仕事は休んで自由な時間を持つことを勧める。温泉のほうは他にハンターも居るから・・ただ、どんな魔物が居るかわからないから無理には頼まないけどね」
とニドルから言われた。
「リンメイさんが一緒に山に入ってくれれば心強い。おじさんからSクラスのハンターと聞いたから」
どうやら、ニドルがトリルの相談に乗ったようだった。
「でも、私は薬草はおろか、何もわかりません」
「それは大丈夫。薬草は僕が採取するから。リンメイさんには無事に薬草を採ってこられるよう、僕を守ってくれれば・・」
「わかりました」
リンメイはトリルと薬草取りに山に入っていった。時々魔物が現われ、襲ってきたが、容易に倒せたので山の奥へと入っていった。
「リンメイさんは本当に強いですね」
「魔術と武術を幼い頃から磨いてきたから・・」
「そうなんだ。・・どうしてエランデルへ? しかもこんな街より危険な山の麓で仕事を・・」
「ワリキュールにも冒険者協会があって、そこでも冒険者の仕事は出来るけど、ワリキュールは街に結界が張られているから安全で、その分、街を離れないと危険な仕事はないの」
「そうなんだ。わざわざ危険な仕事を?」
「そのほうが報酬も高いし・・」
「そうか」
リンメイは思い付く理由を口にしたが、それらは本当の理由ではない。リンメイは他人に話せるような生き方はしてこなかった。温泉に警備の仕事をしているのも、過去から逃げているに過ぎない。
「採りたい薬草はこの先にあると思います。それを見つけたらそこまでにしましょう」
「はい」
リンメイには薬草の知識はないから探すのは容易ではない。トリルが目的の薬草を見つけて篭に入れ始めた。
「もう少し、奥まで行っていいですか? 折角だがら篭の半分は取っていきたいので」
「はい」
トリルは薬草採りに夢中で、リンメイが周りを警戒した。すると何かが近づいてくるのを発見した。
「え?あれ、魔物?」
どう見ても凶暴な魔物には見えない。それは近づいてきながら倒れた。トリルは駆け寄っていって
「やっぱりエルフだ」
と言った。
リンメイも駆け寄って行って、それを確認した。一瞬、人族と見間違うほどの容姿をしていた。が、よく見ると耳の形が人族とは違う。リンメイはエルフを見るのははじめてだった。
「怪我をしている。しっかり」
トリルはエルフに声をかけた。
「ケルトン族が・・」
エルフは傷を負っていた。気づかなかったが、エルフは人族の言葉を発している。リンメイは言語翻訳魔法を使っていない。
「手当てをしないと、僕は薬師だけど治癒魔法は使えないからな」
とトリルは困った顔をした。
「エルフって・・」
リンメイもエルフが現れたことと、目の前の状況に困惑した。
そこに数人の男たちが現われた。
「見つけた。俺の獲物だ」
と一人の男がにんまりしながら言った。
「みんなで追いかけてきたんだ。じゃんけんしようぜ」
「獲物ってどういうことだ!」
トリルが男たちに怒鳴るように聞いた。穏健そうな性格に思っていたトリルが彼らに怒りを露にするように怒鳴った。
「エルフだから獲物なんだよ。エルフ狩りで遊んでいるんじゃないか。さあ、そのエルフをよこすんだ」
「エルフ狩りって、酷いことをするな」
「エルフは人族じゃない。魔獣を狩るのも飽きてきたかなら。さあよこせ」
「渡さない」
どうみてもまともに戦えばトリルの敵いそうな男たちではない。しかしトリルは頑なにエルフを渡すのを拒んだ。
「なに? お前もエルフか?」
「僕は人族だ」
「だったらよこせ」
「駄目だ、渡さない」
「ふざけたことを言っていると、人族でも容赦しないぞ」
トリルは襲い掛かる男に
「電撃」
を浴びせた。
だがトリルのライトニングは、相手を気絶させられる力はないようだった。
「ふざけた魔術師だ。俺たちも魔法は使える」
男たちがトリルに魔法攻撃をしようとすると、リンメイは咄嗟に結界で防いだ。
「邪魔するな女。お前も魔法を使えるのか」
「私が相手になる」
リンメイは男たちに構えた。
まだ状況は把握出来ていないが、トリルを守るためについてきた。
「ほう。ケルトン族の俺たちを敵にするだと?楽しめそうだ」
「ケルトン族?」
リンメイには彼らが人族にしか見えなかった。とすれば魔族なのか。雅則と暮らしているリサやイビルが人間体に変異出来る魔族であることを思い出した。
男たちが身体の前に魔法陣を出し始めた。リンメイは飛び上がって男たちに蹴りを入れた。さらに彼らに衝撃弾を浴びせた。
「一旦、退散だ」
リンメイの強さに男たちは逃げるように去っていった。
「リンメイさん。ありがとう」
「どうしてエルフを助けたの?」
「え?リンメイさんなら見殺しにする?」
そう言われてリンメイは言葉がなかった。
「僕は傷ついたものが人族でなくても助けるよ」
トリルはそう言ってエルフの身体を起こし
「僕はエルフをおぶって行くから、薬草を入れた篭を持ってきてくれないかな」
とリンメイに言った。するとエルフが
「迷惑をかけるからここでいいです」
とトリルに言った。
「手当てをしないと」
「助けてくれるの?」
「もちろんだ」
「ありがとう」
「僕の名前はトリル。きみの名前は?」
「・・クルス。トルエン族のエルフ」
エルフは、そうこたえた。
「わかった」
「エルフを連れて行って大丈夫なの?」
リンメイがトリルに聞くと
「公には出来ないか。・・頭から服を被せて隠して。僕が借りている部屋に連れて行く。そのあとは、それから考える」
とトリルがこたえた。
「オーナーのニドルさんにもわからないように?」
「おじさんには話すよ。一緒にかくまってもらう」
リンメイはこういう人族もいるんだと、あらためて思った。アレイン家のオルコックも人族以外を下等動物だと思っている。種族を超えて『共存』を口にしている、異世界から来たらしい雅則たちは特別だと思っている。
◇
「なに、エルフを?」
温泉に戻ると、ニドルはトリルがエルフを抱えてやってきたので驚いていた。
「傷ついている。助けてやりたい」
「わかった」
「わかったって、オーナー」
リンメイはニドルの気持ちをまだ理解出来ないでいた。
「人族がエルフを助けるのはおかしいか? 人族が住む土地を求めて元居た生き物たちを山に追いやったり殺したり・・そうして人族は住む場所をつくり、国を作ってきた」
ニドルが悲しそうな、怒りに満ちた表情を浮かべて話した。
確かにスラーレン法国もそうして築いた国らしいことをリンメイも思い出した。
「言っておくが、私は人族だ。ただ同じ人族でも、他の生き物を粗末に思ったり扱ったりする人族は嫌いなんだ。それがエルフであれ、魔族であってもだ」
「共存がいいと?・・」
リンメイは思わず『共存』という語句を口にしていた。
「ん?ああ、そうだな。・・その言葉・・前にも聞いたことがある。温泉に入りに来た客だったか」
それは雅則だった。ニドルは雅則の『共存』と言う言葉に特別な思いを抱いていた。リンメイも雅則の『共存』という言葉を思い出していた。
「おじさん。僕はまだポーションを作れるまでになっていない。治癒魔法も使えない。でも彼を助けたい」
トリルの言葉に
「それは私も同じだが・・。客に助けを求めるわけにはいかない」
とニドルは悩んだ。客はみんな人族だ。エルフに危害を与えるような人族は、そう居ないと思うが、異種族を受け入れる人族も、そう多くはない。
「とりあえず、手持ちの薬を与えてみる。薬草から作った薬で、以前につくって携帯していたものだ」
とトリルは自分で作った薬を出した。
クルスは
「僕なんかのために貴重なものを・・」
と拒否した。
「気にしないで飲んで。薬はまた作ればいいんだから」
ユニが水を持って来た。
「ありがとう。ユニ」
ニドルが水を受け取った。リンメイはみんなが種別を超えて助け合う場面を垣間見るようだった。




