4-1.心の旅
スラーレン法国に生まれ、魔術と武術を身につけたリンメイは、スラーレン法国の王族たちにいいように使われて、政にいやけをさし、新街・エドワールで冒険者として新たな生き方をはじめた。
魔獣に襲われて雅則たちに助けられたリンメイは、雅則たち館に住むいろんなものたちと暮らしはじめる。
スラーレン御三家の陰謀騒動で、雅則が貴族街を壊滅状態にしたことに苦悩し、リンメイは館を出てエランデル国に向かった。
◇
リンメイは新街・エドワールで冒険者の仕事をしていたことがあったが、今は雅則がエドワールの火力発電所建設などに関わっているため、顔を合わせずらいこともあり、エレンデル国に行ってみることにした。
エランデル国は何度か行ったことがあり、住みやすい国でもあった。エランデル国には冒険者協会に似たギルド協会があり、リンメイもそこでSクラスのギルドハンターのプレートをもらっている。なのでギルドハンターとして仕事をすれば、そこで暮らしていける。冒険者やギルドハンターとして稼ぐのが自分には合っている。
しかし、ギルド協会の職員であるナルーシャが、雅則とも親しいので、来たことをナルーシャに知られたくないこともあり、ギルド協会で仕事を見つけるのは避けたいと思っている。
リンメイはSL列車でエランデル国のアリシクル駅に向かいながら、エランデルに着いたらどうしようか悩んでいた。
この列車にも警護のための冒険者が何人か乗り込んでいる。列車が魔獣たちに襲われる危険があるからだ。
リンメイは一般乗客として乗り込んでいるので、魔獣などが現れても関わるつもりはない。ただ、冒険者たちのレベルはそう高くないだろうから、いざというときは力を貸すつもりではいる。
エランデル国に行くと、いつも利用している宿泊場所は飯店『ハナ』だった。そこの娘のユリにも顔を覚えられているので、そこでの宿泊も避けたい。
どうしようか悩みながらアリシクル駅に着くと、チラシを見つけた。
「警備員求む。住み込み可。エランデル温泉ロッテ荘・・」
ギルド協会のナルーシャからも温泉を勧められたことがあった。しかしまだ行ったことはない。温泉が何なのかもわからない。
街から温泉行の馬車が出ているのを知った。温泉はエランデル国とワリキュール王国が飛行船による空路とSL鉄道による陸路の往来が出来るようになったため、入浴客も増えているらしい。馬車の乗客もそれなりに居る。
リンメイは温泉行きの馬車で温泉に向かった。
温泉は山の麓にあるので、途中に魔物が出ることもあるらしい。そのため、安易に行き来出来ないそうだ。そのためハンターも御者台に乗って警護している。
温泉に向かっていると
「フライアントラーだ」
と御者が前方に飛び蟻を発見した。ハンターが魔法の矢で襲ってくる飛び蟻を落としていった。リンメイはハンターに任せておけば安心だと馬車の中から眺めていた。
温泉に着くとリンメイは
「警備のチラシを見て来たんですが」
と従業員らしき者に声をかけ、オーナーのニドルのところに案内された。
リンメイはニドルから
「警備の仕事をしたいって?」
と聞かれた。
「はい」
「ハンターの経験はあるかな?」
「ああ、あります。オーグの討伐キャンペーンにも3度、参加しました」
「ほう、それは頼もしい。・・するとギルド協会で魔力検査をしたんだろう?レベルは?」
「100です」
そう答えるとニドルは驚いた顔をして
「100?・・間違いないか?」
と聞き返した。
リンメイはギルド協会からもらったSプレートをニドルに見せた。
「Sプレート・・めったに見ないものだ。間違いなさそうだね。いや疑ったわけではない。以前にもレベルの高い女性ハンターが来て、5日ほど警備の仕事をしてくれたことがあったからね」
それはスラーレンの魔術師のマユナのことだろうと思った。館で雅則たちがエランデルに現れたマユナの話をしていたのを思い出した。が、リンメイはマユナと対面したことはない。
「ギルド協会を通してきたのではないんですが」
「かまわんよ。それで、どのくらい働いてくれる?」
ニドルは嬉しい質問をしてくれた。出来れば長く働きたい。というより自分の居場所を探してエランデル国に来たのだ。
「出来れば長く・・お願いします」
そう答えると、ニドルはリンメイの顔をじっくり見て
「何処から来た。エランデルの者ではなさそうだな」
と聞いた。
リンメイはちょっと迷って
「ワリキュールから来ました」
とこたえた。スラーレン法国出身だが、それを口にする気はなかった。
「そうか。訳ありかな? まあいいさ。じゃあ今日から住み込みで働いてくれるのかな?」
「はい。よろしくお願いします」
「温泉客も増えたが、魔物も増えてきてね。住み込みで長く働いてくれる人が欲しかったんだ。大抵は長くても5日から10日で辞めてしまう」
ニドルは話を替えるように
「ワリキュールには温泉はないと客から聞いているが。本当なのかな? 私はエランデルから出たことがないからよその国のことはわからないんだ。客がしてくれるいろいろな話を楽しみにしている」
と穏やかな顔になって話しかけてきた。
「ない・・ですね。私もまだ温泉を知りません」
ワリキュールに居たことはあるが、ワリキュールをよくわかっているわけではない。出来れば身上について色々聞かれたくはなかった。
「そうか。温泉を知らないで来たのか」
「はい・・」
温泉に入りに来たわけではなく、警護に来たのだし。
リンメイは浴場に案内された。入り口は男性用と女性用があった。
「今は入浴客は居ないようだから中を案内しよう。もっとも従業員や私はどこも出入り自由だがな」
脱衣所も浴室も大きかった。リンメイは雅則たちの館の浴場を思い出した。ここほどではないが、館の浴場も脱衣所も浴室も大きかった。ただ、館の浴場は一つだけで、男女の別はなかった。
「ここより上にも別の温泉場をつくった。そこには混浴のお風呂もな。だが、ここより周りに魔物が出やすくて、営業はあきらめた。今は魔物たちのいい温泉場になっているはずだ」
ニドルは、そう言って笑った。
ちなみにリンメイは『混浴』も知らない。館ではソリアたちは雅則たち異性と一緒にお風呂に入るのを避けていた。
「大きいだけはない。お湯の質も違う。ただの温かい湯ではないんだ。あとで入ってみるとよくわかる」
「はい」
その後、リンメイは従業員のユニを紹介された。
「ユニは魔法は使えないし、腕力もない。従業員として働いてもらっている。リンメイの部屋はユニの隣の空いている部屋を使ってもらおう。女同士、何でも彼女に相談するといい」
「はい。ユニさん、よろしく」
「呼び捨て手でいいですよ。よろしくお願いします」
リンメイはユニに聞いてみた。
「ユニ・・は、何処生まれ?」
「私はエランデル。街はそれなりに大きいけど、仕事はそう見つからないの。本当はここも近くに魔獣が出りもするから、お客さんが増えて仕事はあるんだけど、ここで働くのをためらう人も居るの。オーナーがギルド協会にハンターを警備に雇ったりもしているんだけど、長くここで働く人はいないの」
「そう」
「リンメイ・・さんは何処から?」
「私は・・ワリキュールから来たの。私も呼び捨てでいいわ」
リンメイはスラーレン法国出身であることを口にしたくなかった。スラーレン法国で生まれ、育ったが今はいい思い出はなく、忘れたいことばかりだった。
かといってワリキュールで思い出すのは雅則たちの館だった。いろんな種族が居て大勢で暮らす共同生活もはじめての経験だった。はじめは慣れなかったが、みんないい人ばかりだった。
◇
オーナーのニドルは、リンメイはもちろん、働いている従業員に細かいことは言わない。みんな与えられた仕事を勤勉にこなしている。
リンメイの仕事は温泉に近づく魔獣たちを追い払うか始末すること。従業員はもちろん、客が安心して温泉を楽しめるように温泉の周りを巡回している。専属の警備員はリンメイだけだが、ハンターが日雇いで警備に来ているので、リンメイの仕事は楽だ。凶暴な魔獣は滅多に温泉に近づいてこない。
部屋と食事も与えられ、温泉も自由に入れる。それでいて手当も悪くない。
リンメイはニドルに
「こんな仕事でいいんですか?」
と聞いてみた。
「もちろん。リンメイが来てくれたお陰で、私も安心して仕事が出来ている。数日で辞めるハンターより雇い甲斐がある」
「ならいいんですけど」
リンメイはニドルの経営する温泉で新しい生き方を、また見出そうとしていた。




