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3-9.オルコック・アレイン・スラーレン

 オルコックはドルインたち貴族が宮殿を襲うことを知らなかった。そして貴族街は極大魔法『流星雨』によって壊滅的打撃を受けた。

 しかしオルコックの住むアレイン家は、リンメイが雅則に助けてくれるように懇願して被害を免れた。もちろん、オルコックは知らないことだった。

 そして戻ってきたマーラは自室に篭ってしまった。


 しばらくしてまた飛行船が飛んできた。

 飛行船は宮殿の広場に着陸した。そしてタラップを降りてきたのはワリキュール王国の衛兵隊王宮警備隊の10名だった。

「隊長、スラーレン側に襲われることはないでよね」

と同行してきた隊員が隊長のトニールに聞いた。

「貴族街は壊滅し、軍もないらしいから心配ないだろう」

 トニールたちは貴族街で被害を免れたアレイン家の館に向かった。


 そしてオルコックは

「だんなさま、ワリキュール王国の衛兵が来ました」

と執事から言われた。

 オルコックは不安を抱いた。自分の身に危険を感じたからだ。

 しかしオルコックは覚悟を決めてワリキュール王国の衛兵を館に招き入れた。10名ほどの衛兵隊がやってきた。

「私がオルコック・アレイン・スラーレンです」

 挨拶をすると

「私はワリキュール王国衛兵隊王宮警備隊のトニールと申します。今日はオルコック公爵にワリキュール国への招待状を持ってきました」

とトニールが挨拶した。

「招待状?」

「一度、ワリキュール王国を見てもらいたいことと、我が国のハンス侯爵がお会いしたいとのことです」

「それだけですか?」

「はい。5日ほど後に、飛行船で迎えにきます。以上」


 ワリキュール王国の衛兵隊は、戻っていった。

「首を洗って待っていろということか。・・覚悟を決めるようだな」

 オルコックは自室に篭るマーラの部屋のドアをノックした。

「マーラ。私はワリキュール王国に呼ばれることになった。生きて帰れるかわからない。それだけ言っておく」

 ドアが開いてマーラが顔を見せた。

「お父様。私のせいでこんなことに・・」

「お前を責めるつもりはない。全て私の不徳のいたらなさからだ」

 オルコックは、ワリキュールから迎えが来るのを覚悟して待っていた。


 ◇


 そして飛行船が飛んできた。

 オルコックは以前にスラーレンに飛行船が飛んできたとき、遠くから見てはいるが、飛行船に乗るのははじめてだ。空から地上を眺めるのも初めてだ。その地上に広がる景色を見て感動する者も居るだろう。しかしオルコックの心境はそれどころではない。なぜ自分はワリキュールに呼ばれるのか。詳細は聞かされていない。

 思い当たるのは、娘のマーラの件だ。マーラは父親であるオルコックに内緒で、とんでもない計画を遂行しようとしていた。それは、ワリキュールの国王に嫁いで、ワリキュールをスラーレンの王族で固めること、または魔王ヒュンケルをスラーレンの宮殿から追い出して、スラーレン王家を復活させることだった。

 しかしいずれも、計画は失敗し、魔王ハーロックの怒りに触れてスラーレンの貴族街を壊滅させられた。

 マーラがそのような計画を思い立ったのは、心あたりがある。スラーレン法国がプロティナ女王から魔王ヒュンケルに玉座に座る者が変わるとき、王室会議が開かれ、そこに出席したオルコックは、それが魔王ハーロックの働きによるものだったことを知った。

 そして今回、オルコックはワリキュールに招かれるにあたり、その理由や詳しいことは何も教えてもらっていない。


 オルコックは宮殿の広場に足を運んだ。

 飛行船が広場に到着し、タラップが下ろされた。そして降りてきたのはリンメイだった。

「リンメイ・・」

「お迎えにあがりました」

「どうしてリンメイが・・」

「私が迎えに行ったほうが、オルコック様も安心するだろうとの配慮です」

 オルコックはリンメイが添乗してきたのに驚き、ちょっと安堵するものがあった。

「リンメイが迎えに来てくれるとは思わなかった」

「私はオルコック様を迎えに行くように言われてきただけです」

 リンメイとオルコックが飛行船に乗りこむと、飛行船は空高く飛び上がった。

 オルコックは息を吞んだ。空に上がるのははじめてなのだろう。リンメイもはじめて飛行船に乗って空に上がったときは緊張した。


 飛行船は焼け野原になった貴族街を眼下にワリキュール国に向かって飛んだ。

「リンメイはワリキュールに住んでいるのか」

「はい。今はハーロック様の館に一緒に・・」

「魔王と?・・まさかリンメイは魔王側についているのか?」

 オルコックはハーロックを魔王と認識している。娘のマーラにはハーロックはエランデル国の伯爵と伝えているはず。しかしオルコックは、そのことを知らないのか。マーラが何を企んでいたのかは、父のオルコックにも内緒だったのだろうとリンメイは推察した。

「詳しいことはワリキュールに行って確かめてください」

 リンメイは詳しい話をオルコックにしなかった。雅則からも、オルコックをスラーレン法国の国王に任命するかの、面談を計画しているかは教えないように言われている。

 オルコックも不安だった。リンメイは詳しい話をしてくれない。

 ワリキュールの宮殿に行ったら、叱責されるのか、いや、リンメイが一緒と言うことは、そう悪い話ではないだろうとも思う。ほんとうにただの招待なのだろうか。


 ◇


 数時間ほどでワリキュールの街が見えてきた。スラーレン法国の街並みも負けてはいなかったが、今は貴族街のエリアはほとんどが壊滅し、見る影もない。

 飛行船が降下していくと、煙を出しながら動いているものが見えた。オルコックは

「あれは何?」

とリンメイに聞いた。

「SLというものです。線路の上を走り、多くの人を乗せて移動することが出来ます」

「ワリキュールではそんなものもあるんだ」

「ワリキュールの街を一周するものと、エランデル国と繋げたものもあります」

 オルコックはワリキュールが想像以上に文化が進んでる印象を受けた。そして

「ハーロック様たちが作ったらしいです」

とリンメイに言われて

「魔王が?」

とオルコックは驚いた。

 広い空き地のような場所が見えてきた。

「これが空港?・・」

 飛行船も何機かあった。かつては軍隊を持ち、飛行船も戦争用に開発されたものだったと聞いて居る。それが今は他国との往来に利用している。

 ワリキュール国にも今は軍隊はない。平和な街らしい。

 飛行船が空港に着陸し、タラップを降りていくと、空港から宮殿まで向うのに何かが向ってくる。馬車ではない。

「自動車という乗り物です」

 リンメイが教えてくれる。

 オルコックは言葉がなかった。スラーレンは今でも乗り物と言えば馬車だ。自動車は馬車の荷台が馬なしで自力で走っていくような感じだった。聞き慣れないエンジンの音を聞きながら自動車に乗せられて宮殿に向った。

 そして宮殿の中に入ると、不思議な明かりが・・。

「あれは魔法の灯りか?」

 オルコックは思わずリンメイに聞いた。

「いえ、電気の灯りだそうです」

「電気?・・魔法ではないのか」

「はい。詳しいことは私もわかりません。ハーロック様たちが作りました。先ほどの自動車もハーロック様たちが」

「魔王が?・・・」

 それにリンメイは何とこたえていいかわからず黙った。


 オルコックは玉座には通されず、控え室に通された。控え室と言っても幾つもあり、オルコックが通された部屋は100畳もある部屋だった。

 そこにイビルがメイドの格好をして待っていて

「まずはここで一休みください。飲み物も用意してお待ちしていました」

とオルコックに笑みを浮かべながら言った。イビルもオルコックが今後どんな処遇になるのかを楽しみにしていた。雅則に反感を持たれれば楽しい結果が待っている。

「リンメイ、どうなっている」

 オルコックはずっと戸惑っていた。

「オルコックさま、心配は要りません。私もついています」

「・・わかった」

 しばらく待っていると男が入ってきた。

「オルコック殿、公爵と聞いていますが、間違いありませんか?」

「そうだが・・」

「私はワルキュール国王に仕える侯爵のハンスです」

 そう挨拶されて、オルコックは思い出した。確かにハンス侯爵が会いたいと言っていると來廷したワリキュールの衛兵が言っていた。

「はじめまして・・招待をいただいて、何というか・・」

 オルコックはハンス侯爵と聞いて立ち上がり直立不動になった。

「突然の招待で驚かれたでしょうか。気楽に願います」

「はい」

 オルコックは肩の力を抜いた。

「今回、国王に面会させる予定はありません」

「え?・・」

「会っていただきたいのはハーロック伯爵です」

「ハーロック伯爵?・・私はハーロックは魔王と聞いているが・・」

 オルコックはまだ理解出来ず、とまどいを隠せなかった。

「ハーロック伯爵は、魔王なんかではありません。そしてここワリキュールの貴族ではなく、姉妹国であるエランデル国の伯爵なのです」

「・・・」

「理解には時間がかかると思いますが、今のワリキュールはハーロック伯爵たちによって目ざましい進化を遂げているのです」

「空から見たSLとかいう乗り物や電気という明かりなどですか?・・」

「その通りです。オルコック殿が聞いている魔王ハーロックというのは仮の名。魔王のような力を持っているということです」

「スラーレンの貴族街を焼け野原にしたのは魔王ハーロックではないのですか?そのハーロック伯爵が魔王のような力を持つ魔術師マジシャンということですか?」

「その通りです。それだけ途轍もない力を持っているのです」

「・・・ワリキュールから軍隊が無くなったのも、そのハーロック・・伯爵の力で?」

「その通りです。かつての国王は、意に沿わない貴族を粛清し、姉妹国でもあるイミナス国やエランデル国にも進攻した将軍でした。それをハーロック伯爵たちが倒し、ワリキュールを救ってくれたんです」

「聞けば聞くほど、想像している魔王よりも強い力を持った者・・という印象を受けます」

「その通りなのです」

「ハーロック・・伯爵についてはわかってきました。・・それで、どうして私がここに呼ばれたのでしょう」

「ハーロック伯爵は、スラーレン法国を憂いています。何とかしたいと思っています。そのためにオルコック公爵に相談したいそうです」

「わたしに?・・貴族街を粉々にしたハーロック・・伯爵がスラーレンを憂いている?」

「はい」

「それを信じろと・・」

「それはリンメイも同じ気持ち。ハーロック伯爵は、スラーレン法国をマルケドーラ帝国のように潰したくないのです。スラーレンを救うのに、リンメイがオルコック公爵を押してくれています」

「リンメイが・・」

「オルコック様は、私の父の恩人でもあります。なのでオルコック様のアレイン家は見逃してくれと、ハーロック伯爵に頼みました」

 リンメイはオルコックに憂いの目で言った。

「そういうことだったのか。・・私が至らなかったばかりに、リンメイの父、ブライアンを内政の巻き添えにしてしまった。リンメイには済まないと思っている」

 オルコックからリンメイへの謝罪は、その一言だけだった。



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