3-10.面談
雅則はオルコックとの面談の日、イビルにも
「宮殿内でメイド服を着てもらえないか?」
と頼んだ。
「どういうこと?」
「スラーレンのシズを思い出して考えたんだけど、オルコックを迎えるとき、イビルも魔術師として表に出ていたほうがいいと思って。名案だろう?」
「私にメイド服を着させたいだけなんじゃないの?」
「俺は悠介とは違う。でも・・イビルも美人なんだから似合うんじゃないか?」
「私がおだてにのると思っているの? いいわよ」
「のるのかよ」
雅則は思わず突っ込んだ。
◇
「話は苦手なんだけど」
雅則は貴族らしい正装をして、ひとつ深呼吸した。今から雅則の苦手なことをするためだ。それはオルコックとの面談だ。
普段、宮殿の監視を頼んでいるイビルにもメイド服を着せて対応させているが
「孫にも衣装っていうんじゃなかった?人族は」
と雅則はイビルに言われてしまった。
「イビルも人族の言葉には興味があるようだな。しかし、ワリキュールの人族はそういうこと言うか?」
「ハーロックが教えてくれたんじゃない。いつだったか忘れたけど」
「そうか。・・俺も覚えてないけど」
「話がこじれたらどうするの?」
「その時はその時だ。ヒュンケルと相談しよう」
ずぼらな性格でもある雅則は対面で話をするのも苦手だ。しかし今日は今後のスラーレンにとって重要な面談を行わなければならない。
雅則はオルコックが待つ応接室に向った。いつもなら好き勝手な行動をとっている雅則も、緊張が解けず、足も重く感じる。
◇
応接室にオルコックとリンメイ、それにハンスを待たせていた。
「ハーロック伯爵だ」
雅則が挨拶すると、オルコックは「え?」と言う顔をした。
「あなたがハーロック伯爵?」
凛々しさは全く感じなく、そこいらの若造が貴族の服を着せ替え人形のように着ているような印象だった。
「ただのハーロックでいいよ。話は苦手だし」
雅則は、もう疲れたような顔をして椅子に座った。
「ほんとうにあなたが貴族街を潰したんですか」
オルコックは信じられない顔で雅則に聞いた。貴族街を極大魔法でオルコックの館周辺のみ残して焼け野原にした。相当の上位魔術師だと思っていた。雅則の登場は、そんなオルコックの意表を突いた。
「そうだ。・・マルケドーラ帝国も俺が潰した。そういう力が俺に備わったようだ。やっぱり怒っているかな?」
「それは・・貴族街には宮殿を襲った兵以外に何の罪もない女、子供も居たんです」
「そうだよね。それに関しては何も言い訳は出来ないよね」
「あなたには人の心があるんですか」
想定していなかったオルコックの言葉。即座に反論は出来ない。
「・・ない・・と言っておこう。どんなに言い訳しても多くの人を犠牲にしたのは間違いない」
雅則にそう言われると、オルコックは何も言えなかった。
「しかし、ことの発端はお前の娘のマーラがお前にも秘密に2つの計画を実行したことだ」
今度は雅則が言い返した。
「それはそうだが・・宮殿を襲ったのはそこには魔王や魔族しか居なかったから・・」
オルコックの言葉は、雅則に「やっぱり」と思わせるに十分だった。
「魔王や魔族なら殺しても構わないと?人族でなければ殺してもいいということか」
雅則は単刀直入にオルコックに聞いた。
「人族は魔王や魔族とは違う」
オルコックははっきり言い切った。
「だから、俺は貴族街を潰した」
「え?・・」
「この世界は人族以外に色んな生き物がいる。魔族しかり、魔物しかり、俺はそれらの生き物が共存して生きることがいいと思っている。だが、人族は他の生き物を殺したり山に追いやったりして居住範囲を広げてきた。スラーレンも周りに魔族や魔物が居るだろう。それらの命を奪って国を築いてきたんじゃないのか?」
「・・そう・・だと思う」
「自分たちの為に人族じゃないからと殺生するのが人の心なのか?」
雅則は、ちょっと質問がおかしかったか?とも思ったが、言いたいことは同じだ。
「・・・」
オルコックは反論するかと思ったが、言葉が出ないようだった。
「俺は、そういうものは、人族でも許せない」
「・・・」
「俺はスラーレンの兵軍が、姉妹国であるイミナスやエランデルに進攻して来たときも、容赦なく極大魔法で殲滅した。縁戚でもあるエランデルに進攻してきたイミナスを潰し、魔族に国を治めてもらった。それは人族が、身勝手に他国を奪おうとしたからだ。そしてスラーレンの国王を魔王にしたのは、マルケドーラ帝国からスラーレン法国を守るためだった。そのスラーレンの王族も身内で蹴落としあっているそうじゃないか。マーガレットがプロティナを玉座から降ろそうとしたり、お前の娘のマーラとブランド家のドルインが反旗を翻した」
そこまで言われるとオルコックは、さらに何も言えなかった。
「おまえは人族以外を虫けらのように思っているのか?・・もしそうなら・・俺はお前も人として認めない」
「・・・」
オルコックは反論出来なかった。雅則の言うように人族以外を虫けらと思っていると答えれば人として認めてもらえないだろう。またそうでなければ、他の生き物と共存出来るのか・・オルコックは今まで、そんなことは考えたこともなかった。
「リンメイには悪いが、俺はオルコックを国王に推挙することは出来ない」
雅則は席を立つとハンスに
「オルコックをスラーレンに戻せ。スラーレンを助ける気はない」
と言って応接室を後にした。
リンメイも
「わたしは・・オルコック様もそういう考えだとは知りませんでした」
とオルコックに言って応接室を出た。
◇
オルコックがスラーレン法国に戻され、館に戻るとマーラが
「無事戻ってこられて安心したわ」
と出迎えた。
だがオルコックは暗かった。
「ハーロック伯爵に会って来た」
「え?・・」
「私もスラーレン法国もハーロック伯爵に見捨てられた。・・今後、スラーレン法国はどうなっていくのか・・」
「お父様・・」
今度はオルコックが部屋に閉じこもってしまった。
「こういうときこそお父様が旗をあげないと・・だから頼りなく思っていたのよ・・このままではスラーレンの御三家すら無くなってしまうわ」
◇
リンメイは、また館の部屋に閉じこもった。雅則の考えが理解出来ないこともない。そしてオルコックが生き物を粗末に考えていることも改めて知った。
リンメイはシルビア、マクレス、プロティナに利用され、頼りにしようと思っていたオルコックの考え方にも疑問を持ってしまった。
リンメイは自分の心の整理もつかず、このまま館に居ても他の住人たちとうまくやっていけるか自信が持てなくなり、置き手書きを置いて館を出た。
しかし行く宛てはない。スラーレンに戻るつもりはない。エドワールで冒険者をしていたこともあるが、今は雅則が火力発電所建設などでワリキュールと行き来している。
リンメイはSL列車でエランデル国に向った。




