3-2.策略家
美緒が発案し、牧場主のスミスの協力で生み出したチーズやバター、ワイン。それに灯油に代わる明かりをつくる電気。それらスミス乳業、スミス醸造、スミス電気の事業をまとめて扱う総合商社・スミスコーポレーションを設立し、美緒はその副会長として経営の腕を振っている。
また悠介もSLや自動車を設計・開発し、それらは今のワリキュール王国の経済の発展に寄与するものになっている。
もともと軍需産業だった工業団地は、官民複合の工業団地として生まれ変わった。貴族とか平民とかの垣根を外して従業員を雇い、ワリキュールは急速に社会も変わりつつあった。それらはハーロック伯爵を名乗るようになった雅則や、悠介の力によるものだった。
そして雅則は新街・エドワールの事業にも携わるようになっていた。
◇
スラーレン法国のアレイン家の令嬢・マーラが成人になり親善大使としてワリキュールにやってきた。そのマーラは、ある計画を進めていたが、リンメイや雅則たちはまだ知る由もなく、日々の仕事に汗を流していた。
リンメイはジルとともにスミス電力会社で働いているが、そのマーラに仕えるソドルという男の名を聞いて、それが気になっていた。
「リンメイ。どうした。具合でも悪いのか?」
「え?ううん、何でもない」
リンメイは気をうつろにしてジルに心配された。
数日後、宮殿に出入りしているイビルが
「スラーレンから使者が来たわよ」
と雅則に報告した。
「国王からの依頼だって。何でもワリキュールに大使館を置かせてくれって」
「え?国王ってヒュンケルだよな」
ヒュンケルがワリキュールに大使館を?・・たしかにヒュンケルは、ワリキュールのSLには興味を示していた。
「今回は国王が使者に即答しないようにハンスが言ってあるみたいだけど」
「どうするの?」
美緒に言われて
「またスラーレンに行ってヒュンケルに話を聞いてくるか。でも俺は転移魔法は使えないから行くのも面倒なんだよなぁ」
雅則はハンスに頼んで飛行船を準備させた。そしてリサとコーネリアを連れてスラーレン法国に出かけた。
◇
飛行船を宮殿の広場に着地させると、ヒュンケルとシズが出迎えてくれた。シズはヒュンケルに仕えるデュラハンという魔族で、首を外せるのが特徴だ。普段はメイド服を着てヒュンケルの身の回りの世話をしている。
「また突然で悪いけど」
雅則が言うとヒュンケルは
「連絡の取りようがないから仕方ないだろう。私はそちらに転移出来るようになったがな。今回はゆっくりしていってもらえるのか?」
「いや、ワリキュールは何かと急がしい。新しく作った街に電気の明かりも灯さなければならない」
「電気事業も進めているのか。スラーレンはいまだ生活は魔法に頼っている」
「それは何処も同じ。だから電気を作ろうと思って」
「スラーレンもSLや自動車、電気などを取り入れれば、生活環境も変わる。のどかな暮らしも悪くはないがな」
「話は変わるが、こちらから親善大使がやってきたり大使館を建てたいと言ってきた」
「マーラのことだな。実はそれを含めてハーロックに相談しようと思っていたところだ」
「話を聞こう」
「もともとスラーレンは王族が法国として再建したが、そしてスラーレン御三家が居ることも話したが、大神官アスターの陰謀とマルケードラ帝国の進攻で窮地に立たされたスラーレンはハーロックの力を借りて立て直すことが出来た。しかし魔王である私が国王になったことで、人族である貴族は宮殿に寄り付かなくなった。だから貴族たちのことはほとんどわからないし、貴族たちは自分たちで何とかやっているようだ。
しかし御三家のアレイン家の娘、マーラが成人して、私に親善大使を務めさせてくれと言ってきた。むろん、拒否することではない。貴族たちが国のために働くのは願ってもないことだ。私がスラーレンにSLを走らせたという思いも聞いているようだ。なので親善大使としてワリキュールに行きたいと申し出てきたので、使者を送るときに親書も渡した。
そしてワリキュールから戻ったマーラが、今度はワリキュールに大使館を設けワリキュールと密に関係を縮めたいと言ってきた。私もそれはいいことだと思って承諾した次第だ。あとはワリキュールの返事待ちと言うことで」
「事情はわかった。少し相談しよう」
シズが応接室に入ってきて
「マーラが目通りを願ってきました」
とヒュンケルに言った。
「マーラが?・・来客中だから、あとにしてくれと伝えて」
「それが・・ハーロック伯爵が来られたなら挨拶をしたいと・・」
それを聞いた雅則は
「飛行船が飛んできたので、俺が来たと思ったのか。親善大使としてワリキュールに来て国王に謁見したときの話も聞いた。15歳にしては賢すぎる。ワリキュールについても調べているようだ。しかし俺のことはワリキュールでも秘密にしてあるはず。・・またランケルが口を滑らせたか。・・今日は国王に会いに来ただけだから面会は拒否すると伝えて」
とシズに言った。
「わかりました」
雅則は思い出したように
「マーラに同行してきたソドルという男を知っているか?」
とヒュンケルに聞いた。
「いや、貴族側のことは何もわからない」
「大神官だったアスターはアリオン神国の者だった。ソドルも怪しい気がする」
「覚えておこう。で、大使館の件はどうしたらいい?」
「マーラが何を考えているのか掴めないが、・・国同士が親交を深めるのは賛成だ。ヒュンケルもスラーレンにSLを走らせたりしたいんだろう?」
「あれはいい。乗せてもらって楽しかった」
「大使館の件は、王宮に許可を出すよう伝える」
「よろしく。スラーレンにもSLを走らせてみたい」
◇
その日、飛行船が飛んできたことはスラーレンの貴族たちも確認した。もちろんアレイン家のオルコックやマーラも。
「またワリキュールから誰か来たようだな」
そう口にした父のオルコックに
「もしかしたらハーロック伯爵かも」
と、マーラは部屋を出て行こうとした。
「何処へ行く?」
「宮殿に、ハーロック伯爵に会えるかも知れないわ」
マーラはワリキュール国王に謁見したとき、ハンスが
「ハーロック伯爵はエランデル国の伯爵です」
と言ったのを聞き逃さなかった。
マーラは宮殿に向かった。そして宮廷内の広場に降り立った飛行船を見て
「こんな大きな空飛ぶ船で、他国を攻めたことがあるのね」
とつぶやいた。
それから宮殿に入り、国王との謁見を申し出るとシズがやってきた。マーラはシズの正体をまだ知らないでいた。シズがメイド服なのも違和感があった。そしてシズに
「ハーロック伯爵が来たのなら、挨拶をしたいと思って」
と言うと、シズは
「聞いてきます」
と一旦下がり、戻ってくると
「ハーロック伯爵は、今日は国王に会いに来たので、他の者とは会わないそうです」
とマーラに伝えた。
仕方ない顔をしてアレイン家に戻ると、ソドルが姿を現した。
「ハーロック伯爵に面会を断られたわ」
「どのような人物なのでしょう」
「わからないけど。・・もしかしたら策略家かも知れない。ワリキュール王国の姉妹国であるエランデル国の伯爵というのも気になるわ」
「既にワリキュール王国にハユナとマユナを潜入させていますが、エランデル国についても調べさせましょう」
マーラはソドルが「まだ調べていないの?」とイラつく心を抑えて
「大使館はなんとしても設置しないと。そのほうが情報は得やすいから。エランデル国についても急いで」
とソドルに言った。




